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最大公約数の「スキ」を集める理由を考える

自分の波長に合う作品だけを読んでいると、趣味が凝り固まってしまう。だから、思いもよらない人から「最近読んだ本」を聞いたら、なるべく読むようにしている。そのきっかけは『陽だまりの彼女』だ。

以前の職場(某印刷会社)で、上司が本気で推してきたのがこの小説だ。「なんかいつも本読んでるよね〜。この本知ってる? 奥さんのこと思って読んでたら涙が出ちゃったんだけど」と言いながら差し出しされた。

いまさら言うまでもないが、この本はたいへんなベストセラーになって、映画化もしている(主演:松本潤と上野樹里……まぶしい)。

それにしも、手元にあるオビが賑々しい。「最初で最後の恋(うそ)だった」「70万部突破!」「女子が男子の読んで欲しい恋愛小説No.1」「”二度泣ける”再会ラブストーリー」これでもか、という推し文句が並んでいる。そして裏表紙側にギッシリと並ぶのは、愛読者コメント。

上司が微笑みながら言ったのは、そのコメントに入っていてもおかしくない感想だった。素の自分には、その純真さが欠けている。さらには、今とは比較にならないほどのサブカルこじらせ野郎で、謎の信念があったのだが、その上司の破顔が忘れられなくて、読んでみることにした。

すると、いろんな発見があった。伏線の張り方も、「かわいい仕草」の見せ方、不思議さとリアリティの境目の作り方……。すべてが噛み合うと、ジャンルを越えたマスプロダクトに仕上がるのだ。好きとか嫌いとか関係なく、ヒットの理由を探ることを意識したきっかけになった。

再読しながら、久しぶりに元上司のことを思い出した。会社は合併するなど色々あったようだが、元気でいるだろうか。だといいなぁ。


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