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ツマグロヒョウモンという蝶を育てる(2)

この記事は「ツマグロヒョウモンという蝶を育てる(1)」の続きです。

今年も玄関先の花壇に10株ほどのパンジーを植え付け、成蝶の訪れを待ちました。嬉しいことにたくさんの卵を産み付けてくれ、4月の中旬には、沢山の幼虫達が大きく育ちました。

育てるとは言っても、私スピンにできることは、食料のパンジーを枯らさないようにケアすること、散歩をする幼虫を見つけたら拾い上げてパンジー村に戻してあげること、そしてサナギに変わろうとする幼虫をちょっと特別な、別途準備したサナギルームに入れて、無事に成蝶になれるように隔離してあげることくらいです。

自然の中では、数々の危険が幼虫を襲います。卵から孵化した幼虫が無事に育ち、蝶に変身できる数は(人間の手で排除されてしまうことを含め)産み付けられた卵の総数のうち、5%にも満たないでしょう。
幼虫時代・サナギ時代・孵化直後・・さまざまな危険が待ち受けています。

花の上で日向ぼっこをしている幼虫はカマキリやハチ類(スズメバチなど)、そして野鳥たちの格好の食料です。

サナギになった幼虫たちはさらに危険です。

サナギになった際、幼虫の胎内では驚きの大変化が起こっています。
簡単に申せば、幼虫時代の胎内組織はほぼ完全にドロドロに溶解し、成蝶に生まれ変わるための各器官の再構築が起こっています。美しい羽根や、細い足・複眼の目・蜜をすうための細いストローのような口・生殖器官等々を再構築していくのです。
この時期が蝶にとっては一番の危険な時期。何故って、サナギになってぶら下っているので逃げることはできず、外的駆除薬をまいて敵を遠ざけることもできないのですから。

この時期の最大の敵は蟻(アリ)でしょう。身動きできないサナギに集り、その表皮を食い破って、中の溶けた液を吸い、作りかけの組織を食べてしまうのです。

ですので、サナギになろうと場所選びをし始めた幼虫は、特別なサナギルームに入れ、決してアリなどが近づけない場所に安置してあげるのがスピンの仕事。
(どうやってサナギになろうと場所選びをしている幼虫を見つけるんだ?
ーそれは幼虫の歩き方を見ていると判ります。今までのような緩慢な動きではなく、やたらに急いで歩き始め、パンジー畑から外へ出て行き、木の枝や柵の柱を登り始めます。)

自作のサナギ・ルームの写真をアップしました。

ツマグロヒョウモンのサナギルーム:2匹がスミレの葉に、1匹が左の壁にぶらさがっています。

部屋は幼虫が登りやすい格子状になったプラスチックケースで、その下に段ボールを敷いています。部屋の中には、まだ食べたりない幼虫用の食事としてスミレを一株(根の付いたまま、土ごと)カップに入れて置いておきます。(幼虫が食べちゃったら、スミレはそのまま庭の土に戻し、別のものに取り換えます。)
このケースを、絶対にアリが来ない部屋の中の机の上に置いて監視します。

もし、ご自身で育ててみたい方のために、ご注意を一言。
「幼虫は音と振動にとても敏感です。物音がするとピタッと固まります。
「できうる限り静かなお部屋をお選びください。

幼虫たちがケースの天井にぶら下がったかどうかを確認し、赤と黒の皮を脱いで枯葉色のサナギ姿に変身したかを確認しながら、1週間ほど待ちます。

そして、ある朝早く、サナギを破って成蝶が出てきます。
最後の関門は、この時、一切、手を触れず、羽や足がしっかりと固まるまで見守ることです。仮につまんでしまったりすると羽を曲げてしまって、飛べない蝶になってしまいます。

サナギから出てきて30分程経ったら、羽を開いたり閉じたり、飛び立つ
準備運動を始め、おなかに残っている驚異的化学変化の残りの赤い体液を、まるでオシッコのように排出します。
そして、サナギケースごと庭に運んであげ、底板の段ボールを開くのです。

サナギルームから出て飛び立つ準備をしているツマグロヒョウモン

感激の時間です。これまで何百回も成長した蝶の飛び立つ瞬間を経験しました。まことに感動的な瞬間です。
旅立って行った成蝶の無事を祈り、いつか再び、育った花壇に帰って来て
くれることを心から願うのです。

私スピンの住む町の小学校でも春先の花壇にパンジーを植えています。
ですが、その花に頼って生きるツマグロヒョウモンの幼虫を育てるという
格好の理科教育になる筈の活動についてのお話は全く聞きません。
ご自宅の庭にパンジーを植えておられる方も沢山おられます。
ですが、ツマグロヒョウモンの幼虫は気味悪いとしてつまんで捨てる方が大半と聞きます。子や孫にいったい何を教えているのでしょう。
残念でなりません。

命が育まれることを手助けしながら命の不思議と大切さを学ぶこと、に想いを馳せない教育は何の役にも立たない、と思うのです。
「自然を生かした町おこし」という言葉もインバウンド拡大の風潮の中、何回も耳にします。公園は沢山の花で飾られます。
ですが、その花によって命をつないでいる昆虫や動物に想いを致さぬ現代の無念さを悲しむのです。

了。


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