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#45 固定電話

ここ1年弱、固定電話が鳴らない。鳴ったとしてもセールスの電話や迷惑電話のどちらかだ。


今は家に電話をかけるよりも
個人のスマートフォンに電話をかけるのが当たり前になってきているのて、時間が経てば経つほど固定電話の使用回数は減っている。


とは言え、自分が生まれた時から
鳴り止まないくらい電話がかかっていたのかと言われればそこまででもなかったなと
今noteを書いてて感じている。

学校の先生や習い事の連絡、ごく稀に親戚。
特に良くかかってきたのは
父方と母方の祖父母。

祖父母から電話がかかってきた時は
母が必ず最後に「孫に代わるね」と言って
我々に固定電話を渡してくる。

正直な所、自分の機嫌が良い日や伝えたいことがある時は乗り気で電話を受け取るのだが、
学校でムカつくことがあってイライラしていたり、言いたいことがなかった時は渋々電話に出る時もあった。(申し訳ございません。)


自分が高校生になる頃には
固定電話がかかってくる回数が大幅に減り、
ほとんどの人達が母のスマートフォンに
電話をかけるようになっていた。



そんな中でも母方の祖母だけが
母のスマホではなく、自宅に電話をかけていた。

大学生になり、日中に家に居る時間が増えたことで1人で留守番をする時間が今まで以上に多くなった。

小中高に通っていた頃には気が付かなかったのだが、1週間に1回、いやもっとかな3日に1回くらい。祖母から日中、
母と世間話をするために電話がかかってくる。


母の不在時はもちろん自分が代わりに電話にでるのだが、いつも話が弾んで30分くらい話をしていた。
大学の話、アルバイト先の塾の話、家族の近況など。
どんなにくだらない話を自分がしても
祖母は電話越しでもわかるくらい温かく話を聞いてくれていた。

大学1年生の終わり頃。親戚たちのサポートもあって祖母がスマートフォンを持ち始めた。

祖母とLINEで簡単にやり取りが出来るようになるという嬉しさもあるが、その反面電話がかかってくる回数が減るかもしれないなと寂しさを感じている自分がいた。

固定電話を見て、
「もうかかってこないのかぁ」と
独り言で呟いた記憶がある。

スマートフォンを持つようになるとやはり
固定電話が鳴ることは無くなった。

ただでさえ鳴らない固定電話から着信音が聞こえなくなったというほんの小さな日常の変化は
自分にとって、とてつもなく大きなものだった。

それから半年後。
祖母は体調を崩してしまう。

スマートフォンを持ち始めたことで
簡単にメッセージを送れるようになったため
「元気でいてね」「長生きしてね」
そんなメッセージを送ることが出来、
ここで初めてスマートフォンを持っていて
良かったなと感じることが出来た。



それから数週間後。祖母は亡くなった。



悲しみでいっぱいのまま
お通夜やお葬式を終えた。余りにも急だったため、やるせない気持ちでいっぱいで
何回も「何であの時…」と自分を責めた。



そんな気持ちのまま家に帰った翌日、
いつものように1人で留守番していると
ふと固定電話が目に入った。



もうこの固定電話から電話がかかってくることはないのか。



スマートフォンを祖母が持ち始めた時に感じた寂しさとは違って、2度と祖母から電話がかかってくることはないという事実を受け止めきれずその場で長い時間立ち竦んでいた。



1年半経った今も
固定電話を見ていると祖母のことを思い出す。
「大丈夫。絶対出来るよ」
「頑張ってね」
あの時と同じように
祖母の優しい言葉をもう一度聞きたい。





祖母はここにはもういないけれど、
自分の記憶の中に祖母はずっと存在し続けているし、祖母と電話をしたという時間が存在したという事実が消えることはない。




祖母と過ごした記憶がこれからの力になると願って。今日も頑張ります。

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