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中国の『ワンピース』人気からわかる理想のリーダー像

規制の厳しい中国において、『ONE PIECE』が日本マンガ・アニメランキングでNo.1を取り続けています。ストーリーの面白さはもちろんですが、支持される理由は他にもあるのか、人気の秘密を探ってみました。 


はじめに

こんにちは。Spicemart(スパイスマート)です。
私たちはアジアや北米を中心に、ゲームの開発・運用に役立つ情報を収集・分析し、お客さまであるゲーム企業に情報提供をしている調査会社です。

このnoteでは「ゲームやアニメが好き」「世界のゲーム事情を知りたい」といった方々にも興味を持っていただけるような内容を、月に2〜3回配信しています。

今回は、中国の『ONE PIECE』人気についての考察です。



表現の自由度が高い国、日本

日本ではタバコや酒、タトゥーや暴力などが、マンガやアニメの中で比較的自由に描かれています。そして、そのような描写を社会もわりと寛容に受け止めます。

そもそも肌の色で差別したり、目上の方に対して意見してはならない、というような慣習はありませんし、銃社会でもないため、描かれるシーンと実生活とを区別して楽しむことができるのかもしれません。

宗教面においても神、仏、キリストを共存させる柔軟性を持ち合わせており、版画の発達した江戸時代に春画が数多く売れたなど、性表現においても大らかに受け止める民族だと言えます。

日本は世界でも有数の”表現の自由”を享受してる国と言えるでしょう。

例えば”自由な国”を代表するアメリカでさえ、子どもへの影響を考えて暴力シーンや性表現などは排除して放送されています。
クレヨンしんちゃんは、”お尻をだす”ということが様々な国で問題視され、TV放送できない国もあるようです。


規制の厳しい国、中国


2015年に中国で日本のアニメ30作品以上が配信禁止となりました。

『進撃の巨人』『残響のテロル』『PHYCHO-PASS サイコパス』『残響のテロル』『Blood-C』『学園黙示録』『デスノート』などの作品が、国家への反逆や政情不安に繋がるものと判断されました。


もともと中国は、性的描写やグロテスクな表現には厳しい国です。
上記の作品が放映されるようになった今でも、シーンによっては”ぼかし”などが入れられ、修正されたものが放映されています。


しかし、その規制の厳しい中国においても、日本のアニメやマンガは非常に人気が高く、中でも『ONE PIECE』は各配信メディアの日本ランキングで首位を独走するほど、ぶっちぎりの強さを誇っています。

参考までに、今年上半期の日本ランキングにおける『One Piece』の順位をご覧ください。


【マンガ配信サイト】

・Tencent Animation and Comics 
中国で影響⼒がもっともあるとされるテンセントが運営するサイト
1月~6月     1位


・Kuaikan Comic

ユーザー2億⼈超え、⽉間アクティブユーザー4千万人超えのサイト
1月~5月  1位
6月     2位


・bilibili Comic

   日本作品を読み漁るコアなファンが多いと言われるサイト
 1月    11位
 2月    17位
 3月    14位
 4月    10位
  5月    11位 
 6月      7位

・bilibili 2021年6月 日本ランキング

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【アニメ配信サイト】

・iQIY
⽇本のテレビ局数社から最新の⼈気アニメを多く購⼊しているサイト
 1月~6月     1位


・Baidu Video
中国語圏最⼤の検索エンジン傘下バイドゥのサイト
 1月~6月     1位


このようにbilibili以外のサイトでの人気は圧倒的ですし、bilibiliにおいても、新しい日本作品が次々と公開される中で、常に20位以内にランクインしているのは見事だと言わざるをえません。


人気考察


それでは文化や風習の違う国で、『ONE PIECE』のどんな点が人々に受けているのでしょうか。

・規制リスクが低い

中国では「宗教」「政治」「性」に関わるものは規制される恐れがあります。また、血生臭い内容や暴力も危険視されますし、麻薬、賭博は禁止です。

『ONE PIECE』は海賊という題材を選んでますが、略奪や暴動などの残虐なシーンがなく、品のよい作品だと言えます。

ゴム人間のルフィや、ウソップのパチンコ玉などは微笑ましく、テロや国家転覆を意図したものとは到底思えません。

規制リスクが低いということは、連載の長い作品では特に、ファンの心が離れていかないというメリットがあります。

さらに言えば、配信メディア側においても安心してPRできるため、より多くの人に注目されることになります。

・面子を重んじる文化

中国人は「命より面子(メンツ)を重んじる」といわれています。

他人の前で自分の地位や名誉を非難されたり、失敗を指摘されることを極端に嫌い、それゆえに他人のメンツを傷つけないよう常に心掛けてもいるようです。

主人公のルフィは無邪気な人間ですが、大変思いやりがあり、相手の立場を理解した上で言葉を発します。

人格や誇りまで徹底的に傷つけるようなことはしませんので、メンツを重んじる国民性からみても、非常に好感がもたれるキャラクターといえるでしょう。

・リーダーシップの要件

中国には、「貞観政要」という名著があります。

明治天皇や徳川家康が帝王学を学んだともいわれ、現代の日本でも大企業の経営者に多くのファンがいると言われています。

中国の長い歴史の中で、最も政治が安定した時代を築いたといわれる王がまとめた書で、部下の心を掴む方法や、人材の育て方、組織を上手く運営する方法などが書かれています。

この書の中に、リーダーとはこうあるべきだ、とする以下の九つの徳「九徳」がでてきます。

一 寛にして栗(りつ)  寛大だが、厳しさを兼ね備えている
二 柔にして立(りつ)  柔和だが、きちんと物事を進めていく
三 愿(げん)にして恭  真面目だが、決して横柄な態度は取らない
四 乱にして敬      何かあれば前に立つが、普段は慎み深い
五 擾(じょう)にして毅(き) 粗野でなく穏やかだが、 毅然としている
六 直にして温      率直に物を言うが、温かい心を持っている
七 簡にして廉(れん)  大まかだが、全体を把握している
八 剛にして塞(そく)  意志が強く剛毅だが、押しつけがましくない
九 彊(きょう)にして義 豪勇だが、道理をわきまえている


主人公ルフィはこの九徳を参考にして描かれたのではないか、と思えるほどキャラクター設定が見事にマッチしています。

どんな層の人でも理解できるマンガやアニメの中に、中国の古来から続く理想のリーダー像が描かれているわけです。

しかも、明るく愉快に”自由”を求めて航海を続けていきます。

これこそが、共産主義の支配が続く中国で、『ONE PIECE』が圧倒的な支持を得ているポイントなのではないか、と考察しました。


以上です。

いかがだったでしょうか?

クレヨンしんちゃんや名探偵コナンについての考察もまとめましたので、よろしければぜひご覧ください。



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