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カレッジスポーツ界に激震!『新サブディビジョン』構想とは?

2023年12月、NCAAのチャーリー・ベイカー会長は、カレッジスポーツ界に大きな変革をもたらす可能性がある「新サブディビジョン」構想について発表しました。この構想は、NCAAのトップレベルにあるディビジョン1にサブディビジョンを発足するというものですが、果たして「新サブディビジョン」はカレッジスポーツにどのような影響を及ぼすのでしょうか。


NCAA会長、チャーリー・ベイカー氏とNIL

まずは今回公言された「新サブディビジョン」構想を説明する前に、この発信者であるチャーリー・ベイカー氏の就任やNILに関する情報について説明します。

2023年3月、元マサチューセッツ州知事であるチャーリー・ベイカー氏(以後ベイカー氏)がNCAAの会長に就任することになりました。今までは大学体育局長や大学長を経験した人物が会長に就任しており、スポーツ界での就業経験がない人物がNCAAの会長に就任するのは今回が初となります。今回ベイカー氏が就任した背景には、前会長であるマーク・エマート氏のNIL (Name/ Image/ Likeness)に対する対応の悪さより、NCAA加盟校を筆頭に彼への評判が下がったことがあります。(NILに関しては以前の投稿で詳しく説明しています

この時のNILルールは、NILをリクルート、つまり選手を大学に勧誘することに活用してはいけないというものでしたが、NILによって巨額の金額を掲示し選手を大学に引き入れようとする事象は多数発生しており、この取り締まりが政治家というバックグラウンドを持つチャーリー・ベイカーに課された課題となりました。
実際、就任後すぐに彼は強みを活かしてワシントンD.C.にて会合を行っています。合衆国であるアメリカには各州に州法が存在しており、各州に位置する大学はその州の州法によって監督されています。NILも州法によって規制されているため、州法によって学生アスリートがNILによる収益を得ても良いと定められた場合、該当する州に位置する大学の学生アスリートはNILによる収益を得ることが認められます。
ベイカー氏がNILを規制するためには州法よりも優先される連邦法を制定する必要があり、ワシントンD.C.にて会合を行いました。これがNCAAが政治家というバックグラウンドを持つベイカー氏を会長の座に抜擢した理由なのです。

「新サブディビジョン」構想

NILとベイカー氏の就任した理由について理解いただいたところで、次に「新サブディビジョン」について説明します。

2023年12月5日、ベイカー氏がディビジョン1加盟校に「新サブディビジョン」に関する書簡を送り、翌日6日に登壇したSports Business Journal(SBJ)が主催するSBJ Intercollegiate Athletics Forumにてその詳細を説明しました。


書簡の内容は、今後NCAAが新サブディビジョンの設立を考える中で、設立の経緯及び新サブディビジョンの内容に関して書かれていました。また、ベイカー氏は6日の登壇後に彼のXにて、書簡の内容及びSBJ Intercollegiate Athletics Forumでの話に関して説明する投稿をしています。


新サブディビジョンの設立や活動内容などは不明な点が多く、今後議論が進められると思いますが、現時点での「新サブディビジョン」構想については以下の通りです。

  • 現在のディビジョン1をさらに分けるため、サブディビジョンを新たに設立

  • 新サブディビジョンに属する大学は、大学所属アスリートの半数に対して最低でも年間3万ドル(450万円)を支払うこととする。※1ドル=150円計算

  • 新サブディビジョンに属する大学に対しては、他の大学とは異なる奨学金やロスターのサイズ、リクルート、移籍、あるいは選手の名前、肖像、肖像権(NIL)から金銭を得る活動に関連するルールを作成する

  • すべての大学が新サブディビジョンに参加する必要はなく、各大学の判断に委ねる。

以上が現時点での主な内容となっています。

現在のディビジョン1の大学の学生アスリートの平均人数は360人のため、最低でもその半数の180人に対して3万ドルを支払うとなると、最低でも年間540万ドル(8.1億円)を毎年支払う必要があるということになります。

「新サブディビジョン」構想の背景にあるものとは

新サブディビジョンの内容を理解していただいたところで、次は今回の新サブディビジョン設立の背景を説明します。

新サブディビジョン設立には2つの背景があると言われています。

NILによる大学の脱退を防ぐ

NCAAはカレッジスポーツのアマチュアリズムを大切にし、学生アスリートはあくまでも学生、アマチュア選手であるという考えのもとで活動している組織です。一方、カレッジスポーツの人気が増し、大学やカンファレンスが学生アスリートの試合・活躍により巨額な利益を得ているにも関わらず、学生アスリートたちは収益を得られないことに対して批判の声が相次いでおり、NCAAに対する訴訟も起きていました。その声の高まりに対応し、2019年にカリフォルニア州は学生アスリートがNILを活用して収益を得て良いと州法で定めてしまいましたが、これに対して当時のNCAAは、NILを利用してカリフォルニア州の学生アスリートが収益を得るのであれば、その大学はNCAAから脱退させると発言したのです。NCAAはこれによってNILの活用を抑制でき、大学もNCAAに留まり学生アスリートのアマチュアリズムを保つことができると考えたのですが、状況は一変、カリフォルニア州と同様に州法の制定を進める州が次々に増えてしまいました。
それらの州の大学が全てNCAAから脱退してしまうとNCAAとしての価値を毀損するため、脱退させる案から連邦法を制定し制御するよう方針を変更、政治家に働きかけましたがそれもうまくいかず、NCAAはNILを認める方向で今後動いていくことを声明しました。ですが、その後NCAAからは具体的な対策等を出すことなく、各チーム、各カンファレンスに対応を任せ、Pay for Play(プレーに対してお金を支払う)の仕組みがすでに成り立ってしまっている状況を見てみぬふりしてきました。そしてやっと今回の新サブディビジョン構想に至ったというわけです。

大学の収益力格差の拡大による競争力の不均衡

現在のディビジョン1では、大学ごとの収益力格差が拡大してしまっているため、収益性の高いスポーツであるアメリカンフットボールやバスケットボールにおいて戦力の不均衡を生み出しています。ディビジョン1内の59校が年間1億ドル以上、32校が5千万ドル以上を運動部に費やしている中、259校は5千万ドル未満しか費やせていません。この問題を解決するため、新サブディビジョンでは裕福な大学とそうでない大学を明確に分けることで、各大学スポーツチームがより平等な競争環境で活動できるようになります。また、新サブディビジョンでは、所属する大学が独自のルールで運営することが可能になります。

もちろん今回の新サブディビジョンの設立により、参加できる大学に対するさらなる優遇ディビジョン1内の二極化など様々な懸念点があり、今までNCAAを支持してきた人からは反アマチュアリズムであるという批判の声があります。その一方で、今までNCAAを批判してきた人からは、今回の意見に対してカレッジスポーツのより良い未来へ向けて前向きな一歩を踏み出したと賞賛する声が上がっています。

オハイオ州立大学の体育局長である、ジーン・スミス氏はNCAAの会長であるベイカー氏からの手紙に対し、「あなたのリーダーシップに感謝します。私はあなたの努力を100%支持しており、Intercollegiate Athletics(大学間で行われるスポーツ活動のこと)は、今回のような積極的で前向きな考えを必要としています。手紙をありがとう!」とXに投稿していました。

最後に

今回はNCAAの「新サブディビジョン」構想に関して紹介しました。カレッジスポーツの影響力が大きすぎるために起きてしまったNILの問題が長年に渡り曖昧にされていたなか、ベイカー氏に会長の座が移って1年もしないうちに今回の発表が出たことに、私自身驚きました。この構想が大学スポーツを壊してしまうことになるかもしれないと考えると、やはり慎重に決めていくことが今後のカレッジスポーツの発展につながると思います。

今回ご紹介した「新サブディビジョン」構想、今後どのような発表がされるのか、NCAAがどのように変化していくのか、ファンはどう変化していくのか、引き続き注視していきたいと思います!


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