見出し画像

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
ピアノ協奏曲 第1番 変ロ長調 Op. 23
ピアノ:ダニエル・バレンボイム
指揮:セルジュ・チェリビダッケ
演奏:ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
収録:1991年 at ガスタイク・カルチャーセンター, ミュンヘン

チャイコフスキーの音楽に共通するのは、私スピン流の表現ですが、
「北のロマンティシズム」

 エルミタージュ美術館に埋め込まれている帝政ロシア王朝の貴族的な
 薫りと気品。
 厳しい大地の咆哮。・・・氷に覆われた森、走り抜けるトナカイの群れ、
 いななく馬たち、雪原を吹き抜ける風、凍てつく森、狼の遠吠え。
 地平に見え隠れする白夜の太陽と暗く長い闇。
 近づき遠ざかる、そりを引く人々の歌声。
 燃え立つ春。輪になり踊るコサックの民。
 焚き火の灯りに映える、娘達の民族衣装と舞踊。
 アンナ・カレーリナ, ラスコーリニコフ, チェーホフ, ドストエフスキー

そんなキーワードが次々と脳裏を駆け巡るのです。

高度なテクニックと、鍵盤を叩きつけるパワーが必要な本曲のような音楽では、テクニックは勿論ですが、繊細な感性と、激しいパッションを併せ持つピアニストが必要です。
併せて、ほの暗い民謡調の主題を紡ぎ「こぶし」の効いた弦の「熱い詩」を盛り上げていく「ロシアン・アダージョ」を、エネルギッシュな大地の咆哮と共に鳴らすことができるパワフルなオーケストラが必要、と思うのです。

マルタ・アルゲリッチさんの弾くピアノ協奏曲はテクニックもパッションも文句ないのですが、いかんせん、どこかしらラテンの薫りが漂います。
してみると中々、ピッタリの組み合わせが見当たらないのですね。

Youtube を探し回って、あれこれ聴きちらし、やっぱりコレと選びましたのが、この演奏。

氷の屑が瞬時に結晶の固まりを形成したかと思うと、次の瞬間パッと、空気中にそのきらめきが放出されるダイアモンドダストのような印象は、指揮者巨匠チェリビダッケの大うつわの中で自由に泳ぐバレンボイムさんの個性がいかんなく発揮された瞬間でしょう。

チェリビダッケは「ロシアの憂愁とはこういうことだ」と言わんがごとくに主題を紡ぎ、それに"こぶし"を効かせてロシアン・アダージョの王道をみせつけ、一転して、独特の勇壮果敢にして貫禄十分のフィナーレへと雪崩れ込みます。
ちっちゃな理屈など消し飛んでしまう、万感 胸に迫る演奏です。

作曲を始めて9年目、1875年、35歳のチャイコフスキーが上梓した この曲は、1875年10月25日、ハンス・V・ビューローのピアノとベンジャミン・J・ラングの指揮によりアメリカのボストンにて初演され大成功を収めました。

作曲後、2度にわたって改訂され、現在の演奏に昇華したのは、1888年に「第1楽章 冒頭のピアノによる分厚い和音連打」が書き加えられてから、でありました。

⇒ それでは、チャイコフスキー:組曲「くるみ割り人形」(作品71a)
  まいりましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?