蟻酸2

蟻酸 第2話

うず高く積まれた土塊の内部は螺旋状を成していて、ヘイケアリの住環境全てがこの蟻塚に集約されている。下層は兵隊蟻や狩猟蟻の居住区になっていて、シロのような雑務蟻もこの下層で日々暮らしている。中層に住まうのは隊長格の蟻で、それぞれ部下を持ち責任のある立場の蟻達だ。上層は秘密の花園、女王蟻とその情夫達のプライベート空間で。なんという事でしょうか。匠はこの土塊で蟻塚という名の王宮を建城してしまいました、それは俺ら唯一無二のヘイケアリ建築隊の成す所業ですよ!

「また建築の奴らが馬鹿話をしていやがる」

とシロは一切の感情を表に出すまいと決意しながら己に与えられた仕事をこなしている。同じ下層の住人であるのに、なんだかんだと意地悪をされがちな理由は容易に想像つく。つまり何かというと自分のこの役目、仕事、であって。

「あたし等アブラムシはアンタ、穴から甘い甘い蜜を出すことが特技なんでげすよ?アンタ等甘いもん好きでげすよね?だったらあの根性悪いテントウムシからあたし等を守っておくんなましよ」

なんてってまんまとアブラムシ共にしてやられた狩猟隊長蟻の尻ぬぐいではないのだけれど、割を食うのは雑魚雑務蟻のシロ達で。一日中アブラムシ共の尻からでる蜜を絞って給仕する係という、最底辺に見られがちの仕事が生まれてしまうのである。しかしながら当のシロはというと、何の責任もないこの仕事を気に入っていて、それなりにプライドを持って日々の勤めに励んでいた。というのは果たして強がりなのか、それは本人にしかわからない。

「おーいシロ俺にも蜜をおくれよ」

「トクジか。また異種族のお前が勝手に城に入ってきて。リンチされて殺されても知らねーからな」

「今日は正式に兵隊長の呼び出しがあったから平気だよ。ヘイケアリの密偵として来てるんよ」

「なにが密偵だよ。ぶらぶらしてるだけじゃんか」

「周囲にぶらぶらしてるだけと思わせるテクニックに騙されてんだね、キミも」

真剣に相手をするのが馬鹿らしくなったシロは、トクジに蜜を給仕してやって、以降は話しかけることなく自分の仕事に集中した。隅っこで蜜をチビチビやってたと思ったら、なんのきっかけか突如ガボっと蜜を煽ってトクジは「アブラムシバー」を後にしていった。

あんなに一息に蜜を呑んだら脳内麻薬がドバドバ出て危険なんじゃないだろうか、正式な招集に奴もビビッているのかな。出ていくトクジに声を掛けようと思ったシロだが自分の仕事が忙しくてそれも叶わなかった。


#小説 #書いてみた #昆虫忍法帖 #虫の話し #SF #昆虫SF #昆虫忍法帖だよ馬鹿野郎


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?