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人生から「惑い」が消えることってあるのかな? - 映画・『チャンシルさんには福が多いね』を観て -


予想外の苦難が降りかかることもあるし、努力が報われるかどうかなんてわからない。先が見えなさすぎるあまり、あいも変わらず「自分はなにがしたいんだろう?」、「私は何者なんだろう?」と問う毎日。自分の人生を生きているはずなのに、なにひとつ「確信」が持てないまま、28歳も終わりに近づいている。いったいいつまで悩み続けながら、歳を重ねていくのだろうか。

そんな疑問をきれいさっぱり解決! はしないけれど、同じ目線で一緒に模索してくれる作品に出会った。韓国映画・『チャンシルさんには福が多いね』である。

【あらすじ】
映画プロデューサーとして働くアラフォーのチャンシルさん(カン・マルグム)は、長らく支えてきた映画監督の急死により仕事を失ってしまう。映画だけに全てを注力してきた彼女は、気づくと恋人も子供も家も持っていなかった。どうしようもない状況に追い込まれた彼女に、ある日、恋の予感が訪れる。(シネマトゥデイ


「四十にして惑わず」。
「人は40歳になれば、道理を知って迷わない」という意味だ。しかしチャンシルさんは、四十にして惑いはじめる。全身全霊をかけてきた道標を失ってしまったから。見つからない仕事、なにがしたいかわからない自分、久しぶりにできた好きな人。芋づる式に現れる「惑い」に、とりあえず右へ左へ動いてみるものの、バランスが取れずぶつかりまくる。

そんな彼女を気にかけてくれる人が3人いる。
ほとんど唯一の友人で、妹のようにかわいがっている俳優・ソフィ。職を失い引っ越した先の大家のおばさん・ポクシル。そして、チャンシルさんにしか見えない謎のランニング姿の幽霊(香港の映画俳優レスリー・チャンを名乗ってくるがまったく似ていない)。彼がなぜ幽霊になったのか、なぜチャンシルさんにしか見えないのかは最後までわからない。しかし、良き相談役としてそばにいてくれる。3人とも個性的で、ちょっとズレてて、でもあったかい。


レスリー・チャンを名乗る、おかしみにあふれた幽霊。
謎が多すぎるけれど、クセになるかわいさを持っている。


全体的にコミカルで笑える要素は多めだが、チャンシルさんの悩みに見覚えがありすぎるばかりに「うっ」となることも多々。人生から惑いが消えることはあるのか? 考えながら観ていたが、たぶんないのだろう。これからも出くわすたびにもがくのだ。それでも模索をやめなければ、意外なところに「福」を見つけられるかもしれない。


ちなみに私はこの作品を観ながら、私は大九明子監督の『甘いお酒でうがい』、『私をくいとめて』を思い出していた。妻でも母でもない、アラフォー独身女性を描いている点で前者を、主人公の脳内に住み着くもうひとりの「私=A」に、幽霊版レスリー・チャンを重ねてしまった点で後者を。

そんなことを考えながらパンフレットを開いたら、しょっぱなの企画で、本作の監督キム・チョヒ×大九明子の対談が組まれていた。私にとってベストな組み合わせ。大九監督作品が好きな人は、ぜひチェックしてほしい。



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