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キネマが君を待っている

パリ在住の日本人女性作家に原田マハさんがいる。彼女はもとから作家として活動していたわけではなく、美術作品の研究や管理をおこなうキュレーターだった。美術に近い領域で活動していただけあり、アーティスティックに絡めた物語が多いことも特徴だ。

彼女が最近手がけた作品に『おかえり キネマの神様』がある。この作品にはベースとして山田洋次監督の『キネマの神様』という映画があるのだが、この映画にもベースとなる作品が存在する。それが原田マハさん著の『キネマの神様』なのだ。

今では聞きなれない「キネマ」という言葉は「映画」を意味する「シネマ」のことで、1920年に松竹キネマという映画館がつくられたことからもうかがえる。タイトルに採用されているとおり、物語の背景は昭和。今とは比べようもないほどお金も物も足りていない。

足りていないことを察すると、満たされたくなるのが人間である。昭和はお金も物も、そして映画というコンテンツも、前例がなくても人間が満たしていく時代だ。令和5年の大コンテンツ時代とは比較できないほど、なんでも許される。なんと豊かな時間なのだろう。

令和6年の昨今は何もかもが用意されすぎている。何をするべきなのか、逆に、何をしていいのかが解りにくい時代となってしまった。人生の道に迷ってしまったときや大きな壁にぶつかったときなどに、おすすめの時間の使いかたがある。それは、映画を観ることだ。

映画館へ行ってもいいしアマゾンプライムでもいい。そこには他者がつくりあげた圧倒的な物語が待ちかまえている。展開される物語に好みはあれど、寄り添う時間は裏切らない。今日のところはさっさと家に向かい、山田洋次監督の「キネマの神様」を見ることにしよう。

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