【比較】小説新人賞の特徴とは【江戸川乱歩賞、メフィスト賞、文藝賞、ポプラズッコケ文学新人賞、などなど】
こんにちは、山本清流です。
最近、あることに気づきました。
作家に特性があるように、新人賞にも特性があることについて、です。
僕のいまの心の声は以下のとおり。
レベルの高い新人賞を受賞したほうがいいに決まっているが、新人賞は、「偏差値」だけで決まっているわけではなく、「専攻分野」でも決まっている。つまり、どちらかというと、東大、京大、旧帝大、みたいな感じではなく、法学部、経済学、医学部、理学部、みたいな感じである。医学を専攻したいのに、法学部を受験するのは間違っている。
この心の声をもとに、新人賞の「専攻分野」を探ることにしましょう。
最近、ふと、気づいたことですが、よく考えれば、当たり前でした。
【新人賞の専攻分野とは】
上記した通り、新人賞には「専攻分野」があります。
では、具体的には、どんな「専攻分野」なのでしょうか?
もちろん、過去作を調べればわかるのですが、時間的制約があります。
そこで、それぞれの新人賞のサイトを比較して、特性を見極めましょう。
江戸川乱歩賞、松本清張賞、横溝正史ミステリ&ホラー大賞、メフィスト賞、小説推理新人賞、小説現代長編新人賞、ファンタジア大賞、ポプラズッコケ文学新人賞、ジャンプ小説新人賞、文藝賞、ミステリーズ!新人賞、などを比較したいと思います。
※以下、個人的な分析です。
【まずは、タイトルから考える】
新人賞のタイトルは、賞の方向性を示唆しているはずです。
「江戸川乱歩賞」=江戸川乱歩
「松本清張賞」=松本清張
「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」=ホラー+ミステリ+横溝正史
「メフィスト賞」=メフィスト(ドイツの伝説上の悪魔の名前・雑誌名)
「小説推理新人賞」=小説+推理+新人
「小説現代長編新人賞」=小説+現代+長編+新人
「ファンタジア大賞」=ファンタジア(文庫名)
「ポプラズッコケ文学新人賞」=ポプラ(社名)+ズッコケ+文学+新人
「ジャンプ小説新人賞」=ジャンプ+小説+新人
「文藝賞」=文藝
「ミステリーズ!新人賞」=ミステリーズ!(雑誌名)
以上のように、タイトルでおおまかな方向性は理解できます。
ファンタジー、ミステリーとあるのは、「ファンタジーさん、来てください」、「ミステリーさん、来てください」と言っているわけです。
求人募集などで、「主婦、大活躍中」とか、ありますよね。あれと同じです。「主婦さん、ぜひ、来てください」と言っているのです。
集まってほしい人たちが引っかかるワードを選んでいるはずです。
「江戸川乱歩」と聞いて、引っかかるのは誰でしょうか。そうです。江戸川乱歩が好きな人です。つまり、ミステリ好き。「ミステリーさん、集まってください」と言っているに等しいのです。
そのほかも、同様です。新人賞のタイトルから、方向性が見えてきます。
【新人賞のサイトを比較する】
続いて、それぞれのサイトを比較していきます。
サイトの中で、いちばん目立つ文字を比較します。
比較の上で述べているだけなので、新人賞の特性を言い当てているとは限りません。ちょっと気になる新人賞は過去作を調べてみるといいと思います。その点、ご了承ください。
【江戸川乱歩賞】
受賞作は講談社より刊行し、フジテレビによって映像化されます。多くの大型作家を輩出した推理小説界の名門・江戸川乱歩賞を募集いたします。
「受賞作は映像化される」、「多くの大型作家を輩出した」というのは事実なわなけですが、ここからも、求めているものが読みとれます。
つまり、「映像化できる作品」が欲しいのであり(大衆向け・実写可能)、「多くの大型作家」のひとり(大衆向け作家)になってほしいのです。
大衆に好まれるのはどんな作品か? 尖っていない、ある意味で予定調和的で、読みやすく、現実的な作品かもしれません。そのへんは自由に考えてみてください。
また、べつのところで「広義のミステリ」と銘打っているので、ミステリ以外は求めていないでしょう。
【松本清張賞】
横山秀夫・山本兼一・葉室麟・青山文平・阿部智里・山口恵以子・額賀澪・川越宗一――など、幅広いジャンルの強力な人気作家を松本清張賞は生み出してきました。今回も鮮烈なエンタテインメント作品の応募を待っています。
これも江戸川乱歩賞と似ています。列挙されている「売れている作家」のひとりに加わってほしいのであり、そのような作家さんを募集しているわけです。
はっきり言えば、「大衆向け」だと思います。「大衆向け」というのは、多くのファンを獲得できる作品のことです。ジャンルは限定していないみたいですね。
【横溝正史ミステリ&ホラー大賞】
KADOKAWAの新人文学賞として、ともに四半世紀以上の歴史を持つ「横溝正史ミステリ大賞(第38回まで)」と「日本ホラー小説大賞(第25回まで)」。
この2つを統合し、ミステリとホラーの2大ジャンルを対象とした、新たな新人文学賞を創設しました。
50余年にわたり推理・探偵小説を精力的に執筆し続け、また怪奇・ホラー小説にも親和性が高い横溝正史氏の名を冠し、エンタテインメント性にあふれた、新たなミステリ小説またはホラー小説を募集します。
「推理・探偵小説を精力的に執筆しつづけ、また怪奇・ホラー小説にも親和性の高い横溝正史」からして、推理・探偵小説、または、怪奇・ホラー小説を募集していることがわかります。
ふつうは、「推理小説」、「ホラー小説」と短く呼びますが、わざわざ「探偵」と「怪奇」を組み合わせているので、そちらに偏っている可能性が高いでしょう。「探偵=本格ミステリ」、「怪奇=現実的に説明できない不思議で、不気味な現象」かもしれません。
また、「新たな」という言葉がくっついていることからして、既存の有名作家に並んでほしいわけではなく、べつの(いまは存在しない)新たな分野の作家になってほしいという願いが込められているように感じられます。
【メフィスト賞】
文芸第三出版部は、今読まれるべきエンタテインメントを求めています。
即戦力の才能と作品をお待ちしています。
「今読まれるべきエンタテインメント」、「即戦力の才能と作品」という表現からして、新たな新人を育てたいのではなく、いますぐ売れる作品がほしいという思いが滲んでいるみたいです。
つまり、どちらかというと、作家を求めているわけではなく、面白くて売れる作品を求めているのであり、作家の将来性よりも、「その作品が面白いか否か」で判断しますよ、という感じかもしれません。
【小説推理新人賞】
当編集部ではひきつづき第43回小説推理新人賞の原稿を募集します。ミステリー界に新風を吹き込む、フレッシュで独創的な作品を、奮ってお寄せください。
「フレッシュで独創的な作品」を求めているみたいです。つまり、この新人賞はオリジナリティーをとくに重視しているものと思われます。いままでにない、新しい作品が欲しいのです。
また、ページに行くと、でかでかと「新人賞」という文字が出迎えてくれます。新人が欲しい! と叫んでいるのです。「なにも出版していない新人」という意味と同時に、「いままでにない作品を書ける新人」という意味があるような気がします。
新たな作品を生みだしていきたいという思いが、人一倍強そうな新人賞です。
【小説現代長編新人賞】
五木寛之、伊集院静、皆川博子、北原亞以子、勝目梓、川上健一、橋本治、金城一紀、朝井まかて、朝倉かすみ、塩田武士など、数多くのベストセラー作家を生み出してきた小説現代新人賞。
250枚から500枚の長編小説を募集します。賞金は300万円。受賞作は本誌誌上で発表の上、講談社から単行本になります。新鮮かつ強力で将来性豊かな才能をお待ちしております。
「ベストセラー作家」を求めているみたいです。ベストセラー小説ではなく、「ベストセラー作家」なので、その作家にファンがつくような、そういう作品を求めていることになります。
「新鮮でかつ強力で将来性豊かな才能」という表現からして、「面白い作品」を求めているわけではなく、「面白い作品を書ける才能(人)」を求めていることがわかります。「新鮮でかつ強力」という表現は、おそらくオリジナリティーを示していて、「将来性豊か」という表現は、ベストセラー作家として書きつづけてほしいという思いを示しています。
また、「新鮮でかつ強力」という表現でぼかしながら、「エンターテインメントを募集する」と言いきっていないところも、引っかかります。
「面白くてよく売れるが、ファンはつかない」作品と、「あまり面白くはないが、ファンはついてくれる」作品なら、後者の作品を求めているのかもしれません。
【ファンタジア大賞】
ファンタジア大賞のページに行くと、コスプレ姿の三人のかわいらしい女の子のイラストが出迎えてくれました。このイラストが意味しているところを探ればいいと思います。
まず、かわいい女の子を登場させなければいけないでしょう。
また、真ん中の女の子が剣を手にしていることからして、剣を振り回してなにかと戦う物語を求めているのだと思います。
あと、三人とも腰まで届くくらいの長髪なので、長髪のキャラクターがいいかもしれません。
イラストが若者受けするものなので、若者向けの作品を求めています。文章は読みやすいほうがいいでしょう。
【ポプラズッコケ文学新人賞】
今を生きる子どもたちが「お腹を抱えて笑い、そして心から泣ける」児童文学作品を心よりお待ちしております!
この新人賞は、なにを求めているかを明示していますね。ずばり、「子供向け」で、「お腹を抱えて笑い、そして心から泣ける」児童文学作品を求めています。
子供が楽しく笑いながら読めて、最後には泣くこともできる、そんな楽しげな作品です。新人賞のタイトルが「ズッコケ」ですから、シリアスな作品は求められていませんね。どちらかと言えば、コメディーチックな作品だと思います。
【ジャンプ小説新人賞】
ページに行くと、なにを求めているのかが明示されておりました。【バディもの】または、【「最後の一行で涙が止まらない」という帯に合う作品】です(2020年10月31日現在)。面白いですね。
新人賞のタイトルに「ジャンプ」とくっついているので、「ジャンプ」向きに作品を求めているのは言わずもがなです。
【文藝賞】
河出書房新社では、新人の登竜門として、小説のジャンルに「文藝賞」を設定しております。
応募規定をご覧のうえ、積極的にご投稿ください。
既成の枠にとらわれない、衝撃的な作品を お待ちしております。今年度よりウェブ応募を開始します。
まずは、文藝賞というタイトルなので、文学的な作品を求めていることがわかります。エンタメ作品は求めていないでしょう。
「規制の枠にとらわれない、衝撃的な作品」という表現はとてもインパクトがありますね。これだけ強い言葉を使っているのですから、既存作家を模倣したような優秀な作品には興味はない! とでも言いたげです。尖っている作品を求めているように感じられます。
【ミステリーズ!新人賞】
◇大倉崇裕先生
実は、選考委員をやるのは初めてなのです。新人選考委員です。新人賞の選考委員が新人なのですから、不安を覚える応募者の方もいらっしゃるでしょう。でも、私も新人賞をいただいて作家になりました。新人賞の重みは判っているつもりです。全力でがんばります。面白い作品、びっくりする作品、ひっくり返るような作品、待っています。楽しみです。
◇大崎梢先生
面白い話が読みたいです。冒頭の数行で物語世界に引き込まれ、そこからは驚かされるのか、泣かされるのか、ぞっとさせられるのか、笑ってしまうのか、すべては書き手の思うがまま。最後に「そうだったのか」と、膝を打たせる作品を待っています。「こんなの初めて」という喜びもお願いします。
◇米澤穂信先生
まだ世に出ていないミステリをいち早く読めるなんて、幸せなことです。特に短篇は、文章や長さ、仕掛けにいたるまでデザインされ磨き抜かれた輝きに出会うことが多いので、とても楽しみにしています。
「あ。この作家の小説、もっと読みたい」と思うと矢も盾もたまらなくなりますよね。そんな気持ちを味わわせてくれること、期待しています。
いちばん目立つところに、この三人の作家さんの名前が載っていて、その下に、上のような文章が載っていました。
これはつまるところ、「この三人に続け!」と言いたいのではないでしょうか。大倉崇裕、大崎梢、米澤穂信という名前に引っかかる人を求めているのであり、これら三人の本を好き好んで読んでいるような作者に集まってほしいという感じではないでしょうか。
逆に、この三人の名前に引っかからない人には、「まあ、あまり来ていただかなくても」という感じかもしません。求人募集における「主婦、大活躍中」と同じ効果です。
【忘れてはいけない、小説もビジネスである】
以上。いろいろな新人賞を見てきました。繰りかえしますが、それぞれの賞には、「専攻分野」があります。
法学者を目指しているのに、誤って生物学部に入学してしまうような間違いは避けなければいけません。
当然と言えば当然ですが、どの出版社もビジネスとして本を出版しているので、それぞれ独自の戦略に基づいて行動しています。
マーケティング用語で言えば、どの新人賞もなんらかの差別化をしています。
どんな作品でも大歓迎、というわけではない、ということです。
それぞれの新人賞の戦略を調べてみると見えてくるものがあるかもしれません。
今回の調査は、それぞれの戦略をそれぞれのサイトから探ったものであり、過去作を調べたわけではないので、その点、ご注意ください。
とはいえ、サイトだけでも、わかることはたくさんあります。
【上記したのは僕の個人的な分析】
上記した分析が重要というわけではありません。
目指している新人賞があるなら、その新人賞が求めるものを把握する必要があるということです。
僕は以上のような分析をした結果、江戸川乱歩賞を諦めました。
自分の特性とマッチしていないと判断したからです。
しかし、その代わりに、メフィスト賞との相性がよさそうだ、と気づきました。
これからはメフィスト賞狙いで頑張りたいと思います。
ぜひ、みなさんも、調べてみてください。↓ ではでは。