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【錦織圭はなぜ強い?】「強さの秘密は遊び心?」スポーツメンタルコーチ鈴木颯人が紐解く海外アスリートの強さの秘密

現在、日本から世界で活躍する選手が増えてきたスポーツの一つでもある「テニス」

錦織圭選手が2015年に打ち立てた世界4位の結果や最近では記憶に新しい大坂なおみ選手の4大大会優勝の快挙が日本のテニスの成長を顕著にしている今日この頃です。

スポーツとしては対戦競技であり展開によってはプレー時間が何時間にも渡ります。その中で常時俊敏な動きを必要とされ瞬発力と持久力の両方が大事になる過酷なスポーツ

今回は錦織圭選手にフォーカスしてこの過酷な試合を戦い抜き好成績を残すことができるそのメンタルについて迫りました。

対談者プロフィール

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・鈴木颯人 ~スポーツメンタルコーチ~ 
1983年、イギリス生まれの東京育ち。一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球、BMXレーシングなど、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。

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・畠山大樹 ~BMXレーシング元日本代表~
1992年、神奈川県寒川町出身。株式会社Winspired代表取締役社長。学生時代にBMXレーシングにて日本代表経験あり。BMXレーシングとマウンテンバイク4Xの競技経験を活かし、現在はアクションスポーツ業界の発展のため、アスリートマネジメントを始め、翻訳・通訳、スポーツライター、BMXスクール運営を多岐にわたり行っている。実妹がBMXプロレーサーの畠山紗英。

スポーツメンタルコーチが思う錦織選手の印象

畠山) テニスは長時間息をつく暇のない過酷なスポーツですよね。この過酷な競技で結果を残して世界のトッププレーヤーとなった錦織圭選手のメンタリティ、鈴木さんは錦織選手にどういう印象をお持ちでしょうか?

鈴木) 錦織選手が幼少時に参加していた、松岡修造さんの「修造チャレンジ」って知ってますか?このプログラムの中でみんなの前で英語で話してみてよって錦織選手が言われたシーンが印象的なんです。

畠山) それはどんなシーンだったんですか?

鈴木) 緊張で萎縮して言葉が出ない中で唯一口にしたのが「テニスで世界一になりたい」と話すんです。性格的にはそんなに外向的ではないんだろうなと思っていただけに、その一言で相当な負けず嫌いという印象を持ちました。

畠山) たしかにそんな印象がありますね。昔からだったとはさすがです。

鈴木) ちなみに同じ負けず嫌いでも海外では声を出して高圧的に負けず嫌いを前面に出してくる選手もいます。

そういう選手ほど試合が劣勢になると審判に抗議したりふてくされたりしてます。そして、プレーで諦めがち。それが良いか悪いかは別としても錦織選手含め本当に負けず嫌いな選手は最後まで諦めないです。

畠山)海外にいたんでよくわかります。感情爆発してる選手は多いですからね、海外は特に。

鈴木) 以前、錦織選手の栄養士を担当していた方がこんなエピソードを紹介してくれました。彼に調理方法を教えるとすぐに自分で作ってしまうそうです。

アスリートでありながら自分で栄養面を考えた自炊ができるのは凄いなって思います。私生活から自分を高めていけるストイックさがテニスのメンタリティーにもいきてるように見えます。

畠山) もちろんフィジカル勝負にもなってくると思うので体のコンディション一つで試合の結果も変わっちゃいますからね。色んな面でストイックにやらないと最後まで自分のベストを出しながら戦えないですよね。

鈴木) テニスではメンタルをしっかり管理できているかどうかももう一つ重要な要素ですね。テニスは試合が始まるとコーチのアドバイスなどを一切受けられません。

試合中のミスによるメンタルの立て直しも自分自身で対応していかないといけません。特に試合終盤はベストを尽くしていたとしても、もしボールがネットにかかったり、サーブが入らなかったりなど、一つのミスが命取りになります。

それでも常に落ち着いてプレーできているメンタルの安定性を求められる競技です。

畠山) 僕が観た錦織さんの試合でも終盤で思わぬミスから大逆転される展開もありました。自分のメンタルとプレーのバランスを取ることが難しい印象が強いです。

鈴木) テニスは相手との対戦競技ですし、男子だと海外選手は大体身長190cmオーバー。さらにはサーブも初速が時速260kmとかで打ってくるんです。バケモノですよね。

ラリー時は時速150kmとかになるみたいです。サーブの時はサービスエースを取りにこちらの届かないコートの際ギリギリを攻めてくるわけです。そんな環境で落ち着いてプレーするって簡単ではないですよね。

畠山) 僕がやっていた自転車競技に比べたら天と地の差がありますね…

鈴木) ですから結局はサービスのスピードと精度が高かったらそれだけで得点が取れてしまう。だから近代テニスは背が高くてパワーがある選手が有利なんです。

その中でトップ4に入れた錦織選手。彼は身長178cm、体重73kgですよ。そんな体格差があるのに勝てるところが、錦織選手の持つ負けず嫌いな性格から来てると思うのです。

「負けず嫌い」 X 「OO」X 「OO」 = 錦織圭の強さ

畠山) 錦織選手の好きな言葉は「負けず嫌い」と「努力」と話している記事がありました。確かに本当に彼がどれだけ勝ちたくてどんな姿勢で取り組んでいるのかが分かる二言ですよね。

鈴木) 負けず嫌いってある意味紙一重な側面があひます。もし負けず嫌いな人が負け続けたらどうなると思いますか? 

畠山) 僕だったら辛くて辞めちゃうかもしれないですね…

鈴木) その通り。そういう選手ほど競技を辞めがちです。本当に悔しいから負けないために戦わないのです。錦織選手は負けず嫌いで負け続けなかったから良かったんですよね。これは結果論ですが。

実は負けず嫌いっていうことに囚われると競技を続けるという面では凄い危険です。メリット・デメリットを把握せずに負けず嫌いになろうとするのは良くないです。

何故なら負けず嫌いは裏を返せばプライドが高いっていうことでもあるからなんです。

畠山) ある記事で話していたのは、錦織選手はどんな劣勢な局面でも逆転できると思っていて、最後までどんなチャンスがあるか分からないということを信じているとのことでした。そういう精神的な「柔軟性」と自信を兼ね備えているのが彼の強さの一つなのかなとも感じました。

鈴木) そうですね。そういう意味では心理学の世界では「メタ認知」と呼ぶんですが、自分を客観的に見て正しく測る能力が錦織選手は長けていると言えます。

畠山) 怪我で休養していた時も早く復帰したいっていう気持ちはありながら、そんなに深く考え過ぎず悩んだりしなかったみたいです。

鈴木) 基本的に落ち着いてるんでしょうね。それに相手の弱点を冷静に見極める能力も高いんじゃないかなって思います。

畠山) ある記事には錦織選手は戦略家と言われている記事もありました。本人は体格は小さいしパワーも他の海外選手に劣る部分もある。

それを補うために頭脳的な戦略家になったと。それこそ相手の弱点とか試合の戦況を冷静に見極める能力他の選手に劣っていても勝てたなのではと感じますね。

鈴木)試合で勝てない選手はそういう見極めができないんですよね。特に対戦競技だと相手が見えなくなって負けてしまうんです。

そういう選手は大体自分の持っている力を出し切れば勝てるってよく言うんです。

しかし、負けてしまうのは対戦相手が自分の持っている力を出させないような戦略で戦っていたのかもしれないという見方ができるんですよね。

畠山) テニスプレーヤーはそんな事まで考えてるんですか!?

鈴木) そうなると相手をよく見て駆け引きすることが大事なってきます。レベルが高くなればなるほどその能力は大事になるでしょうね。

もちろん自分の持っている力を発揮して自分のできることにフォーカスすることも大事なんです。そればかりになると相手も見えなくなる…

そこの絶妙なバランスは自身のメタ認知によって作りあげられるものになってくるんですよね。

畠山) 自分を知るって大事なんですね。僕は疎かにしてたタイプだったと思います。

鈴木) ですから自分を俯瞰して見れる能力は必要なんです。

ただプレッシャーがかかる場面だったり心拍数が凄い上がる時にいつもと同じようにできるのかは別の次元の話になるので、そういう時にも力を発揮できる錦織選手は凄いなって思います。

データをみると年齢的にも成熟してメタ認知をしっかりつけてから結果に繋がるようになってますね。

世界4位になったのが2015年の25歳の時なのでフィジカルだけではなく思考が追いついてくるようになったとおもいます。

そのきっかけとして見逃せないのがマイケル・チャンコーチとの出会いです。

マイケル・チャンコーチとの出会い


畠山) そうですね。「負けず嫌い」とか「努力」っていう言葉が好きになったきっかけにマイケル・チャンコーチの教えがあったって書いてありました。

鈴木) 錦織選手がマイケル・チャンにコーチをお願いした時の話は知ってますか?チャンは家族の時間を大切にしたい理由で最初は断ってるんです。そこでコーチを引き受ける条件として世界ツアーに家族全員を連れて行くことでした。

畠山) スケールが大きいですね。そんな事できちゃうのでしょうか?

鈴木) 錦織選手はその条件を飲んでまでお願いしたんです。一家族の生活費なりを全部錦織選手サイドが見ますってことだから凄いですよね。

それだけ「自分に足りないものについてはっきりと分かっていた」んですよね。

それもメタ認知なんですけど、自分が目指したい方向で世界を獲った経験があって同じような体格差っていう面からマイケル・チャンに着目したと思います。

一回断られてもしっかりとお願いしていこうとするその姿勢が人の心を動かすんですよね。実際マイケル・チャンも他の選手の依頼なら断っていたようです。

畠山) それだけマイケル・チャンをコーチに付けることが自身の成長に必須だっていうことを確信していたんですね。

鈴木) 彼が世界で戦う上で世界基準のトレンドを追わない決断があった事が背景にあると思います。

時速250〜260kmのビックサーブを同じように出来ないと世界で戦っていけないって思うじゃないですか?彼はそこではなく、フットワークを極めれば勝てるって思えていたんだと思います。

別競技のアスリートで近い例で言えば、野球のイチローさん。今のメジャーではパワー系が主流とされている中で、スピードで勝負されてました。

同年代の松井秀喜さんも同様です。彼は日本ではパワーバッターとして大活躍したんですが、メジャーではパワーで戦わずミドルヒッターのスタイルに変えたんです。

普通は自分が積み重ねたスタイルで戦いたいと思います。それを変えられたっていうのは自分のスタイルへのプライドとかこだわりがないんです。

イチローさんも松井さんも晩年の頃には若い頃のバッティングフォームが変わってますからね。

錦織選手も世界のトレンドに固執せず自分の力発揮できるプレースタイルを選んだ。そして自分を信じることが出来る。錦織圭選手の最大のメンタルかもしれないです。

畠山) 「人と違う」っていうのが自分のこだわりで誇りでもあると話している記事もありました。それは自分を信じることを裏付ける言葉でもありますよね。

錦織選手と海外で活躍する日本人選手に見られる共通点

鈴木) その話で言うと錦織選手がよく使う言葉があって「遊びがないとダメなんですよね」って言うんですよ。聞いたことありました?

畠山) いいえ。錦織選手の話では初耳でしたが、「遊びが大事」って言うのは以前の大谷翔平選手の回(過去記事参照)だったり、色々な海外で活躍する日本人選手の話で触れていたのでやっぱり共通点があるんだなって思いました。

鈴木) 確かにそう言えばそうですね (笑) ちなみに錦織選手にとっての遊びとは芸術的な技のこと。ラリー中にネット際にボールを落とす技がその遊びの代名詞です。

それで点を取ることって本来正攻法ではないので卑劣な方法に感じるかもしれない。ですが、しっかりルールの範疇なので相手も理解してはいます。

そういう遊びを取り入れることって大事ですし、それをプレー中に取り入れようと思ったら相手をよく見ないとできないですよね。

畠山) 遊びを通して得られることって多いですよね。実践で活かせることもあれば、自分が成長していく上で楽しみながらスポーツに取り組めるっていう側面もある。

錦織選手の場合はメンタル面でも技術面でもその遊びがプラスに大きく作用しているのが分かります。

鈴木) 日本のスポーツ界ってどらちかというと遊びが許されないような環境です。

この記事を読んでくれてる人が負けず嫌いが良いことという風だけに捉えず、しっかり負けず嫌いのメリットとデメリットを理解して欲しいです。かつその中で遊び心を大事にして欲しいですね。

自分を信じながら遊び心を取り入れる形で競技に取り組めたら世界は近いです。

畠山) 日本人は良い意味でも悪い意味でも一つのことを突き詰めがちですよね。

しっかり物事のメリット・デメリットを理解して良い側面を上手く抽出して取り組めるようになると、海外で活躍できるような選手になるんじゃないかなと思いました。

海外で世界レベルで活躍している選手ほど総じて柔軟性があって楽しんでスポーツしています。型にはまらない性質があると強く感じました。

鈴木) 海外で活躍する選手たちにも共通点が増えてきましたね。こういう傾向がもっと明確になってきたらそのうち一冊の本にしたいですね(笑) 

日本人選手が国内から海外に出るときに大事な要素になると思うのでもっと突き詰めていきたいです。

畠山) 引き続き様々な海外で活躍するトップアスリートから学んで共通点を突き詰めたいと思います。今回も鈴木さんお時間いただきありがとうございました。

鈴木) ありがとうございました。

最後に

今回は錦織選手自身の今までの経験にフォーカスし、どのような要素が今の彼を作り上げているかをメンタルの面から深掘っていった。

その中で見えてきたのが、負けず嫌いということがベースにあるものの遊びを取り入れながら自分を客観的に見て正しく測る能力

昨今の各スポーツ界では世界的に競技で結果を出す上でのトレンドだったり王道というものが存在し、そこに向かってトレーニングをする選手も少なくない。ただそれがその選手のポテンシャルを100%発揮できるものとは限らない

これから世界を目指す子どもたちや、現在結果が思うように伸びず葛藤している選手たちには、もっと自分たちのプレーに遊びを取り入れながら何が自分に合っているのか何を伸ばす必要があるのかを再確認するきっかけとして当記事が参考になれば幸いだ。

今後も錦織選手の動向も含めて、海外で活躍するトップアスリートより成功の秘訣をメンタル面から紐解いていきたいと思う。

Text and Interview by 畠山 大樹

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