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ユートピアを実装するための圜理論による定義の一形式 | prototype


初めに、以下の基本概念を定義する。


圜=スフィアとは、任意の数の属性=プロパティをもつものである。

あるがもつ属性は、その所属=ビロングすると言う。


prop1, prop2を属性とするSpは、次のように表現することができる。

sphere Sp :> { prop1, prop2 }


は、属性とすることもできる。


Sp1がであるとき、prop1, prop2, Sp1を属性とするSp2は、次のように表現することができる。


sphere Sp2 :> { prop1, prop2, Sp1  }


系列=シークエンスは、順序をもつのことである。


属性Cl1, Cl2, Cl3を、この順序でもつ系列は、次のように表現することができる。


sequence Sq :> { Cl1 ~ Cl2 ~ Cl3 }




以上の基本概念を用いて、以下の固有概念を定義する。



状態=ステートとは、あるときにがもつ属性の幾つかを列挙した群のことである。


属性prop1, prop2がそれぞれ値x, yをもつ状態Stは次のように表現することができる。


state St := {{ prop1: 'x', prop2: 'y' }}


ある状態から別の状態へ遷移することを、特に状態遷移=トランジションと言う。


2つの状態St1, St2の状態遷移Trは、次のように表現することができる。


state St1 := {{ prop1: 'x', prop2: 'y' }}
state St2 := {{ prop1: 'x', prop2: 'z' }}

transition Tr := St1 => St2



行為=アクトとは、任意のが任意の状態遷移を引き起こすことである。

このとき、行為をおこなうを特に行為主体と呼び、行為を受けるを特に行為対象と呼ぶ。


行為対象Sp2について、状態St1から状態St2への状態遷移Trを与える、Sp1を行為主体とする行為Acは、次のように表現することができる。


transition Tr := St1 => St2

act Ac := Sp1 -> Tr(Sp2)


行為主体は、行為主体自身を行為対象に取ることもできる。


行為主体かつ行為対象であるSpについて、状態St1から状態St2への状態遷移Trを与える行為Acは、次のように表現することができる。


transition Tr := St1 => St2

act Ac := Sp -> Tr(Sp)



環境=エンヴとは、任意の群を属性とするのことである。


ある環境において行為主体となることができるを、特に行為者=アクタと呼ぶ。

ある環境において行為主体となることができないを、特に対象=オブジェクトと呼ぶ。


ある環境における、すべての行為者属性とするを、特に共同体=コミュニテと呼ぶ。

ある環境における、すべての対象属性とするを、特に資源=リソースと呼ぶ。


行為者Ar1, Ar2を属性とする共同体C、ならびに対象Ob1, Ob2を属性とする資源R、の両者を属性のすべてとする環境Eは次のように表現することができる。


sphere C :> { Ar1, Ar2 }
sphere R :> { Ob1, Ob2 }
sphere E :> { C, R }



実行=ランとは、実際に行為がなされることで、行為対象状態遷移することである。

瞬間=クロックとは、そのときにおこなわれたすべての実行属性のすべてとするのことである。

実行時間=ランタイムとは、瞬間系列のことである。


行為Acの実行は、次のように表現することができる。


Ac


瞬間Cl1, Cl2, Cl3をこの順序属性とする実行時間Rtがあり、それぞれの瞬間においてAc1, Ac2, Ac3が実行されるとき、次のように表現することができる。


sequence Rt :> { Cl1 ~ Cl2 ~ Cl3 }

sphere Cl1 :> { Ac1 }
sphere Cl2 :> { Ac2 }
sphere Cl3 :> { Ac3 }


ある行為者が、任意の他の行為者をの行為対象とする行為実行するとき、特にこの行為干渉=フィアと呼ぶ。




以上で定義された、基本概念ならびに固有概念を用いて、理想郷=ユートピアを次のように定義する。


理想郷とは、ある共同体所属するすべての行為者が、自ら望むすべての行為を任意の瞬間実行可能であるとき、この共同体所属する環境のことである。



ここで理想郷は、以下のすべての要件を満たす。

これらの要件は、少なくとも実行的に真であること、すなわちある理想郷が存続したすべての実行時間に亘って真であることが要請される。


  • 要件:不壊性=UNBREAKABILITY

    • 理想郷は、いかなる内的行為ならびに外的行為によっても、自身の理想郷性を毀損されない。

  • 要件:不干渉性=UNINTERFERABILITY

    • 理想郷所属するすべての行為者は、自ら望まないかぎり一切の干渉を受けない。

    • 行為者は、自らが任意の他の行為者対象に取られることについての可否を選択することができる。

      • 副要件:対象不可能性=UNTARGETABILITY

        • ある行為者Ar1が、別の任意の行為者Ar2に対象不可能性を発効している場合、Ar1はAr2を行為対象とする、いかなる行為も望むことはできない。

  • 要件:無尽性=INEXHAUSTIBILITY

    • 理想郷所属するすべての行為者は、自らが望む行為におけるすべての対象を、必ず即座に調達することができる。

  • 要件:無限性=INFINITY

    • 理想郷所属するすべての行為者は、自らの属性を毀損から保護することができる。

      • 副要件:不滅性=IMMORTALITY

        • 無限性により、すべての行為者は、望むかぎりすべての実行時間に亘って行為し続けることができる。



解題:

ユートピアとは、ここではないどこかであり、そこにすまうすべての住民が皆幸福にあり続けることができる理想郷のことである。

幸福とは、理想のすべてが実現可能である状態、すなわち望みがすべて叶うことである。ここで望みとは、欲しいものないし能力を恵与として享受することのみならず、自身の能力を任意の対象に行使することを含む。そしてまた、望まないことが住民に降りかかることはない。

ユートピアの住民がもし[労働・苦役]からの解放を望めば、その住民は生涯に亘って[労働・苦役]を強いられることはないだろうし、逆に[労働・苦役]こそが自身の本分と思えば、その住民は望むだけ[労働・苦役]に勤しむことができるだろう。

ユートピアの住民がそれぞれに定義する幸福の条件は常に満たされているか、あるいはまたはっきりとした定義をもたないにしても、自らが幸福であると常に感じている。そしてこの幸福は永続する。

ユートピアは壊れない。というのは、壊れうるものであればそれは、住民の幸福の永続を担保できないためである。したがって、もし壊れうるものだとすれば、それはユートピアではない。

ユートピアのすべての住民は幸福である。幸福のために必要なすべてのものが住民には与えられ、そしてそれらは望まないかぎり決して奪われることはない。他の住民からも、その他一切のものからも、自身が望まないかぎり住民は干渉を受けない。したがって、住民のいずれかが望まない干渉を受けうるとすれば、それはユートピアではない。

ユートピアのすべての住民には、望むかぎりのすべてのものが与えられる。ユートピアの資源は決して枯渇しない。というのは、枯渇とはすなわち供給の停止を意味するからである。したがって、何らかの資源が枯渇しうるとすれば、それはユートピアではない。

ユートピアのすべての住民は、望まないかぎり死に絶えることはない。というのは、住民自身が死を望まないかぎり、決して死はその住民には与えられないからである。したがって、もし死を望まない住民が死に絶えうるとすれば、それはユートピアではない。

理想――それが自らの手に与えられないかぎり理想としてあることができるものだとすれば、ユートピアとは[どこにもない場所 |[οὐ-τόπος = 非-場所]]のことである。しかしながら、我々が想像できることは、必ず我々の手で実現できる。ここに定義された[不壊性・不干渉性・無尽性・無限性]から成る、ユートピアへと至る[否定の道 | via-negativa]は実践可能な要件であり、決して空想の類いではない。

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