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チェルヴィニアをオークス馬に導いた鬼才C・ルメール騎手の外偉人レコード②

 春の天皇賞を予想しながら心浮き立っていた頃、フランスからオリビエ・ペリエ騎手の引退を報せるニュースが、我が国の競馬ファンにも舞い込んで来た。春の嵐にもめげず可憐に咲き誇っていた競馬界の重臣が、遂に鞍上を降りるチェリッシュな時が、遂にやって来たのか...ニッポンを愛したレジェンド外偉人ジョッキーにふさわしい葉桜の季節の、儚くも切ない美しい散り際の様にも映った。

若き日のC・ルメールに薫陶を授けた競馬界のレジェンド、オリビエ・ペリエ騎手

 ファミリーマートの夜勤で夜な夜な日銭を稼いでいた学生時代から駆け出しの赤貧時代に掛けて、ペリエは僕の救世主だった。神社の境内に背を向けてノートルダム寺院に賽銭を投げるような背徳感に苛まれながらも、ひたすらフランスの雄にばかり、なけなしの1,000円を託した、笑。結果、ムッシュ・ペリエに裏切られた記憶は全然無い。彼が騎乗したゼンノロブロイ、ゼンノエルシド、ゼンゼン全幅の信頼に価した。まさに仏の様な仏蘭西人騎手であった、笑。

2001年11月25日、ジャパンカップを制した3歳のジャングルポケットとペリエ騎手



 極めつけは、2001年のジャパンカップであろう。圧倒的な強さと威厳を誇り、その名にふさわしく王道を突っ走っていたテイエムオペラオーと和田竜二のコンビを、3歳馬・ジャングルポケットに跨ったペリエが颯爽とクビ差、差し切って魅せた圧巻の府中2,400mである。類い稀にキュートな”ジャンポケ”などと命名された愛嬌溢れる若きスピードスターの手綱を任され、世紀を跨いで君臨する絶対王者に挑む。そんな両頭を絡ませた鉄板馬券を買わないわけがないではないか、其の馬連が来ないわけがないではないか。

 果たして、思い描いたガチガチの1-2フィニッシュは叶い、ジャンポケとペリエがオペラ王様を降して戴冠を遂げ、ジャパンカップの祝盃を掲げた。「トレビアーン!ムッシュ〜メルシーボークー!(すごーい!ありがとーー旦那さま~!)」ノートルダムにスガった我が祈りが通じた瞬間である。おー!なんとなく聴こえたましたぞノートルダムの鐘!たぶん空耳ですが。。後日、微々っと数千円に化ける勝馬投票券をWINS浅草の地階で換金し、その足で国際通りを渡り、西浅草の来集軒に寄って焼豚麺と、配当が幾らか佳い場合には御ビールにさえありつけたものだ。ぷは〜♪お陰様で、アーメンラーメンチャーシューメンご馳走様でした。

鉄板馬券が当たるといつもの中華そばに焼豚を追加するブチ贅沢@西浅草の来集軒
浅草らしく噺家や芸人、関取衆らの色紙が店の壁を埋める。



 クリストフ・パトリス・ルメールは昔日、既に飛ぶ鳥を落とす勢いでニッポンのターフを席巻していた同胞の大先輩、オリビエ・ペリエの活躍と薫陶に大いなる刺激を受け、極東に浮かぶこの単一民族国家の馬場を駆ける覚悟を固めた、と云う。フランスに生まれ落ちながら、163cmの小柄に恵まれた運命からして、ジョッキーは天職であり、太陽の出ずる国で燦燦と輝く宿命さえ宿していたのかもしれない。

トレビアンな騎乗でニッポンのKEIBAファンを魅了するクリストフ・ルメール騎手【JRA所属】


 クリストフの父、パトリス・ルメールもまた、障害レースの名手として、フランスでは名を馳せたジョッキーであった。愛息の将来を按じた父に諭され、従順なクリストフはその愛をひとまず受容れ、競馬学校への進学を断念する。普通高校に学びながら、アマチュア騎手として競走馬に跨る青春を、のんびり謳歌した。沸々と思春期に温めたパッションが完全に煮え滾った世紀末の1999年、晴れてフランスの騎手免許を取得すると、いよいよ競馬界の大草原へと駆け出して行く。血気盛んな青年はすぐさま、フランスのみならず国境を跨いで、各国の異なる芝生の上で個性豊かなレーシングホースに跨って、修業の旅に明け暮れる。その旅の空の下、青かった実は徐々に赤く熟していくこととなる。

 そして2003年には東洋の島国・ニッポンに渡る英断を降す。JRAのターフで、武豊を筆頭とするライバル達に揉まれながら、やがて自らの背中を東方へと押してくれた憧れのオリビエ・ペリエやランフランコ・デットーリ(イタリア)らとも肩を並べる存在へと、スターダムを駆け上がって行く。

2024年5月19日、オークスを制したチェルヴィニアとC・ルメールのコンビ。

 去る日曜日にオークス《優駿牝馬》を制した3歳牝馬・チェルヴィニア号の名前は、マッターホルン山麓に存在する集落に由来するらしいが、どうやらその村落の名は【赤い鹿の角】を意味するらしい。
え⁈貴女は3歳のメスのお馬さんなのに、お名前はバンビみたいな《赤い仔鹿ちゃん》なのねso cuteじゃないの!へ~そうなんだ~~へ~!しかもそのギャルにルメールが跨るんですぞ!多少、鞍上にジェラシーも感じますが、勝馬投票券を現金に換えるには、やはり、このムッシュの魔術が必要なんですな!天才O・ペリエが絶賛したこの鬼才C・ルメールにもまた、期待を裏切られた記憶が、ほとんど無いのである。

マッターホルンを見上げる《チェルヴィニア》ってこんな風光明媚な絶景地。
夏にはアルプスの老婆・ハイジお婆ちゃんが出て来てくれそうな村落ですな。

 本題に戻ろう。なぜ、ルメールは、騎乗した競走馬を斯様に高い確率で勝利に導けるのか?その確率は、鈴木誠也のホームラン連発に緒方孝市監督の長男が発したと云う「神ってる」レベルを遥かに超越しているではないか。セイヤのホームランでカープ球団から金一封や大入袋が配られることは無かったが、ルメールは人気に着実に応えて、低配当ながら、ちゃっかりお小遣いをも運んで来てくれる、笑。有馬記念の頃なんて、ウマに跨るルメールジョッキーが、トナカイに跨るワシらのサンタクロースに見えるわけである。また本題から逸れてしまった。。

 前述したようにルメール自身の血統や、そのお陰でもたらされた恵まれし環境と経験、そしてJRAへの移籍を断行したような決断力と実行力、その決断に至った運命の導きと、その運命を良かれと寛容する素直なキャラクターなどなど。しかし、それでもやはり、まだ神懸かっているじゃないか。。

 なんで勝てるの?WINS広島から帰宅して、オークスを制したルメールのジョッキーカメラをYouTubeで何度か流し観た後で、その勝てる秘密の最後のカギが映っていた、と身勝手に感じて、私はようやく腑に落ちた気になっている。2分24秒0にはクリストフ・ルメールの勝たせる騎乗の流儀が刻まれているはずだ。

 最初と最後が肝心なことは論外だが、道中も一貫しているのが、ルメール自身の気持ちの波である。あたかも、湾の奥深くに微かに届いたさざなみを眺めている様に穏やかではないか。同時に、ハヤり昂る周囲のジョッキーの荒波の様な精神的激動の唸りも、轟音の向こうから伝わって来る。

 だがルメールは決して、繊細なハートを備える相棒の感情を煽らない。最後の直線、真の勝負処に来ても、チェルヴィニアの馬力を信じて優しく撫で上げる様に、GOサインを送っている。「今だよ。勝てるよベイビー♪」と自信と愛を相棒に捧げているように映るではないか。GOAL板を駆け抜けて初めて、解き放たれた様に自身大きく喘ぎ、周囲に「アリガトウ」そして相棒を”GOOD GIRL!”と労っているが、道中、一切の昂揚も、自身の呻きさえ記録されていないし、感じられない。それが、跨った相棒を気持ちよく走らせてあげる為のクリストフ・ルメールの愛と流儀なのではないか、と僕は感じている。

 時の人・大谷翔平も常々「イライラした時点でヒット出来る確率は確実に低下しますから」と語り、自身のメンタルを淡々と見張りながら、リーディングヒッターレースの先頭をひた走っているようだ。やはり、いかなる職場に於いても、心の波動を穏やかに安定させて、目の前の職務にポジティブに対処する事こそが、高いパフォーマンスを発揮するベースにある、そして、やはり愛情なのだ!と、一昨日45歳の誕生日を迎えたばかりのレジェンドジョッキーとキュートな3歳牝馬のコンビに、あらためて教えられた気がしている。
Joyeux anniversaire Monsier Lemaire!(ムッシュ・ルメール!誕生日おめでとう。)

P.S. I LOVE YOU CERVINIA...ひとめぼれしてしまいました。つきあってください。らいとらいとる

追伸、齢を重ね、余計な欲や邪念が加わると、勝馬投票券は、此の様に、掠るだけで的中しなくなりますので御注意下さい、笑。



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