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同意のないセックスは犯罪か?

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こんにちは、花つ葉です。先日noteへの2回目の投稿をしたばかりですが、思ったより多くの好反応をいただきまして、気を良くして3回目の投稿です。今回は「同意のないセックスは犯罪か?」について思うところを書いてみたいと思います。

法務省の検討

「同意のないセックス?そんなのレイプでしょ犯罪に決まってるじゃん!」とまあ、普通はこんな感じの感想ではないでしょうか。けども実はこれ、法務省も巻き込んで大真面目に議論されてるんです。

https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0014/topic040.html

少し現行刑法を引用しましょう。

刑法177条(強制性交等罪)
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

現行刑法では、「暴行または脅迫」があったかどうかで、それが合法セックスか、違法レイプかが判断されます。女性がセックスに同意しないなら当然に断わる(抵抗する)はず。断ってなおセックスがあったなら、暴行や脅迫による強制があったはずだという考え方ですね。

ポイントは、「抵抗したか」「暴行や脅迫があったか」を立証する必要があるところで、このルールだと立証は原告側がすることになります(←ここ、大事なポイントです)。争点が「抵抗したか」「暴行や脅迫があったか」なら、被告側に聞いても「脅迫した」なんて言わないし証拠も提出しないでしょうからね。

※ 上記は強制性交等罪の場合ですが、この他に準強制性交等罪というものもあります。こちらは「暴行または脅迫」ではなく「心神喪失または抗拒不能」が犯罪成立の要件となっていますが、原告側が立証する必要があるのは強制性交の場合と同じです。

2つの解決案

法務省の検討会では、今の法律だと救われるべき被害者が救われていないとして、2つの異なる解決案が示されているようです。

1つ目の解決案は、刑法の記載を正確かつ漏れがないように変更する方法です。暴行や心神喪失以外に、洗脳や虚偽、薬物など列挙し、抜け穴やグレーゾーンを潰していく方法。救われるべき被害者を救うためには、私はこちらに賛成したいと思います。

これとは異なる、もう1つの解決案を日本学術会議が提言してしています。それが「同意の有無を中核に置く」ことを訴えています。私はこれを、近代思想が辿り着いた「法治概念」ひいては人権や平等概念を揺るがす、非常に危険な考え方だと思っています。

先に述べたとおり現行法でのレイプ判定は、原告側が「抵抗した、ノーと言った(にも関わらず暴行等で抵抗できなくされた)」ことを立証する形になっています。日本学術会議の提言は、これを被告側が「同意があった、イエスだった」ことを立証する形にしたいように思われます。

被告側が「同意があったこと」を立証できないと有罪になる、とはどういうことでしょうか。

予想される世界

例えば別れた恋人が、付き合っていた頃のセックスを「あれはレイプだった」と言えば、男性が「いやイエスって言ったでしょ」と証明する必要が出てくる、ということです。証明できなければレイプ犯として刑罰を受けることになります。夫婦だろうと恋人だろうと、すべてのセックスについて「イエスの意思表示があった」ことを、男性側は立証できるようにしておく必要が出てくるわけです。

例えば離婚調停をしている男女。元妻が突然「元夫は何度も私の同意を得ずにセックスを強要した。レイプの苦痛が耐えがたかった」などと言いだすことも考えられます。元夫はすべてのセックスの同意を証明できないと、連続レイプ犯として処罰される世界。離婚調停の原因が元妻側の不倫だったとしても、その不倫の原因さえ「レイプ」のせいにされかねません。

あるいは別れ話を切り出された女性が「手切れ金を払わないとレイプで訴えるぞ」などと言い出すことも考えられます。同意の物証のないセックスを一度でもやると、女性側の交渉力(あるいは脅迫力)が圧倒的に高まる世界になっていきます。

うちは夫婦円満だから。仲良しで喧嘩なんかしない恋人だから。今はそうでも、20年後に同じことが言えるでしょうか。将来的に関係が冷え込んできた時に、不倫なんて絶対にない。別れ話にはならないという保障はあるでしょうか。

提案の本質

司法は「疑わしきは罰せず」という推定無罪が大原則ですが、日本学術会議の変更案はいわゆる「推定有罪」(被告が無罪を証明できない限り、有罪)を導くもので、司法を貫く大原則に真っ向から反します。「同意のないセックスは犯罪」とは耳障りの良いスローガンですが、レイプ判定を「ノーと言ったかどうか」から「イエスを確認したかどうか」に変えることによって、立証責任を被告側に転嫁(=レイプを推定有罪とする)しようとしているわけです。

もっと分かりやすく言えば、日本学術会議は「事後に同意が証明できないセックスは(暴行や脅迫の有無に関わらず)犯罪にしてしまおう」としている、と言えます。この主張を単に「同意のないセックスは犯罪」というスローガンでまとめてしまうのは、あまりに欺瞞的ではないでしょうか。

同意の証明の方法

この手の話題ではたいてい「じゃあ同意証明書を作って双方が署名したらいいんじゃね?」という素朴な解決案が提示されますが、これにはあまり現実味がありません。

同意証明書はその性質上「いつ」「誰と誰が」「どの程度のプレイまで」「どんな条件で」セックスを行ったかを記載することになります。誰とどんなセックスをしたかの物証(本人の署名入り)を、男性に一生握られることを女性はどう思うでしょうか。自信と誇りをもって、躊躇なく署名できる女性ばかりではない、と私は思います。

証明書にたとえ秘密保持条項があったとしても、遵守される保証はなく、公開の可能性は常に残ります。女性がもしセックスしたいなら証明書に署名しないままセックスに持ち込もうとするのではないでしょうか(そしてそれは非常に容易だと思います)。

また、同意証明書には常に偽造の可能性が残ります。同意証明書がある位程度普及し、証明力が認められるようになると、偽造により裁かれるべきレイプが合法扱いになってしまう可能性もあります。

「同意証明が簡単にできるアプリを作ろう!」という動きも海外でありましたが、上記のような理由もあるのでしょう、女性たちの反対に遭い、頓挫している状況のようです。

結局、セックスに際して女性たちは証明書の署名やアプリの利用を拒み、男性は「事後レイプ(セックス当初は同意していても、後から訴えられるレイプをこう呼ぼうと思います)」のリスクを抱えたまま、セックスに向かうことになるのだと思います。

結び

この「同意のないセックスは犯罪」という考え方ですが、2010年代になってから採用する国が増え始め、スウェーデン、フィンランド、ドイツ、カナダ、米国の一部の州などで採用されているようです。

仮に将来、これらの国々で「事後レイプ」が大量発生してもそれが報道されることはないでしょう。女性が実際に同意していたかどうかに関わらず、また暴行や脅迫の有無にも関わらず、同意の証明ができなければレイプなので、事後レイプは冤罪ではなくレイプだからです。また、男性に対する搾取や不平等は報道されない、というバイアスもあります(自殺者は男性が圧倒的に多くても報道されない)。

諸外国の動向などを参考にするのではなく、日本は日本として「推定無罪の原則」がいかに人権と平等を担保しているか、近代思想が勝ち取った法治概念の重要さをしっかりと認識し正しい判断を下すよう、法曹界の良識に期待したいところです。

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