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【簡単】魅力的なキャラクターをつくる方法【ケーススタディー】

 こんにちは、山本清流です。


 今回は、魅力的なキャラクターを作る方法についてお話しします。

 とはいえ、お前はどんなキャラクターをつくれるのだという疑問があるでしょうから、


 最初に、いままで僕が生み出した中でいちばん魅力的なキャラクターをケーススタディーとして取り上げようと思います。

 こちら。長いので、そんなのどうでもいいという方は読み飛ばしてください。


 『デスシアター・ホテル』という作品の一部です。↓


 佐知さまへ

 ちょっとお待ちください。せっかく開いたのだから、まだまだこの手紙を閉じたりしませんよね? この手紙はある種、あなたへの招待状です。僕の誘いに乗るのならば、あなたはきっと、人生でいちばん楽しい夏休みを過ごすことができるでしょう。慧眼として有名な僕の担当編集者がそう強調しているのだから、間違いありません。一分後、この手紙を読み終わったときには、あなたは僕に感謝しているはずです。
 ――とはいえ、本題は、最後に回します。はじめてのあなたへの手紙ですから、最初に、長い前置きを挟んでおく必要があるでしょう。
 僕のことを覚えておいででしょうか。ペンネームは山内俊、本名は駿之介です。あなたの頭の奥から僕の記憶を浮かび上がらせるためにも、いくつかのエピソードを挿入する必要があるかもしれません。
 あなたについて僕の頭にいちばんに浮かんでくるのは、あなたからもらった生協の菓子パンです。一年生のころ、さくさくのメロンパンを奢っていただいて、本当にありがとうございました。ちょうど僕の好みでした。「このメロンパンには異物混入していないだろうね」と一緒に笑ったのが楽しい思い出です。
 一年生のころに学内のコンビニで発生した連続異物混入事件はそれほど昔ではありませんが、いろいろな出来事を経験した僕には何十年も昔のように感じられます。事件当時は、大変な騒ぎでした。大学構内に入れなかったメディア関係者が校門の外で学生にインタビューをする始末でした。野次馬だってメディア気取りでした。まるで、映画の撮影でもおこなわれているみたいでした。
 ある寒い朝、僕も、校門の前でメディア関係者につかまりました。切り抜ける術がわからないでいると、偶然にあなたがやってきて、メディア関係者を相手取り、「邪魔です。どいてください」と堂々たる主張をしました。そのおかげで、僕は、遅刻に口煩い教授の授業に遅れずに済んだのです。あなたがいなければ、教授からの冷たい言葉を浴びるところでした。思えば、そのときが僕とあなたの出会いでした。
 あなたは、よく、連続異物混入事件を起こした犯人への不平を述べていました。僕だって異物混入には賛成できませんでしたが、ちょっと心苦しくも感じていたのです。
 だって、ただのイタズラではないかもしれないでしょう? その人なりの辛い現実があって、その中でやった過ちなのかもしれない。それこそ、異物混入されるよりもひどい仕打ちを受けている誰かなのかもしれない。そんな想像が頭を過ぎると、僕には犯人への同情さえ湧いてきたのです。
 かといって、あなたに向かって、そんな心の内を打ち明ける勇気はありませんでした。あのころの僕はまだあなたに従属的でしたから、面と向かっては言えませんでした。それに、素直に主張したところで、「やったことがあるのですか?」と追い詰められていたでしょうから。念のために宣言しますが、僕は連続異物混入事件を起こしたことはありませんので。犯人は捕まっていませんが、断じて、僕ではありません。
 果たして、あなたの前で涙を流せる人がいるのでしょうか。ひとりもいないほうに賭けたい気分です。
 前置きが長くなりました。メロンパンに、連続異物混入事件、僕たちの出会いに、僕たちの著しい価値観の相違……これだけエピソードを詰め込めば、僕の輪郭を思い出していただけたに違いありません。そろそろ話の毛色を変えて本題に入り、ひとつ、あなたに招待とも言える頼みごとをしたいと思います。
 あなたもご存じのことと思いますが、僕は現在、大学生として生活する傍ら、ホラー小説家としても活動しています。あなたが他大学に転学する前、僕らがまだ二年生のころでした。僕の書いたホラー小説、『黒き深みに落ちる』が第一三回モダンサスペンス大賞に輝き、ホラー小説家としてデビューしました。「で、売れたのです?」というあなたからの温かいお祝いのコメントをいまでも憶えています。
 残念ながら、デビュー作は売れませんでしたが、その後に出した『鬼の如き呪い』が幸いにもヒットしました。その影響で編集部の対応が掌返しになり、次作を執筆するにあたり、編集部の全面的なバックアップが取れました。「ホテルを題材にした幽霊屋敷ものを書きたい」と駄々をこねると、スキー客のいない夏季には休業しているあるホテルを一週間、貸し切っていただきました。大学の夏休みを利用して、一週間、そのホテルで執筆を進めるつもりです。
 その小説は中編になる予定です。
 問題がひとつあります。そのホテルには管理人がひとりいるのです。僕は、赤の他人と長期間ひとつの空間で過ごしたくありません。担当編集者が「ホテルに付き添って、管理人との間に入ってもいい」と申し出てくれたのですが、多忙の中、それはさすがに申し訳なく思います。
 そこで、あなたを招待しようと考えたわけです。少しだけ親しみのあるあなたが管理人との間に入っていただければ、ちょうど都合がいいのです。期間としては一週間です。突然な誘いですので、僕らの距離を縮めておく必要があるかもしれません。そこで手紙のやり取りを重ねたいのですが、いかがでしょうか。

                           駿之介より

   *

  駿之介さまへ

 お手紙ありがとうございます。長文のお手紙でしたので、同じく長文のお手紙で返答するのが礼儀だろうと思いまして、筆を執った次第です。文字が汚いかもしれませんが、あなたの文字のほうが汚いので、問題はありません。もうちょっと文字をきれいに書く練習をされてはいかがでしょうか……。
 本題への返答は、あなたがまともに手紙を最後まで読めるように、いちばん最後に言い渡します。
 一年生の終わりのころにプレゼントした生協の菓子パンは、あなたと一緒にランチタイムを過ごすための口実でした。当時の私は、アフリカの原住民族であるサムナ族の人々の多くに共通する個人行動の傾向がサムナ族全体のシステムの中で果たす役割について独自に研究していました。その中で、類似の問題として、個人行動をする日本人についても興味が湧きましたので。
 あなたからのはじめての手紙が菓子パンの話題から始まったことについては正直、あなたらしいな、と呆れました。二〇〇円の菓子パンよりもっと感謝すべきことがたくさんあるだろうに、と思います。私がいなければ惨めな学生生活になっていた現実に、お気づきではないのでしょうか。そのとぼけ方からして、お変わりない様子ですね。
 メロンパンを選んだのは、あなたの頭がメロンパンみたいに丸かったからです。
 一年生の後期にあった連続異物混入事件は懐かしいです。あのころの私は、うじゃうじゃと群がってくるメディア関係者が鬱陶しくて仕方がありませんでした。思っていることがすぐに口から出てくる性格のせいで、偶然にも、あなたの役に立っていたようですね。
 あなたは、思っていることの多くを飲み込む性格のようでしたが、そんなに飲み込んで大丈夫なのかと不思議でした。
 よく、飲みこみすぎて、ときどき吐き出す方がいらっしゃいますが、私は、ああいうのがいちばん苦手なのです。あなたもそのタイプだろうと思っていたので、最初は関わり合いになりたくありませんでしたが、いっこうに吐き出さないので、むしろ心配になってきました。
 一年生の終わりのころ、あなたがメールを利用して吐き出してきたのは、迷惑千万でした。それをきっかけにして、なんでもかんでも吐き出すようになってきたのは、私の教育が失敗したものと反省しています。こちらの大学に転学してからは、あなたのねちねちしたストレス発散に付き合わずに済んで、清々しい気分でした。
 これからの手紙のやり取りを、惨めな学生生活を続けるあなたの吐き出しに利用しようという魂胆でしょうか。ほんの少しだけ面倒くさいです。
 連続異物混入事件の犯人に対する独特な感情については、さっぱり理解できません。あの事件では、何人もの学生が口内を切り、たいへんな怪我をしたのです。カッターナイフの刃をパンに混入するなど、どんな理由があっても許せません。それほど犯人に肩入れするのは、私が思うに、あなたの道徳の感覚がズレているせいではないでしょうか。一般的な道徳を身に着けていただけると幸いです。加害者に同情して涙するよりも先に、被害者に同情して涙すべきでしょう。少なくとも、私の祖父も、祖母も、母も、父も、妹もそのように考えます。
 そろそろ心の準備ができたでしょうか。あなたからの招待とも言える頼みごとは、お断りします。大切な夏休みをあなたのために利用するのがもったいないからです。
 あなたもご存じのことと思いますが、私は大学生として生活する傍ら、文芸評論家としても活動しています。大学二年生のころに小川評論賞でデビューし、その後、私が個人運営しているブログサイトでさまざまな文芸評論を公開するようになりました。自分で言うのもなんですが、さっそく若手評論家として頭角を現しており、あなたの作品のすべてを全面的に低く評価してきました。
 あなたの作品はどれも、ひどく稚拙で、お話しになりません。そんなあなたに協力したいとは思えません。
 とはいえ、あなたの身の上話については、文学的な興味があります。とくに、あなたの類い稀なる臆病な性格がいかに生み出されたのか、研究材料として教えていただきたいです。

                            佐知より

   *

  佐知さまへ

 僕の文字はそんなに汚いでしょうか? あなたの書く『あ』の、無駄な歪みのほうがよっぽど深刻に感じられるのですが……。
 筆を進めるにあたって、僕としては穏やかならざる心地です。どうして、あなたは僕をぼこぼこにしたがるのでしょうか。せっかくプライドを痛めながらも懇意そうな様子を装ったのに、台無しです。本題をお断りになったのは、困りものです。僕は、全力であなたへの営業をしなければいけなくなりました。足早にホテルでの生活のメリットをお伝えしなければいけません。
 ですが、その前に。まずもって断っておかなければいけないような、とてつもなく重大な、あなたからの誤解を発見しました。
 あなたが先の手紙にて『類い稀なる臆病な性格』と僕の性格を定義されたのは、大きな誤解です。僕が臆病なのではなく、あなたが無謀なのです。あなたを基準に考えると、世の中のすべての人間が臆病になる現実にお気づきでしょうか。相対的な関係でしかないのです。あなたは類い稀なる無謀な性格ですから、あなたの前では誰もが臆病という名の元に置かれます。
 僕はむしろ人懐っこい性格です。だったら、ひとりくらい友達がいるだろ、と思われるでしょうが、それとこれとは別問題です。きっと納得されないでしょうが、ダメ元で説明しておきます。僕に友達ができないのは、霊感があるせいです。小さいころから霊感のあった僕は、「幽霊が、きみの背後から、きみのことを睨んでいるね」とか、「そこに幽霊がいるけど、僕たちを見て、にやにやしているね」とか、人懐っこいとしか言いようのない発言を連発していました。そのせいで気味悪がられ、小さいころから友達ができませんでした。現在は、そもそも諦めています。
 ただ、そんな僕も、霊感のある子とは仲良くできました。
 その証拠に、小学六年生のころには奇跡的に同じクラスに霊感のある子が六人もいたので、友達に恵まれました。楽しい思い出は数えきれません。幽霊たちと一緒にかくれんぼをしたり、廃墟で肝試しをしたりしました。それらの友人関係の中で、さまざまな事情を抱えた人間や幽霊がいる世の中の現実を学んできたくらいです。さまざまな事情がいっしょくたにされている現実の惨さも学んできました。
 その経験から言わせてもらえば、『一般的な道徳』などあまりに横暴な捉え方です。一般的な人間は存在しませんから、一般的な道徳なども存在しません。あなたの物の見方は偏りすぎています。
 あなたが言う『一般的な道徳』のもとにすべてを裁こうとする姿勢は、結局のところ、深く考えるのが面倒くさいだけではないでしょうか。あまりに短絡的すぎる世の中への視線には好感が持てません。あなたは少しばかり内省すべきではないでしょうか。その点も気になったので、指摘させていただきました。

                           駿之介より





 どうでしたでしょうか。どちらも、気に入っているキャラクターです。

 実は、このキャラクター創作の中で気を付けたことがあります。


 たったふたつだけ、です。

 それは、自分の感覚、意見を持っているというポイントと、それぞれの意見や感覚を対立させるというポイントです。


 上の文章では、とくにキャラクターの自分の意見や感覚を示しているところを太文字にしました。


 駿之介という主人公は、異物混入事件の犯人を責め立てる風潮に息苦しく感じている、と主張しています。

 一方で、佐知というヒロインは、犯人を責めるのは当たり前であり、どんな理由があれ、許すことはできない、と主張します。


 真っ向から意見や感覚が食い違っており、それぞれの価値観や考え方を浮き彫りにしています。


 気を付けたことはこれだけです。たった、これだけで、けっこうキャラが立ってしまったので、僕自身も驚いたという経緯があります。


 自分だけで独占するのもあれだから、せっかくなので、みなさんにもお話しようというわけです。


 この手法を使おうと思うなら、まずは、なんらかの議論の対象をつくるといいと思います。

 たとえば、野生の猫を保護するべきかどうか、とか、いじめにはどのように対処するべきか、とか。


 そういう議論の対象をつくり、なにげなく、キャラクターに議論をさせたり、すれ違いをつくったりするのです。

 

 野生の猫のケースだと、絶対に保護しようとする人もいれば、菌がついているかもしれないから慎重に、という考えの人もいるでしょう。

 いじめの場合も同じで、介入すべきだという考えもあれば、経過観察をするべきだという考えの人もいるはずです。


 そういうような考えや感覚の対立をつくり、それを描くだけで、けっこう、キャラは立ちます。

 物語に関係のある事件にどのように反応するかというのを描けば、スムーズに物語を進行させつつ、キャラクターの魅力をアップさせることもできるでしょう。


 そのようなお話しでした。

 意見や感覚の対立などは、ニュース番組などの議論を見たりすると、わりと参考になります。


 この方法、利用できそうだったら、ご自由にどうぞ。