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米アスレティックトレーナー資格を持つ医師に聞く!日本のスポーツ環境が抱える「課題」とは

今回は、整形外科医の城内泰造先生にお話をうかがいました。

城内先生は、早稲田大学卒業後スポーツの本場・アメリカの大学院に進学され、アスレティックトレーナーの資格を取得。テネシー州の大学で2年間勤務されたのちに帰国され、日本の大学の医学部に編入して医師になられたという、とてもユニークなご経歴をお持ちです。

スポーツ傷害が起こったときに一番近い場所で選手を見る「アスレティックトレーナー」という立場から、今では自ら診察して診断し、手術を執刀し、現場に復帰させる「医師」という立場までを経験されている方は、なかなかおられないのではないでしょうか。

インタビュー冒頭では主に城内先生ご自身が大切にされていることなどについて、そして後半は日本のスポーツを取り巻く環境と、抱える課題についてのご意見をお聞きしました。

城内先生編集 copy

<プロフィール>
城内泰造(しろうち・たいぞう)。1978年、大阪府出身。多根総合病院整形外科医師。日本整形外科学会整形外科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。BOC公認アスレティックトレーナー 。
現在、トップリーグラグビーNTTドコモレッドハリケーンズ、プロ野球オリックスバファローズのチームドクターも務める。
2002年 早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業
2005年 University of Nebraska at Omaha Athletic Training専攻修士課程修了
2013年 滋賀医科大学医学部医学科卒業

ーーこんにちは。今日はよろしくお願いいたします。まずは、城内先生の現在のお仕事について教えてください。

城内先生(以下、城):外来ではスポーツ整形に限らず、多くの一般整形の患者さんを診察しています。午前中外来をやって、手術の日は午後からオペに入ります。

合間にドコモ(※ラグビートップリーグNTTドコモレッドハリケーンズ)の選手が急に怪我で来院することもあるので、そういうときは時間をやりくりして、本人のためにもチームのためにもなるべく早く診断をつけて、指針を示せるようにしています。

また、オリックス(※プロ野球オリックスバファローズ)のチームドクターとして、上司と交代でプロ野球の現場に帯同もしています。

ドコモ調整

米国アスレティックトレーナーから日本の医師へ

ーー城内先生はかつてアメリカでアスレティックトレーナーとして大学スポーツの現場でお仕事をされていたそうですね。医師になってからも、その時の知識や経験が生かされている部分はありますか。

テネシー1

城:たくさんありますが、特に診察の際に生かされていると思います。私は外来が好きなのですが、例えるなら「謎解きゲーム」に挑んでいるように感じます。

アスレティックトレーナーは画像診断などはできませんので、場合によっては30分〜1時間くらいかけて話を聞いたり様々なテストをして、相手の身体の中で何が起こってるのかを考えます。

医師になると、その答え合わせまで自分でできるんですよね。さらに手術になると、実際に開けて中まで確認もできます。

アスレティックトレーナーをしていたときに、たくさん身体を触って、試行錯誤した経験が今も非常に役立っています。触ったときの筋の緊張具合などの感触を見たり、他の部分はどうなっているかを総合的に考えたりすることが得意になりました。

外来が長くなりすぎると看護師さんに怒られますが(笑)、私は患者さんとの信頼関係を築くことをとても大事にしています。「この先生に診てもらって、それでもダメなら仕方ない」と思ってもらえるくらい、しっかりと評価をした上で診断することを心掛けています。

手術中編集

ーー外来でのお医者さんは常に忙しいイメージですが、城内先生のようにしっかり話を聞こうという姿勢を見せていただけると、患者さんも安心して質問やお話ができそうです。

城:アメリカでアスレティックトレーナーとして大学で働いていたとき、私は選手とコミュニケーションをとりながら、ああでもないこうでもないと怪我の評価をしていたのですが、そのときにチームドクターだった人が見にきて、10秒くらい触って「君は〇〇だ」と診断をつけていったことがありました。

そのあと、裏で選手が「あんなちょっと触ったくらいで何がわかるんだ!」って泣いていたんです

もちろん大切なのは評価にかけた時間だけではありませんが、自分はきちんと相手と対話をして、信頼関係を築くことを大切にしようと改めて強く思った出来事でした。

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少年時代のけがの経験から、スポーツ医学に関心を持った

ーー城内先生が、スポーツ医学を志すようになったきっかけはありますか。

城:私自身は昔野球をやっていて、中学生の時に肩や肘の故障を繰り返していました。その時の指導者は「痛いのは量が足りないからだ。もっと投げ込みをしろ!」というような、いかにも"昔の指導者"という感じの人でした。

そうすると当然ながらどんどん状態は悪くなって、いよいよ投げることができなくなって初めて、整形外科を受診しました。

剥離骨折という診断を受けましたが、そこでもちゃんとしたリハビリをするわけでもなく、温熱療法などだけをやって半年ほど休んで、練習に戻ったらまた痛みが出る、というような状態でした。

結局怪我で引退したのですが、その頃から「自分は何で怪我したのかな」とスポーツ医学に興味を持つようになったのがきっかけで、早稲田大学のスポーツ科学部に進学しました。早稲田にはアメリカで資格を取った先生がいて、そこでアスレティックトレーナーというものの存在を知りました。

オマハ4調整

▲城内先生の母校University of Nebraska at Omaha

ーーそうして、留学されてアスレティックトレーナーになられたのですね。その後、医師になろうと思われたのはなぜでしょうか。

城:アメリカにいたときも長期休暇のたびに一時帰国して、色々な方と話をしました。そこで、アスレティックトレーナーになる人は増えても、日本の状況はなかなか変わらないなと実感したんです。

アメリカでは、医師と連携してアスレティックトレーナーが準医療資格者となっていったという歴史があります。日本では、そもそも医師でもアスレティックトレーナーという仕事を認知していないことが多いのではないでしょうか。

だから自分自身が医師になって、アスレティックトレーナーの社会的地位や認知の向上に貢献したいと思いました。

ネブラスカ編集

▲University of Nebraska at Omaha大学院生時代

スポーツの怪我について、もっと知って欲しい

ーーご自身も怪我で苦しむアスリートだった少年時代から、日米でスポーツ医学を学び専門家となった城内先生から見て、「スポーツの怪我を減らすために」できることって何があると思われますか?

城:そうですね、まずそのテーマに関しては①アスリート、保護者、指導者、②アスレティックトレーナー、③スポーツドクターという3つの視点でそれぞれの課題があると考えています。ここでは①についてお話します。

外来などでアスリート、保護者、指導者の方々のお話をうかがっていると、まず第一に「知識の欠如」が大きな問題としてあるのを感じます。これは、スポーツの知識や、怪我についての知識です。「怪我のことはさっぱりわからない」「そんな話聞いたこともない」というような方も多いです。

指導者の方も、学校の先生が全く知識のないまま仕方なく指導していたり、自分の過去の経験だけを元に指導をされている方もいらっしゃいます。骨折しているとお話しても、「1ヶ月くらいで完全復帰できますよね?」と言われたり、「私の時代はこうだった」などと反論をされる方もいます。

たとえば、野球肘検診で肘や全身の状態をチェックして、「投げたらダメだよ。コーチにも言っておいてね」と選手に指導をするのですが、次の週にもう一度行って聞いてみたら、全く普通に投げていた・・・ということなんかもあります。これでは、私たちがいくら頑張って検診や指導を行っていても、怪我を予防することは難しいです。

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▲野球肘検診の様子

日本の学生アスリートの周囲に、怪我のことがわかる人が全くいないという現状

ーー実際『スポーツ医学検定』は、「怪我のことをちゃんと勉強したい」というニーズから受検されている一般の方が多くいらっしゃいます。

城:とてもよいことだと思います。『スポーツ医学検定』は、選手、部活動の顧問の方、スポーツの指導者の方々などに広く活用していただきたいです。理想は、サッカー部の顧問や指導者になるためには○級を必ず取得していなければならない、というように『スポーツ医学検定』が活用されることだと思います。

私が外来で診ている甲子園出場常連校の野球部の選手でも、かかりつけ医はおらず、アスレティックトレーナーもいない。それじゃあ怪我したときどうするのかといえば、自分でなんなくリハビリをやるか、もしくは何もやらない。というような状況だったりします。

日本では、いわゆるスポーツの上位校といわれるレベルのアスリートでもこのような現状であるということに驚きます。

アメリカだと、大学レベルのアスレティックデパートメントにアスレティックトレーナーがいないとなれば保護者や選手から「この学校大丈夫?」と心配されるし、高校にアスレティックトレーナーがいることに「そんな人がいてくれるなんて、この学校すごい!」って話題になったりしませんよね。それくらい、アスリートの身体を見てくれる人が周りにいることは当たり前になっています。

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▲アシスタント・アスレティックトレーナーとして勤務されていた
The University of the South

城:やはりハイレベルのアスリートになるほど練習量も多く、怪我しやすい傾向があります。県大会や国体など、ある一定以上のレベルの大会に出場するチームであれば特に、最低限の環境を整備すべきだと思います。

本来であれば、未経験の教員に指導を任せて学内だけで終わらせずに、専門の指導者を雇ったり、指導者になることを資格化するなどが望ましいでしょう。

ーーありがとうございます。では最後になりますが、城内先生ご自身の今後の目標などはありますでしょうか。

城:私はあまり表に出ていくのは得意ではありませんが、これからはもっと発信をしていく必要があると思っています。「MD, ATC」を活用したいし、皆さんにも活用してもらいたいです。安全にスポーツを楽しめる環境を作っていくために、多くの人と協力しながら自分自身もしっかりとやっていくこと。

そして、スポーツドクターとアスレティックトレーナーが「なりたい」と思ってもらえるものであり、「ちゃんと食べていける」仕事になるための、1つの力になりたいと思っています。

編集後記:城内泰造先生には現在までのご経歴やそこに至る思い、そして日本のスポーツ環境が抱える課題などについて、幅広くお話を聞かせていただきました。スポーツの怪我は、選手や選手の身近な人たちの知識や心掛けで防げるものも多くあります。スポーツ傷害に関連する最低限の知識をまんべんなく勉強できる『スポーツ医学検定』が、様々な場面で活用されることを願っています。(取材・文/Yuko Imanaka、写真/すべて本人提供)


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