6月東京生活②
小皿が300円なのは店の外からわかっていたけれど、食べると決めていた油淋鶏がなかったので通常メニューを見て、味噌那須炒めと木の子豚肉炒めを頼んだら、ビールが早々にきた。カウンター用の高椅子は足が細長く底面が平たい金属で、腰の勢いで前方に引くと、底面の全部が床にぶつかってパンと鳴った。
ビールは生臭い感じがして、これはどこかで読んだ樽の洗浄具合のせいだと思うきらいがある。注文を頼み終えてから読み始めた文庫の続きを片手にビールを飲むのに顔が上がると、カウンターの目の前にある水槽の中の金魚が水槽の底の黒い石を吸っては吐き出しているのを見る。餌がこびりついているのか、趣味なのか、つついて吸い込んではパシュと吹き出していて、下向きに泳ぎそれを続けている。
カウンターの前には小さい水槽が三つ横並びになっていて、私は真ん中と右の水槽の間ぐらいに位置していた。真ん中の水槽には金魚よりもっと小さいのがいて、なぜか真ん中と左の水槽にだけ電気がついているが、右の電気は切れているだけなのかどうかは不明。薄暗い。真ん中の白透明の小魚群を見ていたら、おそらく空気をボコボコ出す細い筒があって、それがボコボコ言わずに静かにあった。これは切れていると思って見ていると、筒の真ん中あたりに白透明の、白濁した魚が引っかかって揺れていることがわかった。他の魚がたまにそいつを突いては流れていく。筒にまず目がいって、照らされた小魚群を見ていたが、その白濁したやつに気づくのは遅くなった。一旦目にすると、他の小魚群や右の石を吸う金魚は見なくなって、その挟まって揺れている白濁と、たまにそれを突きにくる小魚だけが目にはいるようになったので、文庫に戻ることにした。先に味噌茄子がきた。
特にお高い店で思うことが多いような、頼んできた皿が大きく中身が少なくて驚かないようにするのとは逆に、小皿ではないさらにどっかり味噌茄子がきた。続けてきのこ炒めがきた。同じ皿の大きさだった。私は一人で、ビールは半分飲んでいた。多いとは、思わないようにした。食べるときには文庫を持たず食べ始めたが、その勢いだとビールがなくなると思ったので、味噌茄子ときのことビールの回転のなかに文庫も入れることにした。机はベタベタを拭き取ったようなカラカラで、机に文庫を置くことには躊躇わなかった。途中から持ち帰りの透明のプラスチック容器を、店の外の「TAKEOUTできます」を思ったけれど、皿の上の味噌茄子の周りを縁取っている赤オレンジの油を見て食べ切ろうと思った。文庫を置いて、ビールの間隔を開けて、黙々食べることにした。皿がデカくて交互に食べるには箸の移動が大きかったら、味噌茄子を大方食べて、きのこ炒めを全部食べて、味噌茄子を全部食べた。最初にいた客は一人、麺類を食べながらずっと片手にスマホを持っていて、後からきた高齢の夫婦らしき二人はテレビのドミノピザを見ながら何度もカウンターで頼んだメニューがないと言われては注文を変えていた。
①雨が降る前の湿気のなかでも、息のしやすい湿気もある。②エアコンがないと部屋が湿気苦しいようになってきた。③6月の後半は目玉焼きばかり食べていた。④洗濯物が乾かないので永遠に脱水の音が部屋に響いている。⑤この前、でかい月を見た。
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