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【そもそも論】小説とはなにか【読者に伝えたいものを伝えるためにはどうすればいいのか】

 こんにちは、山本清流です。


 先日、「読者を苦しませるにはどうすればいいか」というサディスティックな記事を書きましたが、

 今回は、もっと、視野を広げて、「読者になにかを伝達するにはどうすればいいのか」という話題に踏み込んでみようと思います。


 ですが、先に結論を述べると、「なにかを伝達することなど、不可能」です。

 しかし、「自分の伝えたいものと似たようなものを伝える確率を上げる」ことはできます。


 要約は以下のとおり。

 小説は、イメージによって脳を興奮させるための装置である。しかし、なにをイメージするかは人それぞれなので、厳密には、自分の表現したいものを伝えるのは不可能。では、どうすればいいかというと、パターンをいくつも脳の倉庫に貯めておくことだ。どういうシーンや言葉や、ストーリーや、設定が、どういう脳の状態につながりやすいのか、知っておくと便利である。とにかく、パターン理解が重要。

 以下、解説していきます。


 【小説とはなにか?】

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 ずばり、イメージを想起させる装置です。


 読者は小説を読んで、イメージを脳に浮かべ、気持ちよくなります。

 その気持ちよさには質的な違いがあるでしょうが、娯楽である以上、気持ちよくなることに変わりはありません。


 図示すると、次のようになります。

  (小説を読む)→(イメージが浮かぶ)→(気持ちいい!)


 しかし、イメージとはなんでしょうか。

 【頭に浮かんでくるのは、イメージ】

 読書に慣れている人が小説を読んだときに頭に浮かんでくるのは、文字ではなく、イメージです。


 その小説の空気感だったり、キャラクターの声だったり、シーンの味わいだったり、キャラクターの葛藤だったり。

 そういうものを脳内に生みだし、疑似体験することで、楽しむことができます。


 しかし、なにをイメージするか、あるいは、なにをイメージしたときにどういう気持ちになるか、それには個人差があります。


 【小説は、全員を同じ状態にする機械ではない】

 同じ小説を読んでも、違うイメージを浮かべる人は多くいます。

 同じイメージを浮かべても、違う感情や感覚を持つ人はたくさんいます。


 ですから、小説というのは、全員に同じものを伝達しているように見えて、実は、それぞれ違うものを伝達しているんです。

 

 【たとえば】

 AさんとBさんの場合。

 (Aさんが小説Cを読む)→(イメージ1が浮かぶ)→(気持ちいい!)
 (Bさんが小説Cを読む)→(イメージ2が浮かぶ)→(気持ち悪い!)

 同じ小説を読んだとしても、このような違う結果に終わることも、当たり前のようにあるのです。


 小説はそういうものですが、かといって、自分の伝えたいものを伝えることはできない、と悲観する必要もありません。

 小説の内容と人間の脳の関係には、パターンがあるからです。


 【パターンとはなにか?】

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 前提として、読者の全員に対して自分の伝えたいものを伝えることはできません。そんなこと、不可能です。

 しかし、自分の伝えたいものを伝えられる確率を上げる方法はあります。


 人間のパターンを理解することです。


 【パターンとはなにか】

 パターンというのは、一定の刺激を加えたときにどういう反応をするかという流れのことです。


 たとえば、友達に向かって急に「わ!」って声を上げたら、「うわあ!」ってびっくりしてくれると思います。

 図示すると、次の通りです。

 (友達をおどかす)→(友達、びっくりする)


 このとき、(友達をおどかす)というのが刺激で、(友達、びっくりする)というのが反応です。


 しかし、この刺激と反応のパターンは、物理学の法則みたいに厳密に計算して求められるものではありませんし、再現可能性もありません。


 同じように(おどかす)という刺激を加えても、(なに? という顔をする)反応の人もいれば、(やめてよ、と声を上げる)反応をする人もいます。


 これがさっき申し上げた個人差なわけです。

 でも、個人差はあるけど、だいたい、多くの人は(びっくりする)だろうという全体としての傾向はあります。


 この、全体としての傾向がパターンであるわけです。


 【パターンを利用すれば、伝えやすい】

 ですから、必然的に、パターンを利用すれば、「作者が意図したとおりのものを伝えられる」確率が上がるわけです。

 

 多くの人の反応のパターンに沿うように刺激を投入すれば、多くの人がその反応をしてくれるのは当然です。


 【たとえば】

 僕の好きな法則として、SAVE THE CATの法則というものがあります。

 これは、「猫を救う」(刺激)主人公には、「共感できる」(反応)というパターンです。


 もちろん、猫を救う主人公に対して、「偽善者には共感できない」という反応をする人もいます。

 しかし、全体の傾向としては、「共感できる」という人が圧倒的に多いのです。


 だから、ハリウッド映画の世界では、主人公に共感させるために、なにかしらのカッコいい行動を早めのうちに投入するのが鉄則として知られているようです。

 これもパターンのうちのひとつです。


 この例のように、なにをしたら読者の多くがどういう反応をするのか、というパターンを頭に入れておくと、伝えたいものを伝えやすくなります。


 【パターンをたくさん頭に詰め込んでおくと便利】

 そのためには、いろいろな物語に触れて、実際に自分がどういう反応をしたのか、を自分で実験してみるのが早道です。


 たとえば、僕が最近見つけたものとしては、正義と悪のコペルニクス的転回という法則があります。

 この法則は、「悪事に手を染める人が正義の行動をする」(刺激)と、「すごく動揺してしまう」(反応)という法則のことです。


 たとえば、主人公がいじめられているとして、そのいじめてくる相手のことを憎んでいたとします。

 主人公にとって相手は絶対的な悪ですが、ある日、その相手が街中でおばあさんに優しくしているところを目撃します。そのとき、主人公は激しく動揺してしまうでしょう。読者も同じです。


 だからなんだ、という話ですが、こういう法則(パターン)をいくつも頭に入れておくと、いざというときに使えるんです。


 そのほかにも、アクロバティックワードの法則というのもあります。

 たとえば、リーダーとして周りから期待されていて、リーダーとして主導的に活躍したいと思っている主人公が、「お前、リーダーの資質ないよな」と言われるとショックを受けます。


 このパターンはよく出てきます。

 想像力があると思い込んでいる主人公が「お前、想像力ないな」と言われたり、自分には魅力があると思っている主人公が「あんたさ、勘違いしてるだろ?」と言われたりすると、ショックを受けるのです。


 このように、さまざまなパターンがあるので、こういうのを頭に入れておくと、表現が豊かになり、伝えたいものを伝えやすくなると思います。


 【つまり、たくさん物語に触れておこう!】

 今回は以上で。


 パターンをたくさん頭に詰め込んでおくためには、たくさんの物語に触れておくといいですね。

 僕も、いろいろな物語に触れて、いろいろなパターンへの理解を深めておきたいと思います。


 長文を読んでいただき、ありがとうございました。