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中国の⼥性向けモバイルゲーム

ネットイースやテンセントといった中国の大手ゲーム企業が、⼥性向けモバイルゲームに積極的に進出しています。そこにどんな狙いがあるのか、ユーザーの特徴や人気のゲームなど中国市場の現況を調べてみました。

はじめに


こんにちは。Spicemart(スパイスマート)です。
私たちはアジアや北米を中心に、ゲームの開発・運用に役立つ情報を収集・分析し、お客さまであるゲーム企業に情報提供をしている調査会社です。

このnoteでは「ゲームやアニメが好き」「世界のゲーム事情を知りたい」といった方々にも興味を持っていただけるような内容を配信しています。


中国の女性たちにとってのゲーム


中国で女性向けモバイルゲームが誕生したのは、後宮を扱ったテレビドラマや⼩説のブームがきっかけでした。

後宮とは天子が暮らした宮殿のことを指し、多数の王妃と、彼女らに仕える宮女や宦官がひしめく様は、まさに復讐や愛憎劇の舞台そのもの。

物語に熱狂した女性たちは、そのまま後宮を扱ったゲームにも足を踏み入れました。

その後、⼤ブームを起こしたPapergames(叠紙遊戯)の『恋とプロデューサー』が登場します。

2017年12月に中国で配信され、2019年7月の日本リリース時には全世界で9,000万ダウンロードを突破したこの恋愛シミュレーションアプリは、中国では女性向けゲームのマイルストーンのような存在となりました。

この作品が国民的ゲーム『王者栄耀』のダウンロード数を上回るほどの勢いをみせたことで、中国の大手ディベロッパーも女性向けゲーム市場を意識するようになります。



以後、中国では『夢王国と眠れる100⼈の王⼦様』や『囚われのパルマ』、『シャイニングニキ』などのゲームが次々登場し、女性をますますゲームに惹きこんでいきます。

最近では女性ユーザーの割合は中国市場全体の47%にまで達しており、『陰陽師』や『王者栄耀』などの男性向けゲームで遊ぶ女性も年々増加しているそうです。




なぜ女性向けか、売上高からみる市場


女性ユーザーの数は延びていますが、下表のとおり、女性向けゲームの売上高は2020年においても全体のまだ25%ほどにすぎず、マーケットシェアの拡大が見込める市場といえます。

売上高

データ出典:中国音数協ゲーム工委『2020年中国ゲーム産業報告』


TencentGamess(騰訊遊戯)やNetEaseGames(網易遊戯)、MiHoYoo(⽶哈遊)など⼤⼿ディベロッパーが女性向け市場に積極的に乗り出しているのは、この成長ポテンシャルを狙ってのことだと考えられます。

一方、これまで女性向け市場を牽引してきた『恋とプロデューサー』や『シャイニングニキ』のPaperGamesや、『熹妃Q伝』のFriendTimess(玩友時代)などは、これら資本力ある大手企業の参入をピンチと捉えてもいるようです。

次に年齢分布をみていきましょう。

年齢層

データ出典:中国音数協ゲーム工委『2020年中国ゲーム産業報告』



女性ゲームユーザーの年齢層は、16歳から25歳以下が全体の49%を占め、次に26歳から35歳以下の38%が続いているのがわかります。

大学生、高校生のユーザーが多いと言われており、人気は着せ替えや恋愛などを扱った乙女ゲームに集中しています。

どのゲームもこの年代の女性に好まれるキャラや、ファッション、メイク、BGMなどに力を入れいるため、それがかえって「似たようなゲームが多い」という批判に繋がっているようです。

見方をかえれば、斬新でときめくゲームが登場すれば、一気にブームを巻き起こすことが可能だといえます。


人気の女性向けモバイルゲーム


下記は2021年6⽉時点の中国iOSセールスランキングのトップ50に⼊った⼥性向けモバイルゲームの一覧です。

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それぞれのゲーム内容を簡単にご紹介します。

・『光と夜の恋』

TencentGamesが初めて独⾃開発した⼄⼥ゲームで、2020年に6月リリースされました。

有名イラストレーターや声優、海外ミュージシャンなどを招いたことが話題となり、リリースされるやいなや、App store無料ランキングのトップに踊り出ました。

ファッションデザイナーが主人公なので、ハイセンスな着せ替えを楽しめる点と、恋愛対象となる男性たちに裏の顔があるというミステリー仕立てのストーリーが女性たちにウケています。

すでに日本語版の声優が決まっているということなので、今後、日本でも展開されるかもしれません。



『浮⽣為卿歌』

⼥性向けゲーム市場を牽引してきたFriendTimesの作品です。2019年12⽉31⽇に各プラットフォームでリリースとなりました。

時代劇をモチーフにしており、育成やハウジングなど様々なコンテンツが詰まった従来型のターン制RPGゲームとなっています。

2人の主人公が存在することが特徴的で、アバター作成時に⼥性の主人公を選べば、刺繍の腕を買われて⼥官となるストーリーから進めていくことに。

男性の主人公を選択した場合は、一国の王としてスタートすることになります。

主人公二人の接点も作られており、展開次第では戦いになることも。また古典的な豪華衣装も課⾦ポイントとなっています。



『QQ炫舞』

こちらもTencentGamesの作品です。

数千万というユーザーを誇るPCゲームのモバイル版で、2018年にリリースする際、リズムゲーム(音ゲー)に着せ替えとソーシャル性が強化されました。

純粋な⼥性向けゲームというわけではないのですが、ディベロッパーによると、⼥性ユーザーが全体の6割を超えているとのことです。

カスタマイズ可能な顔パーツや服装、アクセサリーを多数用意するなど、キャラの衣装や化粧品などに力を入れており、有名ファッションブランドとのコラボなども積極的に行っています。

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女性向け市場の課題



下記のグラフをみると、中国において⼥性ユーザーのARPU(ユーザー1人当たりの売上金額)は、ゲームユーザー全体の半分に過ぎないことがわかります。

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データ出典:中国音数協ゲーム工委『2020年中国ゲーム産業報告』


男性プレイヤーは戦争や征服を目指すゲームで遊ぶことが多く、勝負に入り込むと、装備やスキンなどの課金に勢いがつきがちです。

一方、女性はイケメンキャラへの憧れや推しを育成するなどの感情面、あるいは着せ替えやイラストなどのビジュアル面を楽しむことが多いため、急ぎ課金するといった行動に結びつきづらいように思えます。

そのため女性向けゲームは⻑期運営に⼊るにしたがって、収益が減少していく傾向が多く見られるようです。

かつて大ブームを巻き起こしたPapergamesの『恋とプロデューサー』も、中国ではまだセールスランキングのトップ200以内とはいえ、課⾦を促すイベントを次々と打ち出すことで、どうにか寿命を延ばそうとしているのが現状です。

ちなみに本作は日本でも、”リアルでもカレの誕生日を祝うことができるバースデースイーツ”や、キャラをイメージしたフレグランスなどのグッズを積極的に販売しています。

TVアニメ化の際には「彼ら4人と東京・原宿で待ち合わせデートをするなら」をテーマにした「恋とプロデューサー展」も開催し、入場は無料にした上で、限定描き下ろしグッズなどの販売を行っています。

しかし、このように様々な工夫を凝らしても、中国本土ではユーザーの流出と収益減少に歯止めがきかないようで、現在ディベロッパーは第⼆作の開発に取り組んでいます。


他にも、MiHoYoが初めて乙女ゲームに進出した『未定事件簿』や、同じくNetEaseGames初の乙女ゲーム『時空中の絵旅⼈』なども、ランキング200位圏外となってしまっています。


そもそも中国では女性は男性より給与が低い場合が多く、また女性向けゲームは学生ユーザーが中心となっているため、多額の課金が見込めないという指摘もあります。

そのような状況下で、さらに今年2021年からは未成年者へのゲーム規制も始まってしまいました。

▼18歳未満の未成年者へのサービスは金、土、日、祝日の午後8時から1時間のみ
▼実名登録していない人にサービスを提供してはならない
▼⻘少年の1か⽉の課⾦額制限

ゲーム企業を衰退に導くようなこれらの規制は、投資をすすめてきた企業にとってはまさに大打撃といっていいでしょう。


それでもどのゲームも規制を守った上で、アニメや舞台、キャラクターソングや人気作品とのコラボ、さらには料理店とのコラボなど、あの手この手をつかって収益向上を目指しています。

しかしマネタイズの観点から見た場合には、今後はより大きな革新が必要と言えそうです。

昨今、中国の男性ユーザー向けのゲームはesports向けにシフトしつつありますが、おそらくそれと同程度のインパクトが必要なのではないでしょうか。


次回はユーザーアンケートを軸とした日本の女性向けゲーム市場についてお伝えする予定です。
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