女子アスリート健康相談室Vol.2 生理の仕組みを知ろう
近年、女性特有の課題が取り上げられることが多くなってきました。みなさんも女性の身体について正しい知識を身につけ、より素敵なハンドボールライフを送りませんか? 弊誌『スポーツイベント・ハンドボール』2019年12月号から20年6月号まで連載していた婦人科スポーツドクターの高尾美穂先生による「女子アスリート健康相談室」を全文公開します。第2回目は、生理の仕組みについて。
・連載第1回はこちら
生理について詳しくなろう
今回は生理の仕組みを詳しく学んでいきましょう。
女性ホルモン・エストロゲンの分泌がピークを迎えると、そのあとに排卵(卵巣から卵子が排出されること)が起こり、妊娠できるチャンスがやってきます。その後、妊娠をしているかもしれない身体では、2つ目の女性ホルモンであるプロゲステロンが分泌されます。
そして、妊娠成立していなければ、プロゲステロンが分泌されなくなります。すると、赤ちゃんのために子宮の中に準備していたベッド(子宮内膜)が、今回は使わなかったね、と身体の外に出ていきます。これが私たちが毎月目にする生理です。この生理という現象は、いわば女性ホルモンの一連の変化の最後に起こる出来事なのです。
排卵後、かつ、生理前におこる身体の変化を月経前症候群(PMS)と呼びます。例えば、妊娠に向けていろいろなものを身体にため込もうとするプロゲステロンの働きによって、便秘や頭痛が引き起こされます。このような生理前に「いやだな」と思う諸症状は、排卵があったからこそ起こること、という理解もできるかもしれません。
また、生理を起こすきっかけとなるエストロゲンは、生理以外にも、肌や髪の毛の健康を保つ、コレステロールの値を下げる、血管を強く保つ、骨量を維持する、といった大事な働きをしています。
ですので、生理が来ることは毎月わずらわしく思えるかもしれませんが、生理が来ている=身体がちゃんと機能している、というサインであるということを理解しておいてください。もちろん、困っていることはしっかり対策をしていきましょう。
生理周期のメカニズムとは
ここまでお話ししてきたように、生理はホルモンの変化で起こる現象です。下記の【図】のように、エストロゲンは排卵後に一度は減少しますが、プロゲステロンの増加に合わせてもう一度分泌され、2つのホルモンが出なくなってから生理が来るので、エストロゲンは2つの山・フタコブラクダ、プロゲステロンは1つの山・ヒトコブラクダと表現されたりもします。そして、この生理が来てから次の生理の前日までを生理周期と呼びます。
【図】28日周期における女性ホルモンと基礎体温の変化
排卵から生理までは14日と決まっていますが、生理が来てから次の排卵までは人それぞれ。11日後に排卵があった人は25日周期、24日待ったら排卵が起こった人は38日周期になります。25〜38日に1回来る生理は正常とされており、意外と生理周期には幅があります。
では39日に1回の人はというと、たまにしか来ない生理という意味で希発月経という病名はつけられますが、治療しなければいけないかというとそうではありません。絶対に治療が必要になるのは生理が3ヵ月空いてしまったら。月経不順の中でも「無月経」と呼ばれる状態です。
しかし、中高生年代だと生理周期が不安定な人も多いと思います。ですので、正常よりも遅いけれど、待っていれば生理が来るというタイプの人は、まず自分の生理周期を記録しましょう。そして、3ヵ月空いてしまった場合には、一度婦人科に相談してください。
ちなみに、お薬などはなにも使わずに生理周期を28日ぴったりにしたいと言われても、それは難しい相談です。生理周期は自分でコントロールできるものではないからです。
身体の状態を知るために私たちができること
みなさんが今回の生理が変だったと感じて婦人科を受診する時、婦人科医がなにを知りたいかというと「変だと思った生理の前はどんな状態だったのか」ということです。しかし、その時期にはたいてい記録がありません。毎日血液検査をすれば、ホルモンの状態はわかりますが、現実的ではありません。
その代わりになるのが、基礎体温です。プロゲステロンには0.3〜0.6℃ほど体温を上げる働きがあります。小数点2ケタまで測れる婦人体温計を使うと、この微妙な体温の変化をキャッチすることができます。つまり、生理の前に体温が高い時期がある=プロゲステロンが出ていることがわかれば、その前に必ず排卵があり、エストロゲンも出たはずだ、とさかのぼって確認することができます。
生理が来るタイミングがバラバラだという人は、基礎体温を記録してください。各競技の日本代表選手には、コンディション管理の1つとして基礎体温をつけている選手が多くいます。より上のレベルをめざしたいのであれば、自分の調子を把握することがとても大事です。
また、生理の量が多いことに悩んでいる患者さんもいます。なかなかほかの人と比較する機会がないので、受診するべきか迷うとは思いますが、自分の判断で構いません。量が多くて自分が生活に困っているのであれば、それだけで婦人科の先生に相談していい内容です。
一応、目安をお伝えしておくと、3〜4時間で夜用サイズのナプキンがいっぱいになるようであれば、明らかに量が多いです。血の塊が出ることもありますが、それ自体に問題はありません。しかし、500円玉を超えるサイズである場合には、婦人科に相談してください。
婦人科スポーツ医学の立場からすると、生理にまつわるアスリートの問題は、大きく分けて、生理が来ないことと、毎月やってくる生理に困っていることの2つがあります。これは分けて考える必要があります。ハンドボールのような体重制限のないスポーツでは、1つ目の生理があまり来ないという方は少ないので、次回以降は2つ目の問題点をメインにお伝えしていきます。
COLUMN
運動時の生理との付き合い方を考えよう
生理用品と言えば、日本では紙ナプキンが一般的です。普段は94%のアスリートが紙ナプキンを使用しているというデータもあります。しかし、アスリートに月経期間中の悩みについてアンケートを取ってみると、お腹や腰が痛いという訴えといっしょに、ナプキンがずれる、血が漏れるという声があることも事実です。身体と生理用品がフィットしている状態が望ましいですが、たいていの選手が生理用パンツを履き、その上に、スパッツと短パンを重ね履きしているのではないでしょうか。何枚も服を重ねることで血が漏れることは防げる一方、ナプキンがずれる原因にもなります。ですので、なにかしら自分に合うものを探してみることをオススメします。
現在、スポーツメーカーによっては、生理用パンツとスパッツが一体化したものが発売されていますし、ナプキン以外にタンポンという方法もあります。タンポンは性交渉を持っていなくても、だれでも使用可能です。まず試しに細いタンポンを使ってみることも、アスリートにとって1つの選択肢です。
ただし、タンポンは腟の向きと挿入する方向が合っていないと、痛みを感じることがあります。初めて使用する際は、まず大人に相談してみてください。
また、タンポンにはいくつか注意事項があります。例えば、使用後は必ずナプキンなどタンポンでないものに取り換えてください。連続使用は、トキシックショック症候群を起こす可能性があります。使用上の注意事項を守って正しく使いましょう。
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