見出し画像

【公開】長編小説『独白』が完成するまで③【プロットを公開します】

 こんにちは、山本清流です。


 2019年の9月に『独白』という小説を書きました。

 登場人物の独白形式で、物語が展開する長編ミステリです。↓


 無料(結末以外)なので、ぜひ。

 

 この小説の創作過程について公開していく企画です。

 ①アイディア、②アイディアを具体化、③プロット、④執筆、⑤推敲の5つのプロセスに分けて、解説します。今回は、③プロットです。

 あくまでも僕の一例ですが、「こんな感じで小説を書いているのか」とイメージできるかと思います。


 はじめから読みたい方は、こちらへ。

 さっそく、創作過程を覗いていきましょう。


 【プロットを公開】

画像1

 プロットを公開します。

 どういう順番でプロットをつくったか、ご紹介します。


 【まず、全体をつくった】

 最初に、全体をつくりました。


①小島の記者会見                          ②橋本の遺書                            ③渡辺のブログ                           ④惟子の記者会見

 まずは、この全体の流れを決めました。

 全体を決めておくと、考えるべきポイントがはっきりしていきます。


 全体から細部へ具体化していくのが、個人的におススメです。


 【続いて、細部へ】

 次は、細部をつくっていきました。

 たとえば、①小島の記者会見は、こんな感じに。

〇『助けて』との紙きれについて                   〇当該生徒についての前任からの報告書                〇当該生徒の印象、言動、人間関係                  〇五月末に実施されたアンケート調査                 〇生徒からの告発                          〇クラス内でのイジメ                        〇『助けて』の紙切れを問題にしなかった理由             〇自分に非があるとの主張

 こうやって細分化していきました。

 読んでもよくわからないと思います。


 本人が頭の中でわかれば、OKです。


 一応、すべての章の細分化を記しておきます。


 ②橋本の遺書は以下のとおり。

〇遺書を書くことについて                      〇自分のいる状況                          〇惟子との出会い                          〇惟子との思い出                          〇惟子への疑惑、不審                        〇イジメっ子に仕立て上げられるプロセス               〇自分を壊し、開き直る痛みについて

 

 ③渡辺のブログはこんな感じ。

〇自分のこと                            〇橋本の家庭事情                          〇橋本の被害妄想、自己正当化を批判                 〇自分の家庭事情、育ち                       〇惟子との出会い                          〇惟子との関係                           〇惟子からのSOS                          〇担任の先生の登場                         〇橋本への批判

 

 ④惟子の記者会見はこんな感じ。

〇前口上                              〇過去に受けたイジメ                        〇一連の流れ(伏線の回収)                     〇橋本の自殺への悲しみ                       〇なにか質問はございますか?


 こんな感じで、章の中をさらに細分化していきました。

 断っておきますが、すべてこのとおりには執筆していません。


 あくまでも、プロットの段階の話です。そのへんは、次回の④執筆でお話しします。


 ここまで考えれば、書きはじめられるかと思います。

 しかし、『独白』のときは、もっと詳しい内容までプロットの段階で考えました。


 【内容を細かく考える】

 より細かく内容を考えました。


 たとえば、①小島の記者会見の、生徒からの告発のパートは以下のとおり。

    ・そのころ、今度は、放課後に相談があると生徒Cに言われ、そのまま相談室にて相談を聞いたとき、生徒Cから「生徒Bがイジメられているかもしれない」との報告を受ける。具体的になにがあったのかを詳しく聞いたところ、ある昼休みに、ある一人の女子生徒に生徒Bが強い口調で迫られているところを見た、という。「ふざけないで、いいかげんにして」と苛立たし気に声を上げていた。生徒Bに対して強い口調で迫っていた女子生徒というのは、当該生徒であった。小島は、この報告を受けた当日に学年主任にこのことを相談し、ただちに教育指導の教師にも口頭にて報告をした。相談の結果、まずは事実関係の把握を優先することを確認した。
    ・小島は、早速、その次の日に、生徒Bと同じグループの生徒たちに「生徒Bはいじめられているか?」と聞いた。そこで得られた情報としては、新学期になってから同じ班になったこともあって、当該生徒と生徒Bは仲を深めていったそうなのだが、仲が深まるにつれて、当該生徒が意味不明な言動に出るようになったのだという。生徒Bは華やかな生徒で異性にもモテる子だったから、そのことに嫉妬して平常心を保つことが難しくなったのではないかというのだ。彼女たちも、当該生徒が生徒Bに強くあたるところを何度か見ているが、当該生徒の心に寄りそって、イジメとしては扱ってこなかった。生徒Bも、イジメにはしてほしくないという態度だという。同日に、小島は、生徒Dにも同様の質問をおこなって、「なんとなくわかる。空気で」ということだった。生徒Dへの誤解が解消され、なおかつ、問題の輪郭がはっきりした。その日のうちに、小島は、このことを教育指導の教師に報告し、次回の学年会議で話題にすることを確認した。
    ・学年会議での結果、一方的に当該生徒に指導をするのはやめたほうがいいという結論にまとまる。当該生徒が嫉妬を強めているのなら、頭ごなしに「そんなことはやめろ」と言っても火に油を注ぐだけである。まずは、当該生徒の苦しみに目を向け、そのことに寄りそうことが必要ではないかとの指摘があった。当然、イジメられている側の生徒Bにも寄りそわなければいけないが、そのことについては、同じグループの子たちに気をつけてもらうように頼むことになった。小島は、当該生徒を呼びだして、「困ってることはないか」と聞く。そのとき、当該生徒は、なにかを言いたそうに暗い顔をした。「何でも言ってくれ」と伝えると、「どうすればいいか、わかんない」とつぶやき、「いや、なんでもないです」と笑顔に切り替わった。それ以上に踏み込むことはできずに、そのままになったが、定期的に声をかけたりして、当該生徒に寄りそうことを心がけていた。生徒Bの心の状態も逐一気にするようになった。当該生徒については、関りのあった小学生の男の子に対して強くあたっているところを目撃されていた。そのことも含め、ひどく精神状態が不安定であると言えた。当該生徒に対しては、カウンセリングも受けてもらうようにした。その内容は第三者には漏らさないようになっていた。という説明をしていたが、実際には、担当のカウンセラーから詳しい内容をちゃんと耳にしていたということがあとになって明るみとなる。

 めちゃ、細かく作り込んでいます。

 こんな感じで、すべてのパートを掘り下げました。


 一応、他の章のいくつかのパートも載せときます。すべて載せるのは量的に不可能なので、ご了承ください。


 ②橋本の遺書の、遺書をかくことについてのパートは以下のとおり。

  ・死ぬしかないと思っている。いますぐにでも死んでしまいたい気持ちに駆られている。だが、せめて、この苦しみを誰かに伝えてから死にたい。そのままは死にたくない。書くことのできるところまで詳細に書き残して、この遺書を持ち歩いて、いつでも死ぬことのできる状態でいようと思う。というような動機。
   ・その日の公開授業に訪れていた他校の教師に、『助けて』との紙切れを必死の思いで手渡した。学校の中では解決することができないと思ったからだ。名がある中学校であるだけに、汚名がつくことを恐れている。小島先生は一生懸命にやってくれていると思うが、学校側は、この件を、波風を立てずに静かに終わらせようとしているようなのである。だからこそ、他校の教師にすがりつくしかなかった。なんと言われるのか怖かった。この頼みの綱が切れてしまったら、なにも助けがなくなってしまう。そんな不安の中で紙切れを手渡して、走り去った。本当は追いかけてほしかったかが、その『笹沢』とのネームプレートを下げた教師は追いかけてくれなかった。紙切れはそのまま学校に報告され、その実物が戻ってきた。そこに書かれている文字があまりにもぐにゅぐにゃとしていて、力がなく、ひどく神経が弱っていることに気がついた。それを見てから、早く書かないと自分が書ける状態ではなくなってしまうことを悟り、今、ここに書くことにしている。というような理由も。


 ③渡辺のブログの、橋本の被害妄想、自己正当かを批判は以下のとおり。

    ・橋本の遺書に書いてあることは、ほとんどすべて自分に酔いしれた物語でしかない。よく考えてみてほしい。橋本がああだこうだと自分に酔いしれながら、おこなった行為のほとんどは、唯子を苦しめる結果となっているのだ。自殺したいなら、独りきりですればいいのだ。わざわざ唯子を巻きこむような遺書を残して、自分の問題に押しつぶされて自殺するなど、迷惑なことも甚だしい。客観的に考えれば、わかる。唯子はもともと天然ではなかったが、天然キャラを演じているうちに、どんどん天然になっていくようなところがあった。わざとおかしなことを言おうとする思考回路が頭の中に出来上がっていたので、遊園地での一件も、その思考回路によって、言ってはいけないと心の中ではわかっている事柄についてうっかり口を滑らしてしまったのである。キーホルダーの件ははっきり言って、なんの問題でもない。思い違いがあったのかもしれないが、それを一方的に唯子のせいにするやり方は、自己中心的である。思い違いがあったのなら、それは双方の問題であったはずだ。自分の記憶だけを頼りにして、相手を責めるのはどう考えても勘違いである。それに、そこだけを切り取って考えれば、唯子の主張は至極もっともらしいものである。お金を貸してもらったのなら、返すのが当然だ。かりに、その当日に唯子がプレゼントとして渡したのであったとしても、お金の行き来が一方的であるのが間違いのないことだ。あとからそのぶんのお金を返して、と言われたら、たしかに戸惑うかもしれないが、返して、と言われたなのなら、返すのがふつうである。そのときに、相手に対して、これはもらったものだ、と主張することは、たとえその主張が正しいものであったとしても、社会道義的に非常識であると言わざるを得ない。その場でお金を返すべきだったことは間違いがなかった。あとになって橋本はお金を返そうとしているようだが、それでは遅すぎる。もうその時点で、唯子は、橋本への恐怖に凝り固まっていたのであるから。唯子はちゃんと現実を見ることができていた。現実を見ていなかったのは、妄想の世界にどっぷりと浸かっていた橋本のほうである。


 ④惟子の記者会見の、過去に受けたイジメについては以下のとおり。

   ・小学二年生のころでした。そのとき、わたしは激しいイジメを受けることになりました。その内容については、ほとんど憶えていないといったら、無責任かもしれませんが、本当にほとんど憶えていません、ただちょっとほんの少し、髪の毛を引っ張られたり、机にぶつかってきて「汚ねぇ!」と叫ばれたりしたことがあることは憶えています。そのときにどんな苦しみを感じたのかははっきりとは憶えていませんでした。苦しみから自分を守るためにバリアができているんだと思います。バリアがあるだけだから、わたしからその苦しみが完全に消え去ったわけではないです。バリアの中に閉じ込められた苦しみは、今も、わたしの胸の底に息づいていて、わたしのことをどこかで制御しているのです。
・すべてをそのせいにするつもりはありませんが、わたしは、このイジメをきっかけにして、必要以上に周りの子たちに媚びるようになりました。いわゆる、天然キャラというものになったのです。なぜイジメられたのかをその当時からなんとなく察していたのだと思います。イジメを回避するためには、イジメたくなるような子でいたらいけない。イジメてもつまらないだろう、とか、イジメる気には全然ならない、といったような子にならなければいけない。そのような思いから、わたしは、天然キャラになることを選んだのです。このように言うと、天然キャラに意図的になりあがったかのような印象をうけるかもしれませんが、そればかりではありません。さきほどからの話にもあるように、わたしの胸の底には、気づかないけれど苦しみの記憶が眠っているのです。完全にわたしの意思だけで天然キャラを手に入れたというのは、言いすぎだと思います。その記憶によって知らないうちに引きずられながら、わたしは、どんどん天然キャラになっていったのでした。天然キャラになることの利点は、なによりも、おバカな人になれるということです。おバカな人になれば、みんなは、わたしのことを見て、バカだぁ、と感じて、わたしを下に見ることができます。そうすれば、わたしは、もともと下にいるような能力のない人間なのだから、みんなは、わたしをイジメる必要がありません。イジメが嫉妬によるものかどうかはそのときどきでしょうが、わたしの場合は、小学生のときに受けたイジメが嫉妬によるものだった、と思っているので、それをどうにかしたいという思いの一心で、そのような性格を身に着けることになったのでした。イジメの中には、いじられキャラからいじめられっ子に発展するようなケースも多分にあるとは思いますが、天然であれば、その可能性も低くなるのではないかと思います。
・また、わたしには、慎重に、嫌なことを避ける傾向があります。なにかを目指そうというよりは、なにかにならないようにしよう、という考えが根深くあります。なにか成し遂げたいことがあるとき、わたしは、それを成し遂げようとするのではなく、成し遂げられない状態から逃げようとするのです。この傾向も、イジメによって生まれたものなのではないかと個人的には考えています。なにかをしよう、というのは前向きな気持ちですが、なにかをしたくない、というのは後ろ向きな気持ちです。わたしは、この考えに半ば支配されながら生きてきました。渡辺くんがイジメられているとき、彼を助けようと思ったのも、善意などではありません。彼を助けないなんていうクズにはなるな、という命令が頭にあり、勇気もなにもないままに、声を上げて彼のもとに向かったのでした。わたしは、とても渡辺くんのことが好きでした。どこか同類のように感じているところがあったんだと思います。渡辺くんに積極的に声をかけようとする心には、後ろ向きな気持ちだけでなく、前向きな気持ちもあったことはたしかだと思いました。

 こんな感じです。

 このプロットをつくっているときは、登場人物になりきっていました。


 なりきった勢いで、ばーっと短期間で書きました。

 登場人物の口となって、プロットを細かく書き込んでいきました。


 登場人物の痛みに入りこみ、代弁してあげている感覚です。

 

 このようにして、プロットを完成させました。


 【こんな細かく書かなければいけないのか】

 そんなことはないと思います。

 僕も、これだけ細かくプロットをつくったのは『独白』がはじめてです。


 章分けしたうえでさらに章の中でパート分けしたら、だいたい書きはじめられるかと思います。


 【プロットを書くときに気をつけたこと】

画像2

 気をつけたことは、3つありました。

①順番に書く                            ②執筆のときに思考停止できるように細かく              ③時間を決めて書く

 以上の3つです。

 ちょっと説明します。


 【①順番に書く】

 はじめから順番に書いていきました。

 もちろん、全体からつくっていきましたが。


 それでも、細かくするときは常に、冒頭から結末へとむかって。

 そうしたほうが作品の空気感をイメージしやすいかと思います。


 【②執筆のときに思考停止できるように細かく】

 執筆するときに考えなくていいように細かくしました。

 これはめちゃ効果ありました。


 この作品、実は、2週間で執筆が終わっています。

 これは僕にとっては速いスピードでした。


 というのも、この作品を新人賞に応募したかったのですが、

 締め切りが一か月後だったので、

 猛スピードで書き上げる必要がありました。


 そこで、とにかくプロットの段階で細かく書き、執筆のときは「それにしたがって書くだけ」の状態にしたかったのです。


 どうしても早く小説を完成させたい場合は、プロットを細かくつくり込むのもひとつの方法かもしれません。


 【③時間を決めて書く】

 何時まで書こう、と決めて書きました。


 お伝えしたように、この作品は猛スピードで完成させたかったので、

 とにかく速くプロットを書きたかったです。

 

 そこで、1時間ごとに時間を区切りながら、

8時までは手を止めない」みたいな感じで頑張りました。


 かなりスパルタでした。

 でも、速く仕上げたい場合は、効果アリだと思います。


 以上。『独白』のプロットについてでした。次回は、執筆についてお話しします。こちらです

 読んでいただき、ありがとうございました。

 『独白』が気になった方、ぜひ、ご一読ください。