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踏み込み温床のデザイン


<踏み込み温床のデザイン>

200年ほど前に世界の温帯地域各地でほぼ同時に始まったとされる踏み込み温床は、世界的な小氷河期(日本では天保の飢饉)に対する農家たちの対応策だった。

そのため踏み込み温床が必要な地域は雪が積もる地域で、寒帯~冷温帯に位置する地域。日本では北日本や日本海側、また日照時間の少ない山間地に適している。そのほかの地域では簡易的なビニールハウスでも十分育苗ができる。また、メインの資材となる落ち葉やワラが十分に確保できることも条件の一つだ。

配置する場所は3月から5月中旬くらいまで続く育苗の間、太陽光が十分に当たり、水が安定して確保でき、常に目が届くところ・視界に入るところが良い。2月の寒い時期でもネコが過ごすようなところが参考になる。温度変化をできるだけ減らすために、雨風が完全に防げるところが最適で、ビニールハウスやサンルーム内が最適だ。
特に太陽光は苗の生育に限らず、温床内の温度上昇の熱源となる。そのため、日当たりはもちろんのこと、建物やアスファルト、水面の反射熱も取り入れたい。

落ち葉などの資材の持ち込みと育苗作業ができるスペースや生育した苗の持ち出しや終わった後の堆肥の持ち出しなどを考慮した配置も考えたい。

資材は主に落ち葉と切りワラ、そして米ぬかを使う。炭素源は微生物のエネルギー源(熱源)で、チッソは微生物の増殖源となる。一般的にC/N比が25程度がちょうど良いが、計算が難しいので先人たちのレシピを参考にすれば十分だ。
踏み込み温床は巨大なコンポストで、台所で利用するコンポストでは敬遠されがちなものも利用できる。石油資材以外は何を入れても大丈夫だと思えるほどだ。

微生物の発酵を活発化させ、発熱させるのに最適な水分量は60%。といってもよく分からないので、実際にはギュッと握ってジワッと水が滲み出るとか、ギュッと踏んで水がジュクッとなるという目安で判断する。
急激な温度上昇(60−70℃)が必要だが高まりすぎると微生物自体も死んでしまう。そのため長期的に中温(20-25℃)が必要な温床では、踏み込むことで空気を遮断し、やや嫌気状態でとろ火で燃やす技術である。温床の原理は微生物発酵によるものだが、この菌は落ち葉表面にいる菌を利用するので特に菌の添加は必要ない。

仕込む際に注意したいのは踏み込みしすぎて温度が上がりにくくなってしまうこと。また、米ぬかや水分にムラがあると温度が上がりにくい。

温度が上がらなかったり、下がってしまった場合は米ぬかと適度な水、そして空気を入れるために攪拌することでもう一度温度を上げることができる。逆に温度が上がりすぎてしまった場合は水を足して踏み込むことで抑えることができる。外気温や温床内の温度を見つつ、管理していく。
仕込んでから2~3日目には60度ほどまで温度が上がり、その後少しずつ下がって1週間ほどで30~40度に調整し、その後は適宜管理する。保温や保湿を高めるために段ボールや寒冷紗、ビニール、毛布、炭なども利用したい。

橋本力男式では、材料を一度枠外で発酵分解してから踏み込む。非常に簡単に素人でも発酵熱を得ることができ、熱が十分に上がってから枠の中に入れて温床とする。

踏み込み温床の原理を利用して、発酵熱温水も作れる。温床の中に黒いホースを通し、そのの中を水が通ってて、流れている間に温められるという仕組み。

好気性発酵は一気に温度が上がり、一気に下がる。逆に嫌気性発酵はゆっくり上がって、ゆっくり下がる。つまり踏み込み温床は、温度調整・空気調整・水分調整・資材調整を通して、まずは好気性発酵で温度を上げて、嫌気性発酵で維持する技術。これは味噌作りの麹菌と酵母菌、乳酸菌の発酵システムと全く同じである。発酵食品のように人間の手で最適な環境を用意し、維持してあげる必要がある

育苗が終えた温床は月に一度のペースで攪拌すれば、すぐに堆肥化して追肥や育苗用土にも利用できる。私がオススメしているのは育苗終了後に、土をかぶせて、蓋を開けておいて、それ以上は何もしないことだ。すると土着菌や昆虫が少しずつ分解してくれるし、夏にはカブトムシなどの甲虫類が卵を産み付けて、冬の間に食べて分解してくれる。そうすれば、来春には好気性発酵と嫌気性発酵、昆虫類のフンといったバランスのとれた最適な団粒構造の育苗用土になる。あまり難しく考える必要もなく、汗水垂らして働く必要もなく、生物多様性の力を信じれば、人間は楽をすればするほど豊かになることが分かるだろう。


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