〔民法コラム3〕177条の「第三者」の意義


1 177条の「第三者」の範囲

 177条は、登記がない限り、不動産物権変動を「第三者」に対抗できないとしている。そこで、当事者以外の全ての者に対して、不動産物権変動を主張するには、登記が必要とされるのか、ということが問題となる。

〈論点1〉177条の「第三者」とはどのような範囲の者をいうのか。
 A説(無制限説 初期の判例・学説)

  結論:ある法律関係の当事者及び包括承継人以外の全ての者をいう。
  理由:①177条は、何ら「第三者」の範囲を制限していない。
     ②登記により画一的に処理することが、登記・公示制度の理想である。
 B説(制限説 判例)
  結論:当事者もしくはその包括承継人以外の者で不動産に関する物権の得喪及び変更の「登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者」をいう。
  理由:①全くの無権利者にまで登記がなければ対抗できないというのは妥当でない。
     ②条文を合目的的に検討し、「第三者」を限定すべきである。

2 177条の「第三者」に含まれない者

 「第三者」に含まれない者、すなわち登記なしに対抗できる者としては、以下の者が挙げられる。
 ①当事者及びその包括承継人
 ②不動産登記法5条列挙の者
 ③無権利の名義人
 ④不法占有者、不法行為者
 ⑤前主後主の関係にある者
 ⑥背信的悪意者(後述)
 ⑦未登記の通行地役権につき、地役権者により使用されていることが客観的に明らかであり、そのことを譲渡時に認識し、又は認識し得た承役地の譲受人

3 177条の「第三者」の主観的要件

 二重譲渡があった場合に、悪意の第二譲受人は「第三者」に含まれるかにつき争いがある。

〈論点2〉177条の「第三者」には悪意者も含まれるか。
 A説(背信的悪意者排除論 判例)

  結論:単なる悪意者は「第三者」に含まれるが、いわゆる背信的悪意者は「第三者」に含まれない。
  理由:177条は自由競争の範囲内においては、当事者の主観を問題にせず、登記の有無により画一的に物権の帰属を決しようとしたものであるが、このような自由競争の範囲から逸脱するような背信的悪意者は信義則上「第三者」に当たらない。
 B説(悪意者排除論)
  結論:悪意者は、177条の「第三者」に当たらない。
  理由:権利を登記により公示するのは、これにより、利害関係を有する他人に権利の存在を知らせるためであるから、登記がなくても権利の存在を知っている者に対しては公示の必要はない。

[重要判例]
・最判昭43.8.2
 「実体上物権変動があった事実を知る者において右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、民法177条にいう第三者に当らないものと解すべき・・・・・・である。」

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