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ワーキングホリデーの年齢制限、とっくに間に合わなかった問題

「ジャケ買い」って、ずいぶんしていない。音楽だけじゃない。ちょっと前までは、本だって「ジャケ買い」をした(という人は珍しいだろうけど)。ヴァシィ章絵『ワーホリ任侠伝』は2006年に第1回小説現代長編新人賞に輝いた作品だ。けれども当時の自分は、そのことはさておき、タカノ綾が描く装画を書店で見つけて手にしたのを覚えている。しかも、ワーカホリックの話かと思っていたのだが、読んでいくうちに「あぁ、これワーキングホリデーのことだ」と気づいた。そんな、脇の甘い人生をずっと送ってきているのだな……

内容はと言えば、この装画で受けるイメージそのもの。

週末となると六本木へクラブ通いをするOL(って呼び方も最近減りましたが)ヒナコの疾走劇。大手商社に勤めながらも、ぼんやり抱いていたワーキングホリデーの資金を捻出するために、夜の街で働くことになったが、そこで運命の出会いが待っていた。仁義なき戦い的なものに巻き込まれて海外へ脱出。昼の街から夜の街、死の淵まで高速で駆け抜けるロードムービー。

任侠伝という冠がついているけれど、現代モノの韓流ドラマにも親しむ人が楽しめる急転回ぶりだ。「そこはVシネでは?」と思われるかもしれないが、やはり韓流ドラマの魅力と並べたい。登場人物のわかりやすいキャラ立ちと、ストーリーの場面転換の多さ。そして何よりも、みんなすぐに恋に落ちる。

もしくは、マンガを原作にしたドラマが流行り始めた時で、「それを小説でやってみたらこんな感じ」だったのかもしれないけれど。

今の視点で考えると、わたしがこの本に魅力を感じたのは当たり前のことだ。主人公と同じような感覚の、社会人2年目。氷河期とはいえ本気で無職のまま卒業して、個人弁護士事務所で「女の子」として働いていた。法律事務員という肩書きだったけど、求められていた役割は「女の子」だった。半ば人生は諦めていたので、仕事はATMと割り切って、定時で仕事が終わるとライブハウスや図書館に駆け込んでいた。「この本が読んでもらいたいゾーン」で暮らしていただけだ。

今が仄暗い黄昏どきだとすれば、きっとあの頃は、ぬばたまの闇夜だった。いろいろあったけれど、とにかく生き抜いていることを、当時の自分に教えてあげたら、どう思うだろう。拒絶されそうだ。ドイヒー過ぎて。

ところで作品の中では、主人公が急に老けた気分になる場面がある。離れて見ると、20代なんてすべて若いように思うのだが、そんなことを言い出したら、もう若くはない証拠である。若くても、実際に「老い」を思ったりするものなのだ。そこには、むしろリアリティがある。感染症が蔓延してようと、してなくても、すでにワーキングホリデーなど使えない年齢になると忘れてしまう。

一部の表現で「今なら別の言い回しにするのでは……」とか「そのエピソードはちょっと……」とドキドキしてしまうシーンもあるけれど。それは2006年の「前提」で読んでいただきたい。痛快な心地よさを楽しめるはず。

ちなみにこの装画は一枚絵になっていて、裏側もカッコいい。それなのに書影だと裏が映らないのが寂しい。ていうかこの一枚絵じゃないと意味ないのだ。電子書籍はどうなんだろうな。

というわけで、裏はこんな感じです(あとでうまく撮れたら上げ直します)。

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