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船舶免許を取得しても海が怖い理由

船舶免許を取得しても海が怖い理由

船乗りが酒場で語る他では聞けない話をお送りしている、メールマガジン【Two Pint with sailors】
過去に配信されたものから公開しています。


【小型船舶免許を取れば海に出れるのか?】 
2週間ほど前から、clubhouseという音声によるSNSアプリで小型船舶免許について勉強するルームを始めた。
周りの仲間からは「教官になるつもりか?」「なぜ今更小型免許なのだ?」と不思議な目で見られているが、このルームを始めたきっかけは前からシコリのように気になっているある思いからだった。
それは、なぜ「小型船舶免許を持っている」という人の海と船の知識は浅いのだろうか、という問いだ。
海は陸上と違い、インフラがほぼ整っていない生の自然をフィールドにする。
「自然」と言っても一般の人が想像するキャンプ場や海水浴場のような整備されたものではなく、声を出しても助けはこない、携帯電話も電波が切れればただの板、むき出しの大自然に飛び込む行為だ。
そのフィールドに飛び込むにはしっかりとした知識と技術、周到な準備が必要だ。
ましてや小型船舶とはいえ、一隻の船長として海に出る場合は自分だけでなく同乗者の命も預かる重大な責務を負うことになる。
しかし周りを見渡してみると、最近は免許がいらない流行のミニボート、危険行為が問題視されている水上バイク、事故が続いているプレジャーボートと、悲しい出来事が続く。
僕の大切な仲間も今年4月に海の事故で尊い命を落としてしまった。
その事をきっかけに、僕は海の安全について原稿を書いたり、勉強し直し始めた。

その中で小型船舶の教本はどのようなことを教えているのか気になり、20年ぶりに小型船舶の教本を新しく買い求め、内容に目を通して見ると、内容の充実ぶりに目を見張った。
よくまとめられた内容は必要なことはほぼ網羅されており、船の運用、気象・海象についてだけでなく船のメンテナンス、エンジントラブル、事故事例まで、体系立てられた内容とわかりやすい写真やイラストはとても勉強しやすい教材だった。
これだけきちんとした教材があってなぜ?という疑問が浮かび、clubhouseで自分が勉強する形でどんな人が小型船舶免許に興味を持ち、どんな知識を持っているのだろうか聞くチャンスを作ろうと考えたのだ。
運良く、すでに知り合いになっていた小型船舶免許の教官をされている方とお話しすることができ、驚愕の事実を知ることになる。
教科書は2冊、全部で300ページくらいあり範囲も広い。
そして実技教本が150ページで一冊、問題集が一般科目と上級科目合わせて300ページ。
全て揃えると結構なボリュームになるのだが、これをたった4日間で全て教えなければならないという。
これははっきり言って無理だ。
必然的に、教官は試験対策を中心に科目を飛ばしながら大急ぎで座学を教えることになるだろう。
生徒の方も未知の海というフィールドで右も左も分からないまま、法律、気象、船の運用、エンジン、実技と広い範囲をぎゅうぎゅうに短期間で詰め込まれる。
これでは試験はパスしても、肝心の海に出る本当に必要な知識と技術が身についているのかはとても疑問だ。
二級小型船舶は3日間、水上バイクに至ってはたった2日で卒業するということで、これでは世界中を航海することができる国家試験としては問題を感じざるを得ない。
免許を取得したは良いものの、怖くて海に出ることができないのは当然だ。
その事実がわかってから、僕はこのアプリでのルームに俄然やる気が出た。
一緒に勉強できる場所、海に出たい人が海の安全や疑問、不安を情報交換できる場所を作ることがとても大切だと感じた。
そこには海特有の自慢話や武勇伝はいらない。
むしろ積極的に失敗談やヒヤリハットを晒けだしていこうと思う。
僕自身が時間をかけて学び続けることで、同じ海を学ぶ人と疑問や質問について語り合えればと思っている。
簡単に船や海、試験の知識が手に入るようなものでは、ただのクレクレマンが集まってしまうので、必要なのは共に学ぶ姿勢を持つ人を大切にすることだと思っている。
酒を飲みながら自慢話をするおじさんセイラーが多いので、夜やるのではなく、朝にやることにした。
おかげで参加者はとても少ないが、良い雰囲気だ。
この習慣を始めて自分にとっても良いことが起こっている。
朝、しっかりと目が覚め勉強を始めるために、毎日飲んでいたお酒をほとんど飲まなくなった。
自分の健康にも良いとはなんとも良い習慣を見つけたものだ。
この場所を大切にできるだけ続けていけたらと思っている。

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