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【羽生結弦の強さ】「発見ノートとは」スポーツメンタルコーチ鈴木颯人が紐解く海外アスリートの強さの秘密

日本のフィギュアスケート選手と聞いたらどの選手が最初に思い浮かぶでしょうか?
ほとんどの方が最初に思い浮かぶ選手といっても過言ではないのが、名実共に日本を代表する国民的アスリートの羽生結弦選手

数々の世界大会やオリンピックで優勝や金メダル獲得などの快挙を残し、ジュニアとシニアの主要国際大会を完全制覇する「スーパースラム」男子で初めて達成した言わずと知れた日本フィギュアスケート界のエースですが、何が彼をここまで導いてきたのでしょうか? そこにはとある手書きのノートの存在がありました。

今回は2022年北京冬季オリンピックも来年に迫る今、羽生選手の強さの秘訣についてスポーツメンタルコーチの鈴木颯人さんと紐解いて行きます。

対談者プロフィール

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・鈴木颯人 ~スポーツメンタルコーチ~
1983年、イギリス生まれの東京育ち。一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球、BMXレーシングなど、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。

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・畠山大樹 ~BMXレーシング元日本代表~
1992年、神奈川県寒川町出身。株式会社Winspired代表取締役社長。学生時代にBMXレーシングにて日本代表経験あり。BMXレーシングとマウンテンバイク4Xの競技経験を活かし、現在はアクションスポーツ業界の発展のため、アスリートマネジメントを始め、翻訳・通訳、スポーツライター、BMXスクール運営を多岐にわたり行っている。実妹がBMXプロレーサーの畠山紗英。

羽生選手の「発見ノート」について

鈴木) 今回は私からスタートさせてください。笑 羽生結弦選手について畠山くんはどんなイメージを持っていますか?

畠山) 僕の羽生選手のイメージは誠実で真面目という印象で、常に自分が上手くなるため勝つために努力し続けている選手に感じます。

鈴木) 私も全く同感です。誠実な印象は強いです。

畠山) 特に僕が凄いと感じた点が羽生選手の「発見ノート」の存在です。自分の日々の反省点や気付きを書き記しているノートなのですが、それをずっと今まで書き続けて自分をブラッシュアップできる細かい分析力や探究心の高さが本当に凄いなと感じます。

鈴木)「発見ノート」良いですね。ちなみに同じノートでもスマートフォンやパソコンのノートではなく手書きのノートがポイントなんです。なぜだか分かりますか?

畠山) 手書きの方が実際に書くという動作が自分事に落とし込みやすくさせるからでしょうか。

ノートを「手書き」で書く理由

鈴木) 1番の理由は手書きは記憶の定着の向上に影響を与えるんです。自分で書くことで覚えやすくなりますし、また手書きのノートだと簡単に見返すことができますよね。

畠山) 確かに言われてみれば学生の頃は特に手書きの内容ほどよく覚えていた気がします。

鈴木) 一つの例ではありますが、私も選択日記というものをパソコンを使って書いています。それは自分がその時決断したことの結果がどうなったかを数ヶ月後に振り返るものなんです。そこで、ToDoリストのアプリでリマインドするように設定しないと振り返るという作業を忘れてしまうんです。

でも手書きのノートだとふとした時に開いて見るじゃないですか。それって凄い大事だと思うんです。忘れた頃に自然と振り返ることができるということ。それが手書きノートの良さではないかなって思うんですよ。

畠山) 僕もスマートフォンのノートはよく活用しますが、気付きとか学んだことを書き溜めているうちに膨大な量になってしまい確認したい時にどこまで遡ればいいか分からなくなってしまうことがよくあります。

鈴木) その気持ちわかります。「あれどこに行ったんだろう?」ってなりますよね。

畠山) でも手書きだと自分のその字体から実際に当時書いた時の感覚や心情とかがフラッシュバックしたりして、確実にスマートフォンに残すメモよりノートとしての効果を大きく感じます。

鈴木) 私のコーチングを受けている選手でも結果を残している人ほど手書きのノートを書いています。また面白いのが手書きからスマートフォンのノートに移行すると結果が出なくなる選手が多いんです。これは完全に私の経験です。感覚値なので科学的な根拠があるわけでは無いのですがそうなる事例が多いです。

畠山くんは結構ノート書いてましたか?

畠山) はい。一応手書きのノートは書いていましたがうまく活用できていなかったと思います。継続的にではなくて、ふと思いついた時に色々書くような感じでした。

鈴木) ちなみに私は全く書けなかったんですよ。中学生の時に部活で日誌を書かされていたんですが全然ダメでした。当時練習するのも嫌いだったので毎日何もしていなくて書けることが無かったんです(笑)

畠山) 確かにそういう意味では、僕も毎日練習してた訳ではなかったので日誌を書くのは苦手でした。それに「何もやっていないから書かない」という日が続いてしまうと習慣ではなくなってしまってますます書けなくなってしまいますよね。

鈴木) はい。ある意味ノートが書けないというのは練習ができない証拠でもあるんですね(笑)

畠山) 同時に継続できない証拠でもある気もします(笑)

鈴木) 確かに(笑)

ノートも書き方ひとつで逆効果に?

鈴木)  以前僕がコーチングしていた選手ですごい量のノートを書いている人がいたんですが、ちなみに畠山くんはどんなことをノートに書いていましたか?

畠山) その日の振り返りが多かったです。やっぱり試合で負けることもよくあるので、その時の感覚を忘れないようにと書いてました。逆に技術的なことは書いても自分の行動に反映できなかったんです。頭で分かっていてもできないこともあったりしてなかなか言語化できない感覚だったのでそんなに技術的なことは書かなかったですね。

鈴木) なるほどです。先ほど話したすごい量のノートを書く選手もそうなんですが、多くのアスリートがよく書きがちなことがあるんですが何だか分かりますか? ちなみにこれを書く人ほどネガティブです。

畠山) そうですね。。「自分の悪かったところやできなかったことを書く」ですか?

鈴木) その通りです。「反省文」を書いてしまう人が多いんです。ちなみにその選手は毎晩反省文を書いていたんですよ。いわゆる自分に対してのダメ出しですね。なので私は彼に反省じゃなくて改善を書くように教えたんです。「どうしたらもっと私は良くなれるのか?」ということを書いて欲しいとお願いして実践させたところ、彼のパフォーマンスがとても上がって結果も出るようになったんです。

その時にノートをただ書くこと以上にどのように書くかが大事ということに気付きました。

畠山) 確かに毎回ノートを開くたびにページにダメ出しばかりだったら気が滅入って良いイメージが湧くはずが無いですよね。

鈴木) そうですよ。もう1人の自分が常に自分を酷評するということです。

畠山) しかもその酷評が毎日増え続けていく訳ですから、その影響でどんどんネガティブになってしまうのは必然的だと思います。

羽生選手の「発見ノート」の書き方

鈴木) ただ今回の羽生選手の場合は「発見ノート」ですからね。「今日はこういう発見があった!」というようなことがポジティブに書き記されているんでしょう。

私は例に「エジソン」をいつも挙げるんですが、もしエジソンが毎日反省ノートを書いていたらどうなっていたのかという話ですよ。「今日もダメだった。今日も光がつかなかった。私はこのままで良いのだろうか?」って毎日書いていたら絶対成功しなかったと思うんですよ(笑)

畠山) 絶対成功できるわけないですね(笑)

鈴木) そんな中でも色々な失敗が大発見と捉えることができたから結果的に歴史的な偉業を成し遂げた訳です。アスリートも発明家にならないといけないと思うくらいです。

畠山)「捉え方」が大事だなと感じます。同じ出来事でもただの失敗と捉えるのか、そこから成功への糸口を見出すことができるのかという。

鈴木) でも羽生選手の発明ノートは特に書き方が異なっていて、相当ロジカルに落とし込んで書いていますね。

畠山)  彼もノートの書き方については振り返りやすくフォーマット化していたようです。

鈴木) 羽生選手の書き方から考えられることは、ノートが大事とか書き方が大事とか言われますけど、一番大事なのはまとまった言葉を文章で書き綴る事ができる頭を培えられるかどうかだと思うんです。

畠山) 確かに思い付いたことを全部書いていたら要点も分からないですし、振り返った時に何が大事なことか分からなかったら意味ないですから本当にその通りだと思います。要約して言葉にできる考え方やスキルは非常に重要になりますよね。

鈴木) そういう意味では畠山くんがこのインタビューシリーズを執筆してくれていますが、要点をまとめて文章化することは羽生選手がやっていることと同じですよ。

畠山) 言われてみればそうですね。使うところと使わないところを区別したり、必要な部分だけ残して文章化しているわけですから。

鈴木) ちなみに畠山くんはどういう風に考えて、使うところと使わないところを判断しているんですか?

畠山) 基本的にはインタビューを通してトピックや要点となる部分をまとめて見出しを作り、その要点の説明に必要な内容を抽出し肉付けして、その工程の中でそこまで必要ではない内容は削っていく感じです。

一番大事なのは何がその話の中でメインに話されているのかを明確にすることだと思います。

鈴木) なるほど!!

羽生選手の考え方を養った教材「医学書」

鈴木) 今一つ仮説を立てたんですが、羽生選手は本を読むことが好きなんだと思うんです。なぜなら本が好きな人は要点をまとめて、頭の中で内容を組み立てるという能力に長けているからです。そこで私がびっくりしたのが羽生選手の10歳の頃からのとある愛読書があるんですけど何だと思いますか?

畠山) 10歳の時の愛読書ですか?ちょっと検討もつかないです。。

鈴木) それが実は「医学書」なんですよ。

畠山) え!?そうなんですか!10歳で医学書が愛読書って変わってますね(笑)

鈴木) 変わってますよね。どうやら羽生選手は幼い頃は喘息持ちだったみたいで、当時彼の喘息を改善してくれた指圧師の方の治療を受ける中で身体について興味を持って医学書を手に取るようになったみたいです。

畠山) 10歳で自分の身体について学ぶために医学書を選べたことがもう凄いです。

鈴木) 羽生選手に探究心があるのは間違いないですが、その探究心がフィギュアスケートのことだけではなくその土台となる自分の身体について向けられたのは彼があれだけ結果を残した理由であると言えると思います。

それに医学書って特性上とてもロジカルにまとめられているので、読み込めば読み込むほど思考がロジカルになっていくんですよ。そういう本を読んでいた経験は本当に羽生選手にとって大きな財産ですね。

畠山) 医学書を読むことで自然とロジカルな考え方が養われていったということですか。

鈴木) そういうことです。医学書の中でも身体の順番をバラバラに伝えていくことはないでしょうし、まずは脳から始まって顔のパーツから身体のパーツへという流れで分類されていると思います。

これはフィギュアスケートでも一緒なんですよ。技術力はもちろんのこと表現力や演技用音楽のチョイスなど、いろんな項目がある中で全てが合わさってフィギュアスケートというスポーツになると思います。関連性などをロジカルに考えることができたのは医学書を読んでいたからなのかなと思います。

畠山) ロジカルに考えることも競技の中では大事なんですね。

自分自身で考えて行動すること

鈴木) でもそういう自分の身体とか根本的なところに向き合えることって大事だと思います。他競技の選手で言えばダルビッシュ有選手とか本田圭佑選手も自分に関わることについて凄い勉強されていますから。

それに今の時代の結果を残すアスリートって人任せにしないですよね。もちろんまだまだ自分の知らない知識もあるかもしれないですが、自分なりに研究していて専門家に対しても自分の身体やパフォーマンスについて対等にディスカッションができることはとても大事だと思います。それができるアスリートは成功しているように思います。

畠山) また専門家であろうと他人に言われた通りにするのは自分に合う・合わないもありますからね。もちろん専門性の部分で頼る必要も分かりますが最終的に落とし込むところは自分の身体なので、自分の中でクリアになっていないのに言われた通りにするというのは違うと思います。

鈴木) やっぱり羽生選手みたいな考え方の人間には日本の指導者は合わないかもしれないですね。
最初の頃は良いかもしれないですがある程度のレベルになると自分のやりたいようにやりたいと思い始めますから。確か彼のコーチはブライアン・オーサーですよね。

畠山) 2020年はコロナウィルスの影響もあり羽生選手も拠点のカナダに行けず、オーサーコーチ不在の中でのトレーニングと大会参戦だったようです。実際羽生選手にとってはコーチ不在の環境は「今までいろんなコーチに学んできたことを見直しながら練習できる機会」だったと認識していたみたいです。

鈴木) やっぱり自分自身で考えて行動できる選手だからこそできたことだと思います。

畠山) はい。また結果を残すアスリートの共通点として感じるのが、単純にスポーツで結果を残そうっていう意識ではなく、いろんな分野から情報を得て自分に活かせることを取り入れようとしていて自分のなりたい姿をデザインしていく中でスポーツで結果を残しているなと感じます。

鈴木) 結局はそういうところなんです。最終的に一番大事なのは自分で考えて行動できるかどうかなんですよ。そうなっていくとコーチや他人頼みにはならないですよね。

畠山) コーチ主導は彼らみたいな選手には合わないでしょうし、そもそも選手にとっても良くないんですよね。まあ日本は文化的な背景が原因なんだと思いますが。

鈴木) ただ双方向のコミュニケーションがあれば良いんです。でも日本の場合はほとんどがコーチングじゃなくてティーチングになってしまっていて、教えることが主体になっているんですよ。もちろん教えることもある程度の年齢までは必要なんですが、選手が自我を持ち始めた時には導いていけるようなコミュニケーションの取り方が大事なんです。

畠山) 日本のスポーツ全体としてアスリートが自分たちで考えて行動できる環境づくりが必要だと思います。アスリート一個人としては自分で考えて行動できる人になることが結果を残せるトップアスリートになるための秘訣だなと感じました。

本日も鈴木さんお忙しいところお時間いただきましてありがとうございました。

鈴木) いいえ、ありがとうございました。

最後に

今回は日本フィギュアスケート界のエースの羽生結弦選手の「発見ノート」からノートを効果的に使うことで養うことができる計画的な目標達成能力とロジカルシンキングのセオリー

また羽生選手は少し特殊ではあるが小さい頃から医学書に触れていたこともあり、とりわけロジカルに考える能力は高かったが、同時にどのアスリートもロジカルな思考をなるべく早い段階で持つことがパフォーマンスに活かされるということも確認できた。

そして最後にこのインタビューを通して伝えたかったことが「自分で考えて行動する」ということ。ある程度結果が出始めた段階から世界トップのレベルへ続く道の中にはアスリート自身が自分たちで考えて何を取り入れるべきか、またどんな信念を自分の中に持つかによって求める結果を掴めるかどうかを左右することが羽生選手をはじめ世界で活躍するアスリートたちから垣間見れた。

まずは実践しやすい点から、アスリートやビジネスマン含め誰でも何か達成したい目標を持っている方は是非手書きのノート始めることからトライしてみて欲しい。自分なりの「発見ノート」を作成することで自分たちの人生をより良いものにできるように後押しできる記事にこの記事がなれば幸いだ。

Text and Interview by 畠山 大樹

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・畠山大樹
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