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Gooleトレンドで見る「カレー」

「スパイスカレー」という言葉をご存知でしょうか?

僕の感覚ですが、この「スパイスカレー」という言葉は、おそらくカレー好きじゃない人にはここ2,3年で急に聞くようになった言葉なのではないでしょうか。
(この言葉の定義については未だにマニアの間で議論が起こるような言葉なのですが、個人的には、先日文春オンラインで公開されたイナダシュンスケさんのこの記事に書かかれている広義、狭義ともにほぼ同意です)

4月・5月の緊急事態宣言中に自宅で料理をする人が増え、「スパイスカレーを作った」という声をSNSやテレビでよく見聞きしました。俳優さんやジャニーズタレントがそう話すところを見て「ああ、”スパイスカレー"という言葉がそこそこ一般的になったんだな」と感じました。

この感覚をデータで確かめてみたくなり、Googleトレンドで調べてみました。

Googleトレンドとは、Googleでのキーワード検索量の推移をグラフにしてくれるサービスで、web関連やマーケティングを仕事にしている人なら日常的に使っていると思います。

Googleトレンドで見る「スパイスカレー」

さて見てみましょう。

スパイスカレー

※グラフ縦軸は検索数ではなく、最も検索された時の検索量を100とした場合の相対値なので、100くらいあるからといって、全ての検索キーワードの中で検索量が最も多い、ということではありません。

見ての通り、2018年あたりから急激に伸びています。
「ここ2,3年で急に聞くようになった言葉なのではないでしょうか?」という僕の感覚は間違ってなさそうです。

ちなみに、「スパイスカレー」という言葉が最初に本やメディアで使われたのは、おそらく水野仁輔さんの2010年の著書「かんたん、本格!スパイスカレー」だと思います。

水野さん自身も、

2010年、僕が「かんたん本格! スパイスカレー」というレシピ本を出版した時、世の中に“スパイスカレー”という言葉は存在しませんでした。

と書いています。

しかし、Googleトレンドのグラフの通り、2010年には検索量は増えておらず、2018年に突如伸び始めるわけです。

理由はおそらく、各グルメ雑誌が2018年前後から夏のカレー特集号に「スパイスカレー」という言葉を使い始めるなど、メディアでの登場頻度が増えたからだと思います。

グルメ雑誌のカレー特集といえばdancyuが有名ですが、dancyuの2018年9月号の表紙見出しはまさに「スパイスカレー 新・国民食宣言」でした。

そして何と!この号には代田橋にある「しゃけスタンド」を紹介する僕が書いた記事が載っています。買ってください。以上、ただの宣伝&自慢でした笑。

ということで、「スパイスカレー」という言葉がそれなりに普及したのは2018年以降だと言っていいでしょう。

ちなみに、このスパイスカレーの流行には、大阪とSNSが重要な役割を果たすのですが、そのあたりについては(気が向いたら)別の記事で書いてみたいと思います。

Googleトレンドで見る「カレー」

では単純に「カレー」だとどうなるでしょうか。

カレー

この15年でGoogleのユーザー自体が増えているので検索量も増えて当然、ということはあると思うのですが、それは置いておいて、ざっくり言うと、この15年で検索ボリュームが約2.5倍になった、という感じでしょうか。
「スパイスカレー」は2018年から急激に伸びていましたが、「カレー」だと2011年以降は毎年徐々に増えていますね。
(2011年以降、ということから推測すると、スマホの普及によりGoogleのユーザーが増えた、というのがありそうです)

おもしろいのは、毎年8月に検索ボリュームがピークを迎え、11月〜2月にはガクッと落ちていることです。まさに「夏はカレー」ですね。ライトユーザーが多いお店やスパイス関連の通販サイトはこの時期に売上確保のためにいろいろと工夫されているのかもしれません。

Googleトレンドで見る「カレーは家で作るか外で食べるか」

カレーは「家で作る派」と「外で食べる派」がいると思います。僕は圧倒的に外で食べる方が好きなのですが、例えば「カレー レシピ」「カレー 名店」で比較してみると、

カレーレシピカレー名店

もはや比較になりません。「カレー おいしい店」など似たような言葉で調べても同じ結果でした。やはり多くの人にとって、カレーは外で食べるものではなく、家で作るもの、ということなのでしょう。

同じ国民食である「ラーメン」と「カレー」を比較してみると、こうなります。

カレーラーメン

注目すべきは、2020年の4月・5月でラーメンがガクッと落ちているのに対して、先ほど見たようにカレーはむしろ伸びている点です。このデータを見ても、「ラーメンは外で食べるもの」ということは明白で、「カレー レシピ」のさっきのデータと合わせて見ると、「カレーは家で作って食べるもの」ということがやはり言えそうです。
(とはいえ年々ラーメンに検索ボリュームの差を開けられているのが気になるぞ…)

しかし「カレー レシピ」のコロナ禍になってからの伸びが凄まじいですね。ほんとにみんなカレー作ってたんだな。

Googleトレンドで見る「スパイス」

ではここでカレーを作るのに欠かせない「スパイス」も見てみましょう。

スパイス

2006年、2011年、2012年にイレギュラーな山がこれは謎です。分かり次第レポートしたいと思います(スパイス・ガールズの再結成は2007年だしな…)。

全体でならして見ると、「スパイス」も「カレー」と同じく、この15年で2倍になっています。そしてやっぱり2018年からの伸びがすごい。スパイスカレーに関連して伸びているのでしょうね。

Googleトレンドで見る「インド料理」

ここまで見てきて、「スパイスカレーやスパイス自体の注目度が高まっているということは、インド料理の注目度も上がっているのでは?」ということが気になりました。調べてみると、

インド料理

おおお、注目されているどころか、10年前より下がっているではないですか…。肌感覚だとインド料理マニアは増えている気がするんですけどね。2010年あたりまで徐々に増えているのは、後に書く南インド料理の普及の影響もあって、理解できます。

言葉を変えて、「インドカレー」だと、

インドカレー

https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&geo=JP&q=%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC

年々着実な伸びを見せています。

いろんなところで言われているし、僕も5回インドに行っているので実感としてあるのですが、実際にインドに行くと「カレー」と名のついた料理はなく、あったとしても、観光客などに分かりやすいように便宜的につけられている場合が多いです。なので、インド料理好きは「インドカレー」という言葉を使わず、こだわって「インド料理」と言う傾向があります。
しかし、多くの日本人にとっては、カレー=インド、なんですよね。なので、「インドカレー」の検索量が増えているのは、インド料理への注目が高まっている、と僕は解釈します。

そして、「インド料理」の検索が伸びていないところから推測するに、やはりカレー以外のインド料理にはなかなか関心が向かいない、ということなのかもしれません。挙げるとキリがないですが、旬の食材の炒めもの、肉や野菜をタンドール窯で焼いたもの、魚の揚げ物などなど、お酒のツマミにもなるおいしい料理がたくさんありますよ。インド料理屋さんに行ったらカレー以外の料理も是非食べてみてください。

では、インドカレーで一番みんなが口にするカレーは何かというと、おそらく「バターチキン」なのではないでしょうか。こんな感じです。

バターチキン

https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&geo=JP&q=%E3%83%90%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%81%E3%82%AD%E3%83%B3

2019と2020年で異常に伸びています。じわじわ伸びている系かと予想していたけど、ここまで急激だとは。。
コンビニ弁当のカレーやカフェのメニューにバターチキンカレーが普通にあったり、無印良品のレトルトカレーのバターチキンがかなり売れたり、バターチキンを目にする機会が本当に増えましたよね。それを裏付けているなと感じます。他のインドカレーがんばれ。

そして、みんな大好きと言えば、チーズナン。

チーズナン

いやーおもしろい。バターチキンと同じタイミングで伸びています。

ちなみに先日、バターチキンとチーズナン(正確には「チーズクルチャ」)を出している某店のシェフの話で「カレーのオーダーの半分くらいがバターチキンでみんなチーズクルチャで食べている」という話があったのですが、このデータを見たら納得しちゃいますね。

Googleトレンドで見る「南インド」

バターチキンをはじめ、こってりしたカレーにナン的な「北インド料理」に対し、近年、カレー好きの間では「南インド料理」が注目を浴びています。ものすごくざっくり言うと、主食は米で、シンプルな味わいのさらっとしたカレーが特徴です。「バナナの葉っぱにカレーがいろいろ乗ったアレ」です。データで見るとどうでしょうか。

南インド料理

「南インド料理」だけだと動きが不明確だったので、「南インド」も一緒に見ます。
(これが言いたいことに都合のいいデータを持ってくる手法です笑)

僕が知っている範囲で言うと、南インド料理で重要なトピックとしては、

▼2004年
京橋「ダバインディア」がオープン(その他老舗の南インド料理店がこの前後にオープンしています)
▼2006年〜2010年くらい
第一次南インドブーム。dancyuなど各雑誌で南インド特集が組まれる
▼2011年
八重洲に「エリックサウス」がオープン
▼2018年〜
第二次南インドブーム。都内に南インド料理店が激増

という感じでしょうか。
「南インド」のデータの方が、上記の動きと符合しているように見えますね。

前回書いた記事にも挙げましたが、dancyuの2006年、2007年のカレー特集号がまさに南インドで、これに影響を受けたカレー好きの人は多いはずです。ある意味、10年早い特集だった、と言えるかもしれません。


Googleトレンドで見る「レトルトカレー」

最後にこれを見ましょう。個人的に、この10年くらいで最も動きがあったカレーのトピックは「レトルトカレー」だと思っています。カレールウの売上を上回った、というニュースもありましたね。

売れ行き好調・レトルトカレーが「ルー」を逆転したワケ
https://otekomachi.yomiuri.co.jp/news/20180529-OKT8T84698/

Googleトレンドではどうかというと、

レトルトカレー

もう伸びまくってます。「カレー」が15年で2.5倍になったのに対し、「レトルトカレー」は3倍以上という感じでしょうか。

個食化と、ユーザーが300円以上の高級レトルトカレーおいしさに気づいた、というのが伸びてる理由だと推測します。僕が仕事をお手伝いしている、株式会社スペーススパイスの竹田さんが今年のBRUTUSのカレー特集号でそのあたりの話をしています。

まとめ

ということでGoogleトレンドでカレーにまつわるワードをいろいろ見てきました。
新たに何かを発見した、というよりも、自分の肌感覚、仮説を検証するような形にはなりましたが、まとめるとこんな感じでしょうか。

・「スパイスカレー」という言葉は2018年から普及し始めた
・夏はカレー!
・カレーは外で食べるものではなく家で作るもの
・スパイスやスパイス料理に関心が高まっている
・バターチキンとチーズナンの注目がこの1,2年でかなり高まった
 (それ以外のインド料理へのハードルが高い)
・レトルトカレーの需要がかなり増えた

以上です。
さあ、今日もカレーを食べよう。

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