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【情報紹介】食品製造業者におけるHACCPに沿った衛生管理の導入状況の実態について(農林水産省調査結果より)


 佐賀県工業技術センター食品工業部です!


 平成30年6月13日に「食品衛生法等の一部を改正する法律」(以下「改正食品衛生法」といいます。)が公布されました。
 主な改正項目がいくつかあるのですが、その一つに「HACCPに沿った衛生管理の制度化」があげられます。

【用語説明】
○ HACCP
 Hazard Analysis and Critical Control Pointの略です。日本語では、そのまま訳すると難しい言葉になってしまうので、「ハサップ」と一般に言われています。
 食品製造の現場において、危害要因をしっかりと分析・把握し(hazard analysis)、重要な管理ポイント(critical control point)をきちんと管理する衛生管理の考え方です。
 自社の工場において、食品の原材料の受入から製造工程、出荷までの一連の流れにおいて、食中毒微生物の汚染や異物混入等のおそれのあるポイントを正確に把握し、そのポイントを定期的に管理すること、さらに、生産現場の動線などを最適化し、衛生管理上の問題が発生しないように取り組むとともに、その取組の管理を適正に行うことにより、安全・安心な食品を提供するための衛生管理となります。


 厚生労働省のホームページにおいても、「原則、全ての食品等事業者(食品の製造・加工、調理、販売等)に、HACCPに沿った衛生管理の実施が義務付けられます」と記載されているように、食品製造を行う事業者や調理などを行う事業者は、全てHACCPに沿った衛生管理(一部事業者については、「HACCPに基づく衛生管理」ですが)を行わなければなりません。

 このHACCPに関する項目は、改正食品衛生法の施行日(令和2年6月1日)から1年間の猶予期間を経て、令和3年6月1日から完全施行されています。そのため、現在は、「HACCPに沿った衛生管理」を行っていることを前提として、行政からの検査や指導などが行われることになります。


 食品製造業者における導入状況など、なかなかデータを取りにくい部分ではありました。

 そのような中、農林水産省から、令和2年度における食品製造業のHACCPに沿った衛生管理の導入状況実態調査の結果(以下「実態調査結果」といいます。)が公開されました。
 この投稿記事に記載している内容について、農林水産省から公開された資料に記載の内容以外の部分は、農林水産省の見解や意見ではありませんので、予めご了承ください。


 この調査結果を見ると、令和2年10月1日現在において、HACCPに沿った衛生管理を「導入済み」又は「導入途中」である食品製造業者は、全国で60.4%となっています。「導入を検討」としている食品製造業者は17.3%である一方、「導入については未定である」「HACCPに沿った衛生管理をよく知らない」とした食品製造業者も22.3%でした。
 (調査日時点であれば、「導入については未定である」「HACCPに沿った衛生管理をよく知らない」の回答があっても、法律上は問題ありません。)


 また、従業者規模別で取りまとめたデータがありました。全国規模の調査では、従業者数100人以上の事業者では「導入済み」が93.3%、「導入途中」が4.3%となっており、高い率でHACCPに沿った衛生管理を実施されていることがわかります。一方、従業者規模が少なくなってくると、取組状況は低くなってくる傾向となっています。


Figure HACCPに沿った衛生管理の導入状況(事業者における従業者数別、全国調査)(データ出典元:実態調査結果(令和2年10月1日現在))

HACCP導入率


 このグラフから、従業者数の規模が小さな食品等事業者では、HACCPに沿った衛生管理に対して、まだ十分対応しきれていない可能性があります。


 一方で、「導入済み」又は「導入途中」、「導入を検討」している食品等事業者において、HACCPに沿った衛生管理の導入による効果(期待する効果を含みます)に関する質問がありました。
 HACCPの導入により、「食の安全・安心に関わる項目」の改善や「企業イメージ・製品イメージ」の向上、更には「取引の増加」、「製品価格の上昇」を導入効果として期待する結果もありました。


【参考データ(データ出典元:実態調査結果(令和2年10月1日現在))】
○ HACCPに沿った衛生管理の導入による効果(又は期待する効果)(複数回答可)

(1) 品質・安全性の向上(82.4%)
(2) 従業員の意識の向上(65.9%)
(3) 企業の信用度やイメージの向上(48.9%)
(4) クレームの減少(44.5%)
(5) 製品イメージの向上(30.6%)
(6) 事故対策コストの削減(27.7%)
(7) 取引の増加(18.2%)
(8) 製品ロスの削減(17.5%)
(9) 監査や査察の負担軽減(12.6%)
(10) 他社との差別化(11.3%)
(11) 製品の輸出が可能(有利)(9.8%)
(12) 製品価格の上昇(4.6%)
(13) その他(1.6%)
(14) 特に効果はない(6.1%)


 佐賀県において、食料品製造業に携わっている事業所における従業者数の分布は、下の円グラフのようになっており、中小企業基本法に規定する「小規模事業者」は、141事業所(50.8%)となっています(従業者数20人の事業所は含まれていないため、実際はもう少し多いかもしれません。)。


Figure 佐賀県において食料品製造業に従事する事業者における従業者数の分布(データ出典元:経済産業省「工業統計調査」(従業者数4人以上の事業所、令和元年6月1日現在))

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【豆知識】
○ 中小企業者・小規模企業者の定義(中小企業基本法に基づく規定)
 国が定める中小企業基本法において、どのような要件を満たせば、「中小企業者」又は「小規模企業者」と判断されるのか規定されています(事業者向けの法律などにおいて、個別に規定されている場合もありますが、中小企業基本法の規定を用いることが多いです。)。
 特に、製造業に関する規定は、以下のとおりとなっています。
・ 「中小企業者」
 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
・ 「小規模企業者」
 従業員20人以下

 詳しくは、下記の中小企業庁のホームページをご確認ください。


 単純に、全国での傾向が当てはまるわけではありませんが、これからは原則として、従業者数の規模に関係なく、改正食品衛生法が完全施行されていることを踏まえると、食品に関わる事業者の皆さまは、HACCPに沿った衛生管理に取り組んでいなければいけません


 継続的に「HACCPに沿った衛生管理」を行っていく必要がありますので、食品に関わる事業者の皆さまは、

○ 自社製品の製造工程(製造をされない方においては、食品を取り扱う部分(例えば流通経路や運搬工程など))を正確に把握し、衛生管理の約束事を守ること(例えば、手洗いや髪の毛などの混入防止のための工場内服装の徹底など)
○ 食中毒微生物の汚染が発生しないように、食品原材料の取扱(例えば、生食用や加工用原材料の適切な取扱など)や加熱を伴う工程(例えば、食品表面(又は中心)温度の測定など)など必要な工程において、自主検査するポイントを設定し(これを管理点(いわゆるCCP)といいます。)、日々の生産活動において、定期的にチェックを欠かさないこと
○ 金属などの異物が混入することによる「安全ではない加工食品」を流通しないための取組を定め適切に管理すること(これもCCPの一つです)

といった取組に心掛けていく必要があります。


 衛生管理の方法やCCPを設定する工程など、取り扱われている(製造している)食品の種類によっても様々です。

 厚生労働省のホームページでは、食品等の事業者団体が作成した業種別の手引書が掲載されています。


 「HACCPに沿った衛生管理」に取り組んでいる中、「会社の衛生管理は、大丈夫なのだろうか?」とか「もっと管理しやすくCCPを決めないといけないかな?」など、疑問を持たれたときは、業種別の手引書をご確認いただき、自社の衛生管理に反映させる、という方法もあります。


 「HACCPに沿った衛生管理」への取組において、食品衛生に関する疑問点の解決のお手伝いや、課題の解決につながるお手伝いなど、ちょっとした疑問がありましたらご相談ください。
 当センターにおいて解決が難しい内容のときは、大学や食品衛生を専門にしている民間団体など外部の専門家などへの仲介も可能です(この際に経費が発生するときは、ご相談者にご負担いただくことになりますので、ご了承ください。)。


 何かお困りごとがございましたら、下記のお問い合わせ先までご連絡ください。

-----<お問い合わせ先>-------------------------
  佐賀県工業技術センター 食品工業部
【E-mail】 food_rds-sec@pref.saga.lg.jp
【Tel】 0952-30-8162
【Fax】 0952-32-6300
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