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【長谷部誠の強さ】「自己流の確立」スポーツメンタルコーチ鈴木颯人が紐解く海外アスリートの強さの秘密

現代の日本サッカーの代表的なキャプテンとして知られ、先日日本代表から退いた長谷部誠選手
現在はブンデスリーガのクラブであるフランクフルトにてプレー。ブンデスリーガでは現役選手として最高年齢の37歳となり、いまだに世界トップレベルで戦う日本人選手の可能性を引き上げ続けているプロサッカー選手です。

今回はそんな長谷部選手が信頼される絶対的なキャプテンになれた理由、また37歳という年齢になっても世界トップリーグでプレーを続けることができる強さの秘訣についてメンタル面からスポーツメンタルコーチの鈴木颯人さんと紐解きます。

対談者プロフィール

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・鈴木颯人 ~スポーツメンタルコーチ~ 
1983年、イギリス生まれの東京育ち。一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球、BMXレーシングなど、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。

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・畠山大樹 ~BMXレーシング元日本代表~
1992年、神奈川県寒川町出身。株式会社Winspired代表取締役社長。学生時代にBMXレーシングにて日本代表経験あり。BMXレーシングとマウンテンバイク4Xの競技経験を活かし、現在はアクションスポーツ業界の発展のため、アスリートマネジメントを始め、翻訳・通訳、スポーツライター、BMXスクール運営を多岐にわたり行っている。実妹がBMXプロレーサーの畠山紗英。

スポーツメンタルコーチが思う長谷部選手の印象

畠山) 世界を舞台に活躍しているレジェンド選手の1人とも言える長谷部選手ですが、鈴木さんはどのような印象を長谷部選手にお持ちでしょうか?

鈴木) ザ ・キャプテンというイメージが強いです。リーダーシップがある選手という印象です。

元々長谷部選手のことは知ってました。キャプテンになるまでは2008年にドイツのブンデスリーガに移籍した中盤の選手という印象でした。

畠山) 僕は長谷部選手は他の選手ほど自分の感情を表に出さない性格の日本人らしい選手だと感じます。とても謙虚な印象です。

鈴木) 名は体を表すと言いますが、やはりそういった誠実な部分があるんだと思います。「心を整える」(*1)の中でも第9章に「誠を意識する」と自分の名前のことについて話している部分もあります。名前を意識することは大事なことなんです。名前の由来を知り名前に愛着がある人とそうでない無い人では雰囲気が違います。

畠山) 僕はあんまり名前を意識したことなかったですね。。(笑)

鈴木) 私の経験だと名前をちゃんと理解している人ほどなんとなく雰囲気が違う印象です

畠山) 僕ももっと名前に誇りを持ちたいと思います。。(笑)

「長谷部 誠」 = 「ザ・キャプテン」

畠山) 先ほど長谷部選手が「ザ ・キャプテン」という印象があると仰られましたが、キャプテンになるには仲間を引っ張る力だったりリーダーシップを取れる考え方やメンタル的な部分が大きく関係していると思います。

長谷部選手のどういったところが堅実なキャプテン像を作っていると思われますか?

鈴木) 自分のペースを大切にできているところだと思います。自分のペースを大切にできない人って結構多いです。なぜかというと、サッカーで言えば監督だったりチームメイトなど周りの人間の影響を無意識のうちに受けているからです。

畠山) 確かに周りの人と一緒にいると、なかなか自分のペースを大切にすることって難しいですよね。

鈴木) 彼の本(*1)を読んでいると、彼は自分のペースをすごく大事にしているのが分かります。彼が凄いのはそれに加えて仲間も大切にできるんです。自分と周りとの関係のバランス感覚がすごく卓越している。それに誰とでも同じような接し方ができるというところが凄いです。著書にもその意識が垣間見れます。

畠山) キャプテンが全体の指示や選手を引っ張っていく役目の中で、接し方や意思がブレブレだとチームメンバーも信頼できないし不安になると思います。

鈴木) はい。逆にリーダーに向かない人はやっぱり自分勝手にやっちゃう人です。そういう意味では長谷部選手は他の選手の意見にも耳をしっかり立てられる選手です。

畠山) 自分のペースを保ちながらも周りにも気を配れる選手なんですね。

鈴木) 彼は元々中盤の選手だったんですが、ブンデスリーガに行ってから色々なポジションを任されるようになったんです。様々なポジションにも対応できる思考の柔軟性が強みだと思います。

結構サッカー選手だと自分のポジションにこだわりを持っている人が多いんです。こだわりを持つということは良い反面、サッカーのようなチームプレーでは監督にとっては扱いにくい選手になってしまいます。

畠山) 自分の強みを伸ばす意味でこだわりを持つことってありますが、チームスポーツではそれがネックになってしまうんですか。

鈴木) はい。ですから監督にとってこれだけ使い勝手の良い選手はいないと思います。ブンデスリーガでずっと活躍できているのはこういった部分が影響していると思います。

畠山) 柔軟性の欠けたキャプテンですと、監督の指示も通りづらくチームメンバーへの伝達も難しくなりますよね。話にあった彼のそういう資質に年齢による経験が相まってどんな状況でもチームや試合運びを上手くまとめられる判断ができるようになったんだと感じます。

鈴木) チームの中に1人でも長谷部選手のような経験豊富な選手がいるということがとても心強いですよね。

畠山) でも、この年齢でも世界のトップレベルでプレーできているのは凄いです。今年37歳で来年38歳でしたよね?

鈴木) 実は私と同い年なんですよ。そう考えると恐るべき37歳ですよ(笑)(原稿執筆時2021年10月現在)

畠山) そうなんですか!びっくりです!年齢的なところもあるかと思いますが、長谷部選手もメンタル面だったり身体への向き合い方は自分なりの方法を確立されているみたいです。

自分流を確立することの大切さ

鈴木) 長きに渡り現役で活躍されている選手は身体への意識が全く違います。私が感じるのはプロ選手ほどルーティンを確立して徹底できているということ。裏を返すと自分にあった方法をどれだけ早く確立できるかが大事なんです。

結構自分にあった方法を確立できずに現役引退っていう選手もいるので、早い段階で自分の成功法則を確立できたことが長谷部選手の強みだと思います。

畠山) 自分にあった法則ですか。

鈴木) はい。彼の本にも書いてありましたが、やっぱり上手くいく選手は「自分流」を確立しているんです。逆に上手くいかない選手はそもそも自分流を確立するという考えがないんですよ。

野球の上原浩治さんが「自分だけのピッチャーバイブルを作る」と言っていたり、陸上競技の為末大さんは「成功法則は高いレベルに行けば行くほどその人自身に特化したものになる」と話しています。トップアスリートほど自分流の重要性を理解しています。

なのでこの記事を読んでいる方にお伝えしたいのは、「長谷部選手がやっているから私も同じことをやろう」って安易に考えて欲しくないのです。やっても良いんですがそれが自分に合っているかを確認してほしいのです。そして試してみて振り返ることが大事です。

畠山) トップ選手の方法を参考にするのは大事なことだと思います。しかし、人それぞれ考え方や体の作りも違うので自分に同じように合うことはなかなか無いですよね。丸々同じことを取り入れるのではなくて、自分が合う部分を検証や分析することで自分流に落とし込むことが大事だと感じます。

鈴木) でも、まだまだそのまま取り入れる人が多いんですよ。最初はそれで良いとは思いますが、ちゃんと次のステップである自分流を考えるというところに進んでほしいです。

畠山) 長谷部選手は自分流を確立した後も習慣化されているので、自分流をブラッシュアップできる。結果的に年齢を重ねた今、彼の最大の武器になったのですね。

鈴木) 良い意味で強いこだわりがあるということですよね。

畠山) 個人的にですが、こだわりが自分に合っているかを判断するのも難しいと思っています。自分流としてこだわる前に色々な選手の経験や考え方を参考にして吸収する段階があると思います。ただそこから自分流としてこだわる段階を見極めるタイミングが難しいと感じる人も少なからずいると思うんです。いかがでしょうか?

鈴木) その秘訣は「コツ」です。「こうやったらこうなるよね」っていうコツを見つけることが大事なんです。上手くいかない人はそもそもコツを探そうとしないんですよ。常に全力でやろうとし過ぎてコツを見失う人が後を経ちません。

畠山) とにかく全力で取り組んでしまう傾向はよく分かります。

鈴木)例えばサッカーで言えば1試合の中でよく走る選手は10km以上走るみたいなんですよ。ただ上手い選手はやみくもに走っているわけではないと思います。自分なりに分析した効果的な走り方していると思います。それもコツと言えるんですよね。

私も彼らがそういった判断ができる感覚をどこから仕入れるのか正直疑問です。そういう意味では長谷部選手は監督を目指していることが一つの裏付けになりそうです。

畠山) 長谷部選手は監督目指されていたんですか?知らなかったです。

長谷部選手がピッチで信頼され活躍し続けられる秘訣

鈴木)彼はドイツで監督のライセンスを取りたいという話をしています。彼の本(*1)にも書いてあるのですが、普段から監督の意図を読み取るために監督の手法をメモしているみたいです。

ここから読み取れることは、彼は俯瞰して全体像を見て自分が必要な動きはなにかを考えているということです。自分が監督だったらどう選手を動かすのが良いかとか?どう選手が動いて欲しいか?を考えながらプレーしているんです。

畠山) 監督と同じような目線や考え方を持ちながらでプレーができる選手なんですね。

鈴木)そういうことを考えてプレーできるからこそ監督が変わってもずっと試合で使ってもらえるんですよ。これって凄いことで結構監督変わると使ってもらえなくなることってざらにあるんです。

でも長谷部選手には年齢と共にフィジカルやテクニカル面などで衰えることがあっても、それを上回る監督とのコミュニケーション能力の高さや監督の意図をチームに正しく伝達できる能力の高さがある。試合で使い続けられるということはそういった能力がしっかり評価されている証明ですよね。

畠山) 確かにピッチから各選手に監督が指示するのって声も届かないですし、凄い難しいことだと思います。その中で監督の意図を上手く汲み取って選手に同じように伝達できるキャプテンがいるのは大きいですね。

鈴木)分かりやすく表現すれば、監督の分身が選手としてピッチにいるような感覚です。名参謀ですよね。

畠山) 選手側も監督もやりやすいですよね。試合中の難しい局面で監督の指示が素早く通るかどうかで勝敗を左右するきっかけになりますから。

鈴木)監督が前に出てディレクションするチームであるほど、その指示を明確に繋ぐために選手達と監督の接着剤になれる選手が必要なんです。

畠山) 監督としても確かにそういう選手は使いたいですよね。同時にこれだけ長谷部選手が常に使われるということは彼に変わる選手がいないということだと思うので、改めて彼の監督とのコミュニケーション能力の高さを物語っています。

鈴木)サッカー選手として能力的なところを高めることも大事ですが、競技特性としては必ずしも伸ばす能力はフィジカルやテクニカルだけじゃないということです。

競技によってはコミュニケーション能力とかリーダーシップも大事になってくるんですが、意外にそういう部分を伸ばしていきたいっていう人はなかなかいないです。みんな自分の身体的な能力を高めようとし過ぎますから。

畠山) 資質的に元からリーダーに向いてたんですね。そこに加えてこういった能力を伸ばしていったことで今の絶対的なキャプテン像を作り出したと。

鈴木)でも彼は日本代表でキャプテンを務めるまではキャプテンやってこなかったんですよ。

畠山) 日本代表監督の岡田さんが長谷部選手をキャプテンに起用したことが長谷部選手のキャリアの転換点ですね。どうして岡田監督が長谷部選手をキャプテンに選んだのか気になります。

鈴木)おそらく一番は監督との関係性が大きいと思いますが、当時の日本代表選手達が派手な選手が多かったのも理由かもしれないです。メンバーが本田圭佑選手や岡崎慎司選手など自ら前に出ていく選手なのでチームとしてちゃんと彼らの手綱を引ける選手だと思われたのが長谷部選手だったんでしょう。

ブンデスリーガ現役選手にて最高年齢となった今

畠山) いま僕が見ている記事(*2)では37歳になった今でもサッカーで楽しみと喜びを感じていて、現役引退という終わりが見え始めているからこそ一瞬一瞬、一日一日の練習を噛み締めながらプレーできているというお話もされています。

今は純粋に楽しめていて日本代表時のような凄く結果を期待されるような変なプレッシャーはもう無いのかもしれないですね。

鈴木)だからこそマイペースですよね。自分のペースを保てているといいますか。確かにずっと同じフランクフルトというチームでプレーされていますが、毎年チームが変わるより一つのチームに腰を据えてプレーした方がパフォーマンスも良いでしょうね。

畠山) ここ数年は毎年「今年が最後だ」という意識で挑んでいるみたいなので、そういう意味ではプレッシャーにも開き直ってプレーができている。

同時に「経験とか落ち着きでこんなにもサッカーがうまくいくことをより感じているのでこの年になっても新しい発見だらけで楽しい」って言っていますね。

鈴木)年齢的にも以前できていたことができなくなったりと、気が滅入ることもあると思うんですよね。そういう中でも楽しみを見つけようとする姿勢が凄いと思います。

私もこの年齢になって集中力が続かなくなったりするので最近は朝早く起きてハイパフォーマンスで仕事をして、夜ゆっくりするというルーティンを守っているんですが、私もメンタルコーチをやっている中で毎回同じ話は無いので楽しいんですよ。そういう部分から楽しみを覚えることって大事なんです。

畠山) 楽しみを見つけることが大事なんですね。

鈴木) はい。幸福感を感じることが凄い大事なんです。長谷部選手はユニセフ等のボランティアとか寄付活動を引き換えに楽しさを通じた幸福感を得ていると思います。うまくいかない時って幸せには思えないですし。

人間だからこそどういう形で幸福感を得るかは明確にしておく必要はあると思います。ただ意外とそれができなくて自分が不幸と感じてしまう人が多いです。

畠山) 確かにどんな状況でも幸福感を得られるポイントがあれば精神的にも安定すると思います。選手であればプレーに大きく影響する要因になるので特に大事ですよね。

鈴木)間違えないですね。そういう意味では今の若い選手達は長谷部選手を真似てユニセフの活動とかに目を通すだけでも、自分たちって恵まれているんだなっていう幸福感の尺度みたいなものも改めて定めることができるかもしれないですね。

幸福感を得るために必要な広い視野

畠山) 今までの長谷部選手の話の中で、どれだけ「発見」を作れるかどうかが大事なんだなって感じました。自分自身に向き合い続けることで自分流を発見することに繋がると思いますし、幸福感に関しても自分が色々なところに目を向けることで見つけられると思います。

自分にフォーカスしながらも常に周りに目を向けて自分に活かせることを吸収することで精神的にも安定できる発見になると思います。

鈴木)リーダーであるほど物事を俯瞰して見れますからね。ただリーダーになれない人って自分との戦いで一所懸命になっちゃうんですよ。だから自分との戦いで一所懸命になっているなって感じたらユニセフとか世界で起きていることに広い視野で今の自分と違う環境に目を向けることということが大事で長谷部選手から真似て欲しい点ですね。

畠山) 逆にこのコロナ禍だからこそ、特に大事にしたい感覚だなと感じました。一般的にこの感染症で行動が制限されるストレスだったり将来への不安とか、あまり色々な人と会いづらいからこそ過度に自分に向き合いネガティブにのめり込んでしまうこともあると思うので、広い視野を持てることでより幸福感とかストレスを抱えない生活や今後の活動に繋がると思います。

鈴木)忘れがちだけど大事なことです。

畠山) はい。本当にそう思います。僕も目の前のことばかり目がいき、時には自分が不幸と思いがちになることもあるのでもっと視野を広く持って幸福感を感じられるポイントを増やしたいと思います。

本日も鈴木さんお時間頂きありがとうございました。

鈴木)ありがとうございました。

最後に

今回は当シリーズでは初のレジェンド選手を特集。プロサッカー選手の長谷部誠選手にフォーカスを当て、37歳になった今でも世界トップレベルで戦える強さの秘訣についてメンタルコーチの鈴木さんと考察してきた。

絶対的なキャプテンとして監督や選手から信頼される長谷部選手であるが、マイペースでありながら周りのメンバーに配慮できる卓越したバランス感覚と、監督と選手を繋ぎ迅速に意思疎通を取れる高いコミュニケーション能力がキャプテンを任される彼の強みであった。

その強みを作り出すための秘訣が、自分とひたすら向き合い「自己流」を確立させること。自分に何が一番合っている「成功法則」をあらゆる観点から、色んな情報を取り入れては検証し分析しながら自分流に落とし込んでいく。このプロセスへのストイックさが早い段階での自分流の確立を作り出し、今の経験豊富な考え方やプレーに生かされている。

そして最後に幸福感の概念。常に自分が幸福を感じるポイントを持っておくことで普段の生活やプレーの中から楽しみを見つけたり喜びを感じることができる心の豊かさを生み出していることが垣間見れた。

いまだにコロナウィルスが猛威を奮い日々の生活だけでなく将来への不安も駆り立てる昨今であるが、目の前のことに囚われない視野の広さの大切さも彼の幸福感を得るためのプロセスから学ぶことができた。今何かにつまづいていたり、不幸と感じている方には是非参考にして頂きたいと思う。

Text and Interview by 畠山 大樹

(*1 長谷部選手著書「心を整える」 
(*2 参考記事 時事ドットコムニュース
https://www.jiji.com/jc/v4?id=202104hasebemakoto0004

外部リンク

・鈴木颯人
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・畠山大樹
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