静岡遠足! 魚の神様サスエ前田×「馳走・西健一」in焼津
前田さんのお話しは駿河湾よりも深く、
西健一さんとのコラボは富士のように神々しかった!
名だたるトップシェフがこぞって仕入れたがる焼津サスエ前田さんのお魚。
前田さんのお眼鏡に叶う料理人しか仕入れることができず、また前田さんの魚は、オーダーメイドのようにシェフや店の料理に合わせた特別な「手当て」が施され、どんな魚もこれ以上ない状態に仕上がって店に届く。
そして今回、静岡で最も前田さんの魚を楽しめ、「成生」の次に予約が取れないとも言われる店、焼津「馳走 西健一」を舞台に、我が、雅食倶楽部spoona(CHEF-1から改名)主催イベントが開かれた。
そんな「西健一」に今回、東京や静岡から雅食俱楽部spoona会員7名が集い、カウンターで前田さんの魚にまつわる深い話を聞きながら料理をいただけるという、会員制美食サロンならではの贅沢なイベントだ。
どんな魚がその日食べられるかは、当日になってみないと分からないとは言われていた。しかしスプーナの皆さんは「食の運」を持っていた。
店を知らない方のために説明すると、「馳走 西健一」は前田さんの見立てによる魚介をフレンチベースの料理で愉しむことができるカウンターのみのお店。
西シェフが以前広島で人気フレンチを営んでいた当時、前田さんの魚に惚れこみすぎたあまり、いっそのこと前田さんの居る焼津に出店しちゃえ!と一念発起して広島から移住。今年6月に開店したばかり。開店して間もないのに既に来年春までほぼ満席という人気ぶりだから驚く。
静岡から焼津に向かう東海道線の中、前田さんから「キタキタキター!」という熱いLINEスタンプが僕のスマホに入る。
イベント開始に間に合うギリギリのタイミングに、素晴らしいカツオが手に入ったという朗報だった。
そう、「もち旨」の上を行く「もち旨ガツオ」。世界一美味しいカツオと「情熱大陸」でも評判になったあの幻のカツオだ。
会員が店に揃って待っていると、長靴姿の前田さんが息を切らせながら現れ、拍手と歓声が沸き起こる中、前田さんが言う、
「いやあ、なんとか間に合いました。今日は今年一番、人生でもなかなかない良いのが揃った日です。漁師仲間に、今日は頼むよって追い込んだ甲斐がありました!」と笑顔。
そしてコースが始まるのだが、前田さんは、まずこの店の内装について詳しく説明した。
「あの天井や壁、あれは海の中をイメージしてるんです。そして、あの影は、魚を海の上から見たときの魚影なんです。そして、この壁は世界地図、ここが太平洋……」
そう、この店の内装は、海の中、日本一深い駿河湾をイメージしている。
そして、出てくる料理も、その内装にリンクした順番で出されるという。
「まずは、一番浅いところに居る蛤のスープからどうぞ!」と前田さんと西さん。徐々に生息域が海の深いところへと潜っていく。
次にまだ浅めの水域のアジが登場するが、話はなんとも深い。群れをなして泳ぐ魚は、先頭を泳ぐ魚ほどたくさんの良い餌にありつけ、後方を泳ぐ魚は餌を食べそびれているのでカタが小さくなる。
そして、釣りで釣られた魚は、この大群から落ちこぼれた空腹の魚。なので腹ペコで痩せ細っていることが多い。
今回用意したアジは、先頭を泳いだ、良い餌を食べまくったカタのいいもののみ。
「その証拠に、さばいてると胃袋から、ほら、こんなにたくさんの桜エビが残っているんですよ」と見せてくれ、1人ずつ匂いまで嗅がせてくれた。
桜エビのいい香り。駿河湾の極上桜エビを食べてる贅沢なアジなだけあり、見たことがないぐらい恰幅がいい。
釣りアジが良いとも聞くが、本当にカタの良い旨いアジは、群れの先頭にいるのか。
そんな最高のアジのお造りを、尻尾の部分と、身の部分、食べ比べさせてくれる。おお、尻尾の弾力、すごい。
水深が深まり、噂のもち旨ガツオが登場。
魚編に堅いと書いて鰹。しかしそんな鰹の身がいかに柔らかいかを、前田さんがカウンターで片手に持ち、ぐにゃりとして見せてくれるのが分かりやすい。
水揚げされたばかりで餅のような食感をもつ“もち鰹”の進化版として、2017年に前田さんが誕生させたのが“もち旨ガツオ”。ついさっきまで生きていたカツオは死後硬直する前のもっちりした歯応えが魅力だが、反面、まだ旨味が上がっていなかった。それを前田さんが改良。普通のもち鰹は、冷やさないのだが、前田さんはあえて冷やすことで美味しくする。それは茶葉を冷やすことで美味しくなることに似ているのだそう。
もっちりして甘い。独特の鉄の味はどこへやら。今まで食べてた鰹は何だったのか。誰もがそんな感想を食べながらつぶやいていた。
さらに、“釣ったあと泳がせの太刀魚”。
なんとこれ世界でもここだけの漁法で、7年かけてたどり着いた。縦に浮いて泳がせることで美味しさを保つのだ。
水深はさらにさらに深くなっていき、大きな赤座海老が生きた状態でカウンターで披露される。
前田さんが漁師仲間に頼んで用意してくれた最高の赤座海老は、まだ解禁したばかり。
そんな赤座海老にほんのり火入れし、味噌ソースがかかって登場。
駿河湾の赤座海老は国内でも最高レベルで超高級として知られる。
カリフラワーのピューレとトマトといただくと、贅沢な身のぶりぶり感が際立ち、赤座海老ならではの甘みと香りがふわっと鼻から抜けて、感動的な美味しさ。
さあ、勢いは止まらない。
くろむつの炭火焼きには、ナスのピューレを添えてあり、黒く焦げたくろむつの香りとナスとの相性が素晴らしく、焦げ感が味となり香りとなる。
そしてパイ包み焼きは、広島時代からの西さんのスペシャリテ。
香ばしいパイ生地とふっくら仕上がった舌平目が、大葉の風味と玉ねぎの甘み、クリーミーなトウモロコシのソースと相まって、口の中でしっとり美味しく完成する。
メインのお肉も素晴らしい。
西シェフは広島から焼津に移転する際、“噛み締めるたびにスープになる脂”と言われる極上肉「榊山牛」を持ってこられた。そのお肉もコースの中に組み込まれていて、参加者のテンションも上がる。
食の運があるおかげで、白いダイヤといわれる幻の甘鯛、通称「白河(シラカワ)」にもありつけた。
甘鯛には黄アマ、赤アマ、白アマの3種類があるが一般に出回るのは赤甘鯛。
白甘鯛は赤よりも抜群に美味しいのだが滅多に穫れないため幻と言われる。
普通の甘鯛よりも身に弾力があり、脂も乗っていた。その幻の白甘鯛を鱗焼きにし、イカ墨リゾットに乗せた〆としていただく。
いつの間にか、海の深さも、浅瀬に戻ってきて、ゴールに近づく。
東京では絶対に味わえない、焼津で獲れたばかりの鮮度と色つや香りを、前田さんのプレゼンとともに楽しんだ貴重な時間はあっという間に過ぎた。
他では味わえないライブ感は、スプーナイベントならではのイベントだった。
ひとえにコラボしてくれた前田さんと西シェフに感謝である。
そして我が【雅食倶楽部spoona】では、このように食の学びがある、美味しくてためになるイベントや、通常では体験できない特別な宴を、会員限定で毎月開催中。
気になる方は、ぜひとも雅食倶楽部spoonaサイトのイベント欄(https://spoona.jp/event/)ご覧ください。
※本イベントは2022年12月11日に行われました。
(取材・文/すずきB)