見出し画像

【羽根田卓也の強さ】「偉人から学んだメンタリティ」 スポーツメンタルコーチ鈴木颯人が紐解く海外アスリートの強さの秘密

「羽根田卓也」という名前。スポーツ好きな人であればこの名前を聞いてピンとこない人の方が少ないと思います。
日本カヌー界のパイオニアとして第一線で活躍している世界トップクラスの羽根田選手ですが、一方で彼の専門とするこの「カヌー」という競技は日本でまだまだマイナーで競技環境も乏しいスポーツのひとつでもあります。

しかし彼の偉業のひとつとして、多くの日本人が彼の名前を知るきっかけとなった2016年リオオリンピックでの銅メダル獲得。その背景には父親の献身的なサポートや高校卒業後から拠点にしているスロバキアでのトレーニングなど、マイナー競技である日本の環境に臆さず自らの手で掴み取ってきた努力と実績がありました。

今回はそんな前人未踏のチャレンジを続ける羽根田選手の強さの秘訣をメンタル面から紐解いていきます。

対談者プロフィール

画像1

・鈴木颯人 ~スポーツメンタルコーチ~
1983年、イギリス生まれの東京育ち。一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球、BMXレーシングなど、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。

画像2

・畠山大樹 ~BMXレーシング元日本代表~
1992年、神奈川県寒川町出身。株式会社Winspired代表取締役社長。学生時代にBMXレーシングにて日本代表経験あり。BMXレーシングとマウンテンバイク4Xの競技経験を活かし、現在はアクションスポーツ業界の発展のため、アスリートマネジメントを始め、翻訳・通訳、スポーツライター、BMXスクール運営を多岐にわたり行っている。実妹がBMXプロレーサーの畠山紗英。

スポーツメンタルコーチが思う羽根田選手の印象

畠山) 僕は羽根田選手を色んなメディアで目にする中で、彼は自分の可能性を信じて厳しい環境の中でもとことん挑戦できる選手人間的にとても鍛錬を積まれた人物という印象がありますが、鈴木さんはどんな印象を羽根田選手にお持ちですか?

鈴木) ちょっと今回は違う角度から始めてみたいんですが、逆に畠山くんは私がどういう印象を羽根田選手に持っていると思いますか?

畠山) そうですね。。カヌーというマイナースポーツで前人未踏の結果を成し遂げるためには想像を絶する努力が必要だと思うので、そういう面からも鈴木さんは羽根田選手のことをメンタルコーチとしては非のつけようがない精神力の持ち主という印象があるんじゃないかなと思っています。

鈴木) なるほど!そういうイメージですね。私の羽根田選手に持つ印象は一言でものすごく誠実な人というイメージです。

彼の誠実さに関連する話でミキハウスさんとスポンサー契約したことが彼の競技人生で大きな出来事みたいなんですが、ミキハウスさん含め各企業さんにアプローチする際に手紙を書いて送っていたみたいなんですよね。

こういう行動から彼のご縁を大切にする気持ちや彼の誠実さが伝わってこのスポンサー契約に繋がったと思うんです。

畠山) 確かにそうですね。僕も羽根田選手を見て、彼の謙虚さだったりその誠実さから人からとても好かれるタイプだと思います。

鈴木) 間違えないですね。それに本場に足を踏み込める勇気も凄いですよね。スポーツ的に日本人が国内で練習していても上達できるレベルに限りがあることを理解していち早く海外に行ったこと。

同時に金銭面の問題も現地へ行ってからどうにかするという苦しい状況でありながら競技ファーストな姿勢を取れたことは本当に凄いと思います。

普通はなかなかここまでやりきれないですし、カヌーってそもそもお金がないとできない競技だと思います。

特に移動が大変っていう話で飛行機とかの移動中にボートが壊れてしまうこともあるみたいです。まだまだスポーツ的に金銭的な余裕がない選手が多いのでライバル同士が節約のために同じ車でボート等を積んで移動することもあるみたいです。

畠山) ある意味ほとんど後ろ盾もない環境の中で踏み出す一歩って凄い不安だったと思いますしその勇気って凄いものがありますよね。

鈴木) 父親の献身的なサポートはひとつ大きな支えではあったと思いますが、それでもスロバキアという異国に単身で挑戦したことは凄いと思います。逆にどうしてそれだけの勇気があったのか気になりますよね。

畠山) あるインタビューで印象的だったのは、初めて世界のトップレベルを触れた時に自分の思っていた世界とは違って自分の人生をかけて目標にする価値があるスポーツと認識したっていう話でしたね。

鈴木) 自分が厳しい道を選んだ方が結局楽なんですって言っている記事(*1)もありますね。こういうことが言えちゃうのが凄いですよね。(笑)

畠山) 言葉としては対義語ですし、厳しい時点で楽とは全くかけ離れていますもんね。(笑)

鈴木) 本当にそれが言えるだけ厳しい道しか経験してきていないのかもしれないですね。

畠山) 間違いないです。本当に道なき道を切り開いてきたパイオニアだからこそ言える言葉ですよね。

鈴木) 一方でスポンサー獲得に動いていた時に自ら履歴書を作ったっていう話も凄いですよね。

畠山) そうですよね。オリンピック選手であっても社会に出れば社会経験のない名無しの権兵衛だって自分のことを捉えていたことが凄いですし、普通の人ならプライドがあってなかなかこういう意識になれないですよね。

鈴木) 本当に謙虚で誠実な人ですよね。

畠山) 根本的に羽根田選手自身が厳しい道を選んで鍛錬すること、そういった環境で結果を出すことが生きがいというか彼が望んでいる生き方なんですよね。そうじゃないとなかなかこういう人物にはなれないと思います。

鈴木) そういう意味ではやっぱり競技の未来を背負っている使命感みたいなものも垣間見えますね。

畠山) はい。更に競技で何かを成し遂げることで自身の人格も形成していくことも意識されている選手に感じますね。

羽根田選手から見るメンタルの重要性

鈴木) 一つすごく意外だなと思ったのが羽根田選手のインタビューや記事のほとんどでメンタルについて話されているんです。私が見てきたアスリートの記事でもここまでメンタルについて書かれている選手はいなかったと思います。

畠山) 基本的には技術力とかプレーにフォーカスされるインタビューや記事の方が多いですからね。

鈴木) そう考えると世界トップレベルのカヌー選手になると技術的なところでは拮抗していて、最終的に頭ひとつ抜けるためのレース中の一搔きがメンタルの強さが発揮されるところで勝敗を左右するような世界なんでしょうね。こういったところは練習の時から常に意識している部分だと思います。

畠山) カヌーも最後は本当にメンタルが勝敗を決める世界なんですね。

鈴木) 自ら厳しいと思う道を選ぶくらいですからね。メンタル強いはずですよね。

畠山) 本当に自分とも向き合い方が尋常じゃないですよね。競技的な側面も含めメンタルの重要性について強く理解していてそのことを発信しているからこそ彼のメンタルについて語られる記事が多くなるんですよね。

鈴木) でもそのメンタリティでどこから来てるんでしょうね?
一つ言えるのは競技特性上突き詰めていかないと結果に繋がらないスポーツだからこそメンタル面が非常に大事になるんだと思いますが。その辺はBMXレースも似ていそうですね。

畠山) そうですね。親和性は凄い感じる競技ですし、今回羽根田選手を選ばせて頂いた理由の一つでもあります。BMXレースに反映できる考え方が非常に多いと思っています。

鈴木) そういう面から見ると競技特性が選手に与える影響って興味深いですよね。人格的な部分まで影響していくという。

畠山) はい。ちなみに羽根田選手は精神面を磨いて研ぎ澄ませるために「茶道」にも取り組んでいるみたいですね。

鈴木) そうですか。確かに茶道はメンタル面でも非常に効果あると思いますね。

畠山) コロナ禍の自粛期間に始めたみたいで、茶道の深い思想や哲学的な考えを吸収してスポーツだけではなく人生における考え方や姿勢に良い影響を与えることができるのではと考えたみたいですね。

鈴木) いわゆる所作的なところですよね。普通ならあまりやらないことかもしれませんが、トップアスリートになると競技者としてだけではなく競技後の人生のことも考えて取り組んでいると思います。
彼自身、歴史も凄い好きでお寺巡りもするみたいですし、侍みたいな気質がありますね。

畠山) 羽根田選手の考え方の尺度がそもそも人生を基準としているんですね。
ただスポーツで結果を出すためではなくて自分の人生において必要な考え方まで意識している。
人生まで見据えていることで逆にスポーツにおいても良い影響を与え得る要素を吸収できる。
一瞬スポーツと茶道って関係性なさそうですけど人生ベースの考え方で見れば関連するところが見つけられるんですよね。

歴史を通して幕末の志士から学ぶ

鈴木) 土方歳三の生家にも訪れた話もありましたが歴史からも哲学的な考え方をならっていますよね。このカヌーという競技にて自分自身で切り開いていかないといけない状況を幕末の志士の生き方と重ねているんだと思います。

メンタル的な言葉で表すと無意識のうちに幕末の志士の生き方・考え方を「モデリング」しているんです。

畠山) モデリングですか。具体的にどういう意味でしょうか?

鈴木) そうですね。具体的に話すと羽根田選手がそうやって幕末の志士の信念を模倣しているからこそメンタルコーチやメンタルトレーニングを必要としていないんですね。

例えば自分が厳しく苦しい場面に直面しても、幕末の志士であった土方さんならこうするはずだから僕もこうしようって出来るんですよね。だから意思に迷いがないんですよ。

彼が安定したメンタルを保てるのはその場での必要な考え方を歴史上の人物を教科書にして学んでいるからですね。

畠山) そういうことなんですね。羽根田選手は精神面で不安定な時に参考にできる人物像や考え方があるんですね。メンタル面での向き合い方が他の選手に比べてとても深いですね。

鈴木) でもこういった人物じゃないと前人未踏な状況を切り開いていけないですよ。常軌を逸するような人でないとです。

畠山) たまたま羽根田選手の場合はツールがスポーツだっただけで、人生の歩み方だったりとか信念的なところは幕末の志士と同じだったからモデリングしやすかったんですね。

鈴木) 実際歴史から学ぶことはアスリートだけに関わらず私たちにとっても大事なことですよ。なぜかというと歴史には人間の真理が隠れているからです。僕も戦国時代が好きで特に徳川家康が好きなんです。「負けるが勝ち」っていう彼の言葉があるんですけど、普通ならいつも勝ち続けたいと思うんですけど時と場合によっては負ける方が得策な場合もあるんです。

大事な場面で勝てれば、時には負けても良いっていう気持ちの余裕が大事なんですよ。歴史から学んでいる人はそういった余裕だったりメンタルの指針があると思います。

畠山) 他に歴史を学んで活かしているアスリートっているんですかね?

鈴木) どうなんですかね。インターネットで調べた限りでは他の選手は出てこないですね。しかし、結果を残すために自分で切り開いていく必要があるマイナー競技の選手は、金銭的にも苦しい上でたくさんの時間を練習に費やす必要があると思います。そんな時の精神的負荷って大きいと思うのでメンタルの指針になる考え方を歴史から学ぶということはとても効果的だと思います。

歴史好きな選手は少ないですが釣りが好きなアスリートは結構いますね。畠山くんも釣りやっていませんでしたっけ?

畠山) 僕はやったことないですね。。なんかまだ興味が沸かないんですよね。アスリートが釣りを好きになる点ってどんなところですか?

鈴木) 釣りの醍醐味は自分たちが狙った魚をどうしたら釣ることができるかで、経営者でも好きな人が多いですがそういう試行錯誤して方法を見出す戦術的なところを彼らが好きになるんです。

そういう意味では戦術が大事なスポーツのアスリートは釣りが好きな人も多いです。あとは単純にメンタル的にリラックスしたりとか没頭して無心になりたくてやる人も多いです。

畠山) そうなんですね!興味深いですね。僕も釣り始めてみようかな(笑)

鈴木) 羽根田選手の話に戻すと、彼は歴史が単純に好きなわけじゃなくて幕末の志士の心情を読み取ろうしていることが凄いですね。

畠山) 確かにそうですね。自分の目指す生き方が歴史上の人物と重ねられたからいろんな厳しい状況の中でも彼らを見本にすれば自分の追い求める生き方を見出して乗り越えていける確信があったんですね。羽根田選手自身の人生で根本的に目指す人格だったり考え方や生き様が見事に歴史的な思想にも当てはめられたことが凄いですね。

鈴木) それは間違いないですね。こういったことは先ほどお話しした「モデリング理論」もしくは「社会的学習理論」と言われています。代理経験という話です。アスリートがメンタルで弱ってしまう原因の一つとして模倣できる人がいないということが考えられます。例えばメンタルが弱いと思った人が最初にすることってインターネットで「メンタル・弱い」で調べることだと思うんです。

畠山) そうですね。僕もよくインターネットで調べることもあります。

鈴木) ただそれって対処療法であって一時的に改善できたとしてもそこには自分の信念が無いのでまたメンタルで不安が出てきてしまうんですよ。羽根田選手はそういう信念を歴史から学んでいたことが素晴らしいですね。

畠山) 言われてみるとそんな気がします。そうなると一般的にどんな人でもインターネットで調べることは自分の中で答えを導き出せていないことを他人の経験や知識から参考にして解決していくということですよね。それも「モデリング理論」を活用していることになるんでしょうか?

羽根田選手の強さの秘訣とは

鈴木) はい。ただ結局この羽根田選手の話で何に注目したいかというと、彼が進もうと思っていた道を歩んでいた人が誰もいなかったということなんです。そうなると彼と同じようにまだ誰も歩んだことのない道を切り開いていった幕末の志士たちを模倣することをヒントに思ったのかもしれないです。

畠山) そういう意味では羽根田選手のメンタル的な強さの秘訣は、自ら世界のトップを獲りたいっていう強い意志があるのはもちろんですが、それを実現させるための考え方を上手く取り入れられたことがいつになっても結果を求めながら挑戦していける理由ですよね。

ただそれにしても羽根田選手みたいな人って珍しいですし、なかなか参考にしづらい選手でもありますよね。

鈴木) 確かに最近の選手では同じような選手はいないですからね。。

畠山) 競技的な背景からも、羽根田選手がパイオニアという立場だからこそこういった選手像を作り出したのかもしれないですね。でもこれだけの精神力があればどんなことに挑戦しても結果出せるでしょうね。

鈴木) 多分資質的にはフルマラソンとかやったら凄い強いかもしれないですね。

畠山) 本当にとことん自身に向き合ってメンタルを磨いている選手ですね。

鈴木) そうですね。彼の公式サイトに掲載されている記事(*2)で彼についてよくまとめられているものがありますね。彼の中では自分の信念を貫いているだけでそれを他人が見ると常識を覆しているように見えるのだろうって言ってます。自分の中で確固たる信念があるのだと感じます。それが幕末の志士と共通するところです。

畠山) 本当に生き様がとても表れている選手ですね。これからもカヌー競技のパイオニアとして大活躍して、BMXレースをはじめ様々なマイナー競技でくすぶっているアスリートたちに良い影響を与えて欲しいですし、その中で彼の思考やメンタル面での取り組み方を参考にできる選手が増えたら良いなと思います。
鈴木さん本日もお時間頂きましてありがとうございました。

鈴木) ありがとうございました。

最後に

今回は日本カヌー界のパイオニアで日本代表として第一線で戦う羽根田選手のメンタル的な強さの秘訣について深掘りした。その中で彼の強みとして強く感じたのは「モデリング」するということ。

日本国内の競技的な背景もあり、彼が目標としていた生き方は前例がなかったので歴史から土方歳三をはじめとした幕末の志士たちをメンターとして参考にすることで、どんなメンタルの状態でも彼らの生き方・思考を元に乗り越えて今のような偉業を成し遂げることができた。

同時に歴史や茶道と言った哲学的な思想を背景に持つ全くスポーツと関係ない分野からメンタルにおける学びを得ることの重要性についても垣間見ることができた。是非メンタル面で葛藤している選手は視野を広げ一つの案として参考にしてみて欲しい。

最後に羽根田選手のメンタリティから学びたいことが自分の中の信念や指針をしっかり持つことだ。

羽根田選手は自身がパイオニアとして結果を残すことで日本カヌー界を切り開いていく強い意志があったので、それを幕末の志士の生き方に当てはめることで彼らをメンターにできたのだと思う。皆さんも自分なりの信念や指針を持つことでメンタル面での現状打開に一歩踏み出すことができるように今回の記事が参考になれば幸いだ。

Text and Interview by 畠山 大樹

各参考記事
(*1)「練習もチャリもバスもずっと1人で」 孤独な高校生だった羽根田卓也が得た人生の財産, https://the-ans.jp/course/187011/
(*2) ポルシェ タイカンのポップアップストアに 羽根田卓也登場! 念願の特別試乗も体験!, https://www.gqjapan.jp/feature/20210108/porsche-taycan-pop-up-harajuku/

外部リンク

・鈴木颯人
スポーツコーチングセミナー各種情報
-
スポーツメンタルコーチになる為のセミナー
-
やる気とモチベーションを上げる脳と心の仕組み講座
-
緊張や不安を無くし自信を高める方法講座
-
極限の集中ゾーンに入る方法
-
息子、娘、子供のメンタルを強くする親、指導者になるには?

・畠山大樹
Twitter: 
@winspired_
Instagram: 
@daikihatakeyama_

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?