安藤哲也著『「パパは大変」が「面白い!」に変わる本』言葉拾い

 NPO法人ファザーリング・ジャパンの代表理事を務める著者の本。
 別の育児書も途中まで拾いながら読んでいたけれど、97年著と古くて時代錯誤感が否めなかったのと、そもそも文体が気に入らなかったのとで棚に揚げてしまった。
 代わりの育児書を何か...というときに書店で見つけて本著を購入。17年発行という新鮮さ、いかにも男性向けというタイトル、あとファザーリング・ジャパンを以前から小耳に挟んでいたこと、などがチョイスの決め手。

真面目なパパほど「家族のためにも仕事を休んではいられない」「でも、家事も育児も頑張らなくては」というジレンマに陥り、「イクメン」の理想と現実の乖離に苦悩している

 とても分かる。僕自身もそういうジレンマに陥る可能性もあった。
 でも僕の場合は「イクメンの理想を実現すること」に重きを置き、「家族のために仕事を休むことがキャリアアップに繋がる」と信じきったので、あまり苦悩しなかった。
 世に男性育休を広めるためには「イクメンの理想」を持っていない男性にそれを教えることと、「家族のために〜繋がる」が事実として認められる社会になること、が大切なのかなと考えた。これら2軸での考え方は後々にも出てくる。

産後クライシス

 産後、夫婦仲が冷え込む現象のこと。

ママは産前産後の大変な時期にパパに傷つけられたことは一生忘れません。

 「産前産後」のママへのケア、大切。僕も職場で耳が痛いほど言われた。そのおかげもあってケアには尽力したつもりだし、いまのところ根に持たせてしまっていることはないはず。ないはず。

ママたちが求めているのは、パパのもう少しの家事・育児時間、そして夫婦の会話をする時間

 離婚願望の有無で円満夫婦と不満夫婦に分けて分析。家事が10〜15分、育児は20〜30分足りない。夫婦の会話は3倍の差。明確な時間は明記なかったため、僕の現状と平均で比較してどうかは分からない。

家庭内母子家庭

 パパが長時間労働のために育児に参加できず、ママだけで育児を進めている状態。この状態になると、

しつけや教育について、過度に子どもをコントロールしようと、ママは無意識に厳しくなってしまう
 (中略)
子どもは内面に「自己肯定感」を育てることができません

という。パパもしつけや教育に参加していく必要がある。その上で厳しくならないように気を付けたい。

現代のパパが抱える悩みは、個人の努力だけに頼るのではなく、社会全体で解決していかなければならないという認識が広まる必要があります

 育児に限らず全般的に、個人主義的風潮が広まっているように思う。けれども子は次世代を担う、社会としての共有財産。社会全員で子ども全員を育てていかないといけないと思うし、だからこそ社会的なルールを構築し運用しなければならないと感じる。
 大切なのは、この認識に否定的な層に納得してもらうこと。その層とは次の3パターンに分けられると思う。
  (1) 育児を個人で全うしてきた/しようと考えている層
  (2) 育児に無関心(パートナーにまかせっきり/子がいない)な層
  (3) 次世代の教育よりも現在の仕事のほうを重視する層
 僕が育休を取得しようとしたときの経験としては(2)(3)が手ごわい。(1)にはエンカウントしなかったかなあ。
 この認識違いってどう納得してもらえるんだろう。本著の中では特に言及されていなさそうだ。著者が何かしら進めてきていると察するので、どこかで知ることができればと思う。いや、ファザーリング・ジャパンの活動自体がこれそのものなのか。

家庭の事業計画と戦略

 これ、とても面白い。日中の勤労ですっかりビジネス脳になっているパパたちが、育児について考えるべきことをビジネス語で表現している。子どもが20歳になるまでの家計のやりくりを事業計画と言ったり、パパの育児・家事参加度合いを自己資本比率と言ったり。
 参考までに、未就学児の固定費(=子育て費用)は平均年104万円らしい。高い。僕らの世帯年収のかなりを占めてくる。事業計画、ちゃんと立てないとまずいかも知れない。
 ビジネス脳に染まり切ったパパ陣が、育児の中でビジネス脳を働かせることで、実は育児は「面白い!」と考えられる。この本はそういうストーリーを描いているのかなあと感じた。

 「パパがママをマネジメントする」や「パパが家庭内の経営者」といった、フェミニズムを逆なでしそうな言葉も散見された。しかし適材適所の考えのもと、各家庭で役割分担をされれば良いので、あまり気にせずパートナーとのルール決めをされれば良いと思う。

ダブルマザー

 僕これなっちゃいそう。気を付けないと。妻の育児・家事レベルに追随すべく日々頑張ってるけど、ママが子を怒るときはパパはなだめて寄り添う側に立たねばならない。逆も然り。一緒になって怒っては子が孤立してしまう。
 育児・家事を同レベルにこなすのは良いことだと思うんだけど、こういう時のポジショニングは忘れないようにしたい。

子育てに関する「ディベート(議論)」ならば、家庭内でしてもいい

 罵詈雑言の飛び交う口喧嘩はダメだけど、ママとパパで違う意見を交換しあう様子は子に良い影響を及ぼす。なぜなら、さまざまな意見があることを知り、考え、認めていく姿勢が身につくから。そしてそれが自主性、自律性を育むことにつながるから。もちろんディベートを通して間違いがはっきりしたら謝ることも大切。
 ママ(orパパ)の意見が絶対!という空気で安定してしまうほうが危険。

パパが育児休業を所得できない/しない理由

 おそらく"所得"は誤記で、正しくは"取得"だと思う。
 本著でも、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成25年度育児休業制度等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」から引用している。上位2位だけ抜粋する。

 育児休業取得意向あり(n=358)・・・「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから29.1%」「日頃から休暇を取りづらい職場だったから25.1%」
 育児休業取得意向なし(n=1622)・・・「配偶者や家族が家事・育児を担ってくれていたから25.5%」「そもそも取得する必要性を感じていなかったから20.2%」

 ここから、男性の育休増加に向けてやることはふたつに分類できそうだ。
  (1) 職場の風土を、育休取得に前向きなものにすること。
  (2) 主体的に家事・育児を担う必要性を本人が認識すること。

 (1)は先に拾った「現代のパパが抱える悩みは、~」のところでも書いたように、否定的な層に納得してもらうことで達成できる。そのために、ひとつとしては、(2)の必要性を本人だけじゃなく職場全体(特に否定的な層)が認識することがあると思う。
 僕が周囲に働きかけることがあるなら(1)よりは(2)だと思う。育休日記を露(あら)わに公開しているのもこのため。再確認したうえで続けていきたい。

日本版パパ・クオータ制

 ノルウェーで93年に創設された制度。子ども1人に対して育休は59週まで取得できるが、うち10週間は配偶者が交代して取得する義務がある、というもの。クオータはquotaで割り当てという意味。
 簡略化して考えると、おそらく従来はママ59週パパ0週という構図だったんでしょう。それがこの制度が導入されたら実現できなくなったため、ママ49週パパ10週という割り当て方がスタンダードになった。ノルウェーでは、導入前は5%だったパパの育休取得率が、導入後は約90%になったらしい。すごい。
 厚労省のこのURLが分かりやすかった。08年の資料のようで、数字は本著と少し異なるけど。https://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/07/dl/h0701-6a_0004.pdf

 日本でも導入が検討されたものの、実現していない。実現すればパパの育休取得率はいくらかは改善しそうだ。
 とはいえ、現状6%の率がせいぜい倍になるかなってくらいでしょう。ってかノルウェーでは制定された制度がこうも積極活用されるのかという驚き。多少職場に迷惑をかけるかも知れない(その認識は否定したい)けど、おトクな仕組みだからじゃんじゃん使っていこう、のメンタリティを獲得していきたい。

ワーク・ライフ・シナジー

 ワーク・ライフ・バランスはずいぶん馴染んだ言葉だと思うが、こっちはあまり耳慣れない?
 ワーク・ライフの均衡が保てている、自分にとって心地よい状態を目指す思想が"バランス"だと思うけど、さらに相互に相乗効果を与え合う状態を目指す思想が"シナジー"である。つまり、ライフで得た人脈をワークの人脈に還元したり、ワークで培った事業計画立案力をライフの人生計画立案に生かしたり、ということ。なるほど。意識していきたい。
 著者は更に「寄せ鍋型のワーク・ライフ・バランス」という言い方もしている。ライフと言っても家庭・趣味・地域と多岐にわたるし、これからはワークも複業が主流になっていくと思われる。様々な要素を取り入れて深い味わいを持つ人間を目指しましょう、という考え方。これも前向きでとても良いと感じた。

イキメン

 寄せ鍋型のワーク・ライフ・バランスにも少し関係するけど、地域の"域"の字を引いてイキメン。ライフにはもちろん育児の要素もあるけれど、これからは地域活動の要素も大切にしないといけない。それは往々にして、自分の子の育児にも好影響を及ぼす。
 僕も頑張りたいなあと思っているけれど、不安がとても大きい。
 地域活動と言えば?ご近所付き合い、PTAなど子の保育園・学校行事、地域のお祭りなどが思いついた。僕はここに引っ越してきて2か月だけど、まだぜんぜんできていない。コロナ禍で仕方ない部分も大きいけど。PTAや地域のお祭りなどは積極的に挑戦したいと思ってます。
 お祭りは妻の地元に暮らす義父が、そこでバリバリに運営しているので見習いたい。

★全体を通して★

 僕は育休真っ盛りで意識高く頑張っているので、啓発を受けるというよりは同調できる感覚を強く持った。なのでもちろん、読んでいて気分が良い。という感想はとても自己満足的だけれども。
 とはいえ、もちろん僕の考えにも足りないところがあることも分かったし、それらをどのように強めねばならないかも分かった。僕一人で悶々と日々考えるより、他人の考えを取り入れたうえで考えるほうがよっぽど健全だなあと省みる機会にもなった。
 もう一冊くらい読みたいなあ。

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