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ルノワールとパリに恋した12人の画家たち

横浜美術館で行われている「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち-オランジュリー美術館コレクション」に行ってきました。副題をちゃんと見ていなかったのですが、オランジュリー美術館が改修中とのことで、その素晴らしいコレクションの一部の来日が実現したそうです。そっか、オランジュリーだったのかあ。嬉しい限りです。


まずは、こちら、アルフレッド・シスレー(1839−1899)の『モルビュイソンからルブシエンヌへの道』。シスレーはとっても好きな画家の一人です。勝手な想像ですが、きっと誠実で純粋、嘘の付けない人なのではないかと思っています。そんな純粋な何かが感じ取れる絵、家に飾ってずっとそばにいたくなるような絵です。今回の展示では、シスレーはこの1点だけでした。


モネも今回はこの1点のみでした。クロード・モネ(1840−1926)『アルジャントゥイユ』です。モネは、やはり水面が大好きだったんだろうなと思います。とにかく水面に映った鮮やかな色彩の光、船、空の反射が美しい。睡蓮の連作を描き始めるよりも随分前の作品ですが、きっと常に変わり続けるこの水面の光の反射に、この頃からすでに魅了されていたのでしょう。


今回、アンリ・ルソー(1844−1910)が5点も展示されていて、楽しかったです。こちらはルソー『婚礼』ですが、他に画面いっぱいに大きく人形を持った女の子を描いた『人形を持つ子供』、荒れた海の中におもちゃみたいな船が浮かぶ『嵐の中の船』など、あまり見たことのないようなタイプのルソーの絵が鑑賞できたのは興味深かった点です。この『婚礼』も観てるとじわじわ来る絵ですよね。木の葉っぱや切り株などは結構細かく描き込んでいるのに、なぜか人物や犬などはどこか漫画ちっくな印象もあります。でもいいですよね、これ。夢の中の一場面を観ているような不思議なゆらぎがあります。不自然に大きな犬、惹かれます。


こちらは、パブロ・ピカソ(1881−1973)『布をまとう裸婦』。「青の時代」、「バラ色の時代」「キュビズム」を経た、「新古典主義」と呼ばれる時期に製作されたこの作品。この時代のピカソは久しぶりに観ました。とても大きな作品で、迫力があり、目が離せなくなる不思議な力のあるものでした。ギリシャ彫刻のようでもあり、顔立ちはアフリカ彫刻の面影も感じます。キュビズムの片鱗も見受けられるような手や体。キュビズムの分解がおわり、少しずつまた合成して、立体に組み立てるところなのでしょうか。何が惹きつけるのかよくわからないまま、しばらく動けなくなりました。


そして、私の今回の一番の収穫はこちら、シャイム・スーティン(1893−1943)の『七面鳥』です。私はこの画家の絵は初めてでしたが、今回スーティンは8点展示されていました。その中でもこの絵には、とにかくすごく衝撃を受けました。動物が死体あるいは食べ物としての肉に変わる瞬間を捉えた、激しい作品です。スーティンは子供の頃、肉屋での屠殺の瞬間を見てしまい衝撃を受けますが、その時に必死に叫ぶのをこらえたそうです。その後もずっとその時のことが忘れられず、絵を描くことでその時の気持ちを消化しようとしていたようです。私もそういう瞬間を何度か目にしたことがあるので、その気持ちはとてもよく理解できます。

スーティンのことは、ほとんど知りませんでしたが、このコレクションを集めた画商ポール・ギョームの画廊でアメリカ人コレクターのアルバート・バーンズが興味を持ち、作品を大量購入したことで、一気にスーティンの国際的な認知が高まったそうです。今、私の読んでいる本(エリック・カンデル『なぜ脳はアートがわかるのか』)にも、デ・クーニングはスーティンの影響を受け、抽象画にテクスチャーを加え、鑑賞者に触覚的な質感を喚起させる性質を加えた、との記述がありました。激しい筆致、鮮やかな色、美術史上も大きな画家だったのですね、勉強不足でした。

今回、とても面白いと思ったのは、こちら。これ、ミニチュアなんです(ここだけカメラ撮影可です)。ポール・ギヨームの自宅の絵の飾られていた様子がよくわかるミニチュアです。覗くとガリバーになったようで、楽しくて良い企画だと思います。こんなに名画に囲まれて生活できるとは、うらやましい限りですね。


私の自宅からは少し遠い横浜美術館ですが、いつも展示もとても見やすく、平日のせいかもしれませんが混雑もなく、ゆったりと鑑賞できることができるお気に入りの美術館となりました。最近、上野の美術館はどこも混んでいて、なかなか絵に集中するのも難しいですが、横浜美術館、おすすめです。みなとみらい駅からすぐです。

今回の「ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」は2020年1月13日までの開催です。ここには紹介しませんでしたが、ルノワールはもちろん、セザンヌ、マティス、モディリアーニ、キース・ヴァン・ドンゲン、アンドレ・ドラン、ローランサン、ユトリロも展示されています。ちなみに、音声ガイドは上白石萌さんが担当していて、彼女の声が会場の雰囲気にとてもあっていて、こちらもおすすめです。会期が残り少なくなりましたが、現在改装中でパリに行っても観られないオランジュリー美術館の展示、ぜひご堪能ください。

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