〔民法コラム19〕不動産賃借権の時効取得


1 取得時効

 一定期間の経過により権利を取得できる制度を、取得時効(162条以下)という。これによる権利取得の性質は、即時取得(192条)、添付(242条以下)等と同様の原始取得であり、前主から権利を承継するわけではないことから、目的物に第三者の権利の負担や瑕疵が付着していたとしても、それらが取得者に当然に承継されるとは限らないことに注意を要する。

2 取得時効の対象となる権利

 いかなる権利でも取得時効の対象となるわけではなく、民法上の限定が存在する。具体的には、所有権(162条)及び所有権以外の財産権(163条)のみが取得時効のたいしょうとなり、後者に含まれる典型的なものとしては、用益物権や担保物権といった物権が想定されている。一方、債権に関しては、永続的な事実状態を観念できず、取得時効制度になじまないといった理由から、一般的に取得時効の対象にはならないと考えられている。
 そこで、債権にすぎない不動産賃借権が取得時効の対象となるかが問題となる。

〈論点1〉「所有権以外の財産権」(163条)に不動産賃借権が含まれるか。
 結論:不動産賃借権も「所有権以外の財産権」に含まれる。
 理由:債権は通常、永続する事実状態を観念できないから、時効取得は一般的には認められない。しかし、不動産賃借権は目的物の占有を不可欠の要素とし、永続した事実状態を観念できる。
 補足:判例は、不動産賃借権の時効取得が認められるための要件として、①目的物の継続的用益という外形的事実の存在、②それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されていることの2点が必要としている。

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