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名門クラブも活動休止海外動向から見るラグビークラブを取り巻く現状

5月末、世界のラグビーファンにショッキングなニュースが飛び込んできました。南半球の太平洋周辺諸国を中心としたスーパーラグビー*に所属するチーム・メルボルンレベルズ(以下レベルズ)が2024年のシーズンをもって活動休止を発表したのです。レベルズは、かつて堀江翔太選手、稲垣啓太選手、松島幸太朗選手もプレーをしていたチームであり、日本でも認知されている人気チームです。また、現在スーパーラグビーのリーグ戦真っ只中でプレーオフ進出の可能性も残されている中でのニュースリリースということもあり、ラグビーファンから驚きの声があがっています。今回の記事では、レベルズのニュースを一つの材料として、世界各国で起こっているラグビーチームの経営危機について迫ります。

*スーパーラグビー・・南半球の世界最高峰のラグビーリーグと言われ、オーストラリアとニュージーランドの各5チームと、パシフィックアイランド諸国(主にフィジー、トンガ、サモア)の選手を中心に構成された2チームによる計12チームが参加をしている大会。


人気チームが活動休止へ

冒頭、お伝えをしたニュースですが、まずはレベルズが置かれていた状況について改めて整理をします。
Rugby Australia(オーストラリアラグビーフットボール協会、以下RA)のリリースによると、レベルズは2011年の発足以降、RAからの助成金や州政府からの財政援助が続いていたにも関わらず、財政的に不安定な状態で独立した経営体制ではなかったと説明されています。そんな中、今年の1月には約2,300万豪ドルの負債を抱え債権者との交渉に追われる緊迫した経営状況となっていました。
レベルズの去就については債権者であるRAに委ねられていましたが、最終的にはその再建計画が不透明であり確実性が低いとして、レベルズを救済するために立ち上げられたコンソーシアムと、RAとの両者間での法廷闘争に発展し、2025シーズンでのスーパーラグビーへの参加は認められずレベルズの活動休止という結末を迎えることになりました。

海外メディアの記事によると、レベルズを救済するために立ち上げられたコンソーシアムがRAに対して提示をしていた救済プランが認められなかったとあります。収入増加と費用削減に関するシナリオの見立てが甘いとRAは厳しいコメントを残している点や、営業損失をRAに補填を求めるといったこれまでと変わらない財務体制に対してRAとしても看過できないという判断を下したように見えます。

世界有数のラグビー大国の一つ、オーストラリアでなぜこのような事態が起きたのか

レベルズが拠点とするメルボルンは、オーストラリアの南東部に位置するビクトリア州にあります。また、日本ではあまり知られていませんが、オーストラリアには大きく分けて3種類のラグビー(フットボール)が存在します。
一つ目がオーストラリアンフットボール、二つ目が13人制ラグビー、最後の三つ目が15人制ラグビーとなっています。日本のラグビーファンからすると、15人制ラグビーのオーストラリア代表「ワラビーズ」が有名ですが、実はオーストラリア国内では15人制ラグビーよりオーストラリアンフットボールと13人制の方が人気があるのです。
またビクトリア州は、オーストラリアンフットボールの発祥の地です。更にNRL(ナショナルラグビーリーグ、オーストラリアを中心とする13人制ラグビーのリーグ)の強豪チーム、メルボルンストームもビクトリア州を拠点としており、様々なラグビーチームが競合し集中している街と言えるでしょう。
こうしたビクトリア州特有の背景もあり、レベルズへの注目が分散した結果、活動休止という結末を迎えてしまったのかもしれません。

ラグビーを成り立たせるために必要な要素

ラグビーという競技は試合を成り立たせるために多くのプレーヤーを準備する必要があります。15人制ラグビーであれば、登録メンバーとして15人+リザーブ選手8人が最低限必要です。それに加えて、コンタクトスポーツということで非常に怪我が多く、チーム全体として50〜70人程度の選手が所属していると言われています。スタッフを加えると100人弱の規模がいわゆる“人件費”として考慮しなければなりません。チーム規模によっての変動はありますが、選手・スタッフの人件費がクラブ支出の4〜5割を占めていると言われ、クラブ財政を圧迫する大きな要因であることは間違いありません。
また、興行の面から考えると選手への疲労やダメージが強い競技特性から試合間隔が他のスポーツに比べて長めに取られる傾向があります。基本的には次の試合まで1週間確保されます。ラグビーシーズンと呼ばれる秋から春にかけて各リーグの総試合数は20試合前後になるケースが多く、野球やバスケットボール、サッカーなどのメジャースポーツより、そもそもの試合数が少ないことが分かると思います。そのため他の競技に比べ入場料収入が獲得しにくい構造となっています。

ラグビーの競技特性ゆえ、そのクラブ経営はチャレンジングであることがお分かりいただけたと思います。最後に、イングランドのリーグで起こったケースを一つご紹介いたします。

イングランド2部のリーグでは先シーズンチャンピオンが活動停止に

昨年の秋、イングランドラグビーの2部に所属しているジャージーレッズ(以下レッズ)というチームが活動を停止しました。レッズは2022シーズンを2部優勝という形で終えましたが、その翌年にチームの活動自体が停止するという、「悲劇」とも呼ばれる事態が起きてしまいました。

チームのリリースには、リーグ主催者側が2部リーグの今後に対して明確な指針を示せなかったために、既存のスポンサーと新規のスポンサーの獲得に大きな影響が出たという趣旨のコメントが残されています。先ほどのオーストラリアのレベルズの例との違いとしては、国内リーグの状況にあると言えるでしょう。
イングランドの国内ラグビーのリーグは「プレミアシップラグビー」と呼ばれる1部リーグ、「チャンピオンシップラグビー」と呼ばれる2部リーグ、「ナショナルリーグラグビー1」と呼ばれる3部リーグというカテゴリーがあります。1部リーグでもこの2シーズンで3チームが経営破綻に陥るなど、イングランドのラグビー界全体として厳しい経営状況が続いています。
これらの状況は、イングランドラグビーを統括する団体であるラグビーフットボールユニオン(以下RFU)がそれぞれのカテゴリーに対して、しっかりと向き合うことを放棄した結果という厳しい声もあります。RFUはプレミアシップラグビーを中心にリソースを割いてきたにも関わらず経営破綻に陥るチームが相次ぎ、さらにチャンピオンシップラグビーの優勝チームについては優先順位を下げて資金援助など支援が出来ていなかったために活動停止になりました。これらを受け、RFUが統括団体としてイングランドラグビーをどのようにしていきたいのかが見えていない現状を憂う記事も散見されています。

各国のラグビーチームの行く末は

日本国内のトップカテゴリーであるリーグワンでも経営状況の悪化などで活動休止となるクラブも出てきています。日本スポーツ界において、昨今”事業化”、“プロ化”が叫ばれており、実際に各競技で新リーグが立ち上がっている中、ラグビー界はラグビーという競技が持つ特異性をどのように生かしていくのか。イギリスのパブリックスクールがルーツとされるラグビー。ラグビー憲章に代表される人材育成の考え方は社会から引き続き求められていくことでしょう。
世界を見渡してみても、各国のリーグでチームの存亡が話題になることも増えています。世界各国のラグビーチームはどうなっていくのか。今後も動向を追っていきます。


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