【漫才②】アインシュタインより先に相対性理論を書いた男

 清ちゃん「どうも~、はじめまして。僕たち、山ちゃん、清ちゃんのふたりで漫才しております、駆け出しの漫才師、『やまきよ』です」

 山ちゃん「できればね、今日、集まっていただいたみなさんには、少しでも僕たちのことを覚えていただきたいんです。そこで、うってつけの覚え方があるんですが。といいますのは、ちっこいのが清ちゃん、でっかいのが山ちゃんという覚え方です。具体的に言いますと、身長169cm体重58㎏が清ちゃん、身長169.5c体重59㎏が山ちゃんです」

 清ちゃん「いや、見分けつくか! ということで、シルエットにしたらほとんど判別できない僕たち、『やまきよ』です。どうぞ、よろしくお願いしまーす」

 パチパチパチ(拍手)

 山ちゃん「そんでですね、今日お話ししたいのは、あるあるみたいなやつなんですけど」

 清ちゃん「どんなやつです?」

 山ちゃん「これは本当によくあることなんですけど、自分がはじめてやった、と思ったら、すでに誰かがやっていた、っていうことって、よくあるじゃないですか。面白いネタを思いついたんやけど、それ、すでにやってる芸人がいた、みたいな」

 清ちゃん「先人がすでにやっていることを、知りもせずに、偶然、やってしまう、というパターンですね。あるかもしれません」

 山ちゃん「ほんとにね、それが悔しくて、悔しくてね。どうしようもない気分です」

 清ちゃん「あらら、なんだか、本当に悔しそうですね。最近、そういう経験でもあったんですか?」

 山ちゃん「それが、実は、今日、お話したいことなんです。ここだけの話なんですけどね。ちょうど一年前、僕の頭に稲妻が駆け抜けるような素晴らしい発想があったんです。これを公開したら世界がひっくり返るぞ、と思えるようなすんごいアイディアだったんで、誰にも話さず、静かに温めて、アイディアのデティールを固めていったんですよ」

 清ちゃん「おうおう、なんだか、気になってきました」

 山ちゃん「そんで、先週、ついにそのアイディアを固めることができたんで、ネット上に公開したんですよ。僕としては、世界を驚愕の渦に巻き込むような気持だったんです。僕は天才として歴史に名を遺すに違いない、とまで思いました。しかし」

 清ちゃん「しかし?」

 山ちゃん「それなのに、ですよ、それなのに!」

 清ちゃん「それなのに、どうだったんですか?」

 山ちゃん「大学教授とか、理系マニアとかのネットユーザーからね、いくつも指摘が入ったんです」

 清ちゃん「どんな?」

 山ちゃん「これ、百年前にすでにアルベルト・アインシュタインが証明してる、あの有名な相対性理論ですよ、って」

 清ちゃん「……は?」

 山ちゃん「いや、は? じゃないですよ。清ちゃん、ちゃんと、聞いてました? 僕、アインシュタインがやったことを知らずに、偶然、まったく同じ相対性理論を証明してしまったんです。それが、ほんとに、ほんとに、悔しくてね。全身全霊をかけて磨き上げた理論だったのに、僕のパクり疑惑まで持ち上がってるんですよ。偶然、僕より先に、僕と同レベルの天才がいたというだけの話なのに。いま現在、僕は、アインシュタインに対して怒りが抑えられないです」

 清ちゃん「いやいやいや、ちょっと待ってください。あなた、アインシュタインの相対性理論を知らないままで、偶然、まったく同じ理論をつくってしまった、というわけですか?」

 山ちゃん「そう言ってますでしょう?」

 清ちゃん「んなわけあるか! 嘘のレベルが低すぎますよ」

 山ちゃん「ええ、そういう反応をされるだろうということはわかっていましたよ。だからこそ、僕は、アインシュタインを許すことができないんです。僕が生み出した理論を、横取りしやがって!」

 清ちゃん「横取りしようとしてんのは、お前や! とんでもない天才だから生み出せた理論やのに、若手のアホなお笑い芸人に生み出せるわけがあるか!」

 山ちゃん「ええ、そういう反応をされるだろうということはわかっていましたよ。ですが、言わせてもらいますとね、アルベルト・アインシュタインが『光量子仮説』、『ブラウン運動』、『特殊相対性理論』に関する論文を発表したのは、26歳以降です。でも、僕は、それらをすべて証明しました。現在、僕は……そう、25歳。つまりね、僕は、アインシュタインに、勝ってるんですよ」

 清ちゃん「勝てるわけあるか! いいかげんにせんと、そこら中の物理学者を敵に回しますよ?」

 山ちゃん「ええ、そういう反応をされるだろうということはわかっていましたよ。ですがね、アルベルト・アインシュタインはちゃんと理系の大学に進学して、ふかーく勉強したうえで、相対性理論を生み出しています。それに対して、僕はね、小学生のときは不登校、中学生のときはサッカー部の幽霊部員、高校生のときは三人の女性に振られた経験を持ち、大学生のときには四人の女性に殴られた経験を持つ男です。つまり、ちゃんとした勉強ルートを通っていないうえで、相対性理論を証明しているんです。どう考えても、僕のほうが勝ってるでしょう!」

 清ちゃん「圧倒的に敗北しとるわ! 人類の歴史を動かした偉人に対して、尊敬の念がなさすぎますよ。お前なんか、アインシュタインの幽霊に殺されてしまえ!」

 山ちゃん「ええ、そういう反応をされるだろうということは……」

 清ちゃん「それ、やめ、やめ! 頭にくるんですよ、その偉そうなしゃべり方は。そんなに相対性理論を証明したって頑なに主張するんなら、相対性理論がどんな理論なのか、ちゃんと説明できるんですか?」

 山ちゃん「まあ、説明するのは簡単ですが、みなさんが話についてくるのは難しいでしょうね」

 清ちゃん「めっちゃ、腹立ちますね。じゃあ、とりあえず、説明してくださいよ?」

 山ちゃん「相対性理論とは、慣性運動する観測者が電磁気学的現象および力学的現象をどのように観測するかを記述する、物理学上の理論である。アルベルト・アインシュタインが1905年に発表した論文に端を発する。最も端的に述べると、重力のない状態での慣性系を取り扱った理論である」

 清ちゃん「お前、ウィキペディア、暗記してきたやろ!」

 山ちゃん「そんなわけないじゃないですか」

 清ちゃん「じゃあ、いま、ウィキペディアで確認してもいいんですか? ここにスマホあるんで、検索しますよ?」

 山ちゃん「どうぞ、どうぞ」

 清ちゃん「ウィキペディアには、こう書いてありますね。相対性理論とは、慣性運動する観測者が電磁気学的現象および力学的現象をどのように観測するかを記述する、物理学上の理論である。アルベルト・アインシュタインが1905年に発表した論文に端を発する。最も端的に述べると、重力のない状態での慣性系を取り扱った理論である、って。これ、さっき、お前がしゃべったとおりじゃないですか!」

 山ちゃん「いや、だから、悔しいですな。僕がアドリブで説明した言葉とまったく同じ言葉を、誰かが、僕より先に、ウィキペディアに載せてしまったんでしょうね」

 清ちゃん「いいかげんにせえ! もう、めんどいですよ、ここまでくると。結局、お前は、いったい、なにがしたいの。大勢のみなさんに集まってもらって、そこで堂々と歴史上の偉人が生み出した理論を自分のもののように語りだして。いいかげんにしてもらえませんか」

 山ちゃん「うーん。どうやら、信じてもらえてないみたいですね」

 清ちゃん「当たり前や! 信じるわけあるか!」

 山ちゃん「この状況が、すごく悔しいですし、やっぱり、アルベルト・アインシュタインへの怒りは静まりませんね。しかし、まあ、天才とは、1パーセントの発想力と、99%の努力ですから、これからもずっと、努力していくしかないですね」

 清ちゃん「なに、うまく、まとめようとしてんですか」

 山ちゃん「いやね、実は、僕、この件があってから、悔しさと怒りをどうにか抑えながら努力を重ねてきたんですよ。それで、実は、昨日、血の滲むような努力の末に、IPS細胞を発見いたしまして……」

 清ちゃん「もう、ええわ! どうも、ありがとうございました」