〔刑法コラム5〕共謀共同正犯

 実行行為を分担せず共謀したにとどまる者も「共同して犯罪を実行した」(60条)といえるか。共謀共同正犯の肯否が問題となる。

1 定義

⑴ 支配型(教唆型):実行担当者を支配する重要な役割を演じる大物が存在する場合。いわゆる親分・子分の関係がこの例である。
⑵ 対等型(幇助型):実行者の行為と同程度の重要な役割を演じる対等な関係がある場合
※なお、実行行為を共犯者全員が分担して行う場合を「実行共同正犯」という。

〈論点1〉共謀共同正犯を肯定すべきか。実行行為を分担しない共謀者も60条にいう「共同して犯罪を実行した」といえるのかが問題となる。
 A説(否定説 旧通説)

  理由:共同正犯も正犯であり、正犯とは実行行為を行う者である以上、実行行為の分担が必要である。
 B説(肯定説)
  理由:①背後の黒幕など犯行に重要な役割を果たした者を正犯として重く処罰する必要がある。
     ②「共同して犯罪を実行した」とは、共同した者のうちいずれかが犯罪を実行した場合ないし実行行為が共同のものと評価できる場合と読むこともできる。
  B①説(共同意思主体説 草野)
   構成:共同正犯を共同意思主体の活動と解し、民法上の組合の類推により共謀共同正犯を肯定する。共同正犯の共犯性を強調するものである。
   批判:個人を超えた共同意思主体を認め、その責任が個人に帰せられるとすることは団体責任を認めるに等しく、個人責任の原則に反する。
  B②説(間接正犯類似説 藤木)
   構成:一部実行全部責任の根拠は、相互に相手を自己の手足のように利用し合うことにあり、共謀共同正犯も「共同意思の下一体となって相互に了解し合って互いに相手を道具として利用し合う」から共謀者にも正犯性を認め得る。
   批判:規範的傷害を有する共犯者を道具として支配拘束することは不可能であり、仮にこれが認められるならば単独の間接正犯であり、共同正犯ではない。支配型は説明し得ても対等型は基礎付けられない。
  B③説(包括的正犯説)
   構成:共同正犯の正犯性を実行行為と切り離して構成する。
      ①正犯として重要な役割をすれば、必ずしも実行行為を行う必要はなく、実行行為が共同の意思に基づくという意思方向をもてばよい(平野)。
      ②共同正犯が関与者相互の心理的影響を重視して、自らの惹起しない結果をも帰責させるものである以上、強い因果性を根拠に、実行行為の一部をも行わなかった者に客観的行為を帰責することは十分可能である(前田)。
      ③相互利用補充関係が認められる限り、実行行為の分担がなくても全て正犯とすべきである(大谷)。

[重要判例]
・練馬事件(最大判昭33.5.28百選Ⅰ(第8版)[75])

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