イノベーターの品格
プロローグ
最近の世の中は、沢山の「イノベーション」で溢れている。私は、スタートアップ専門家、そしてイノベーション専門家としての活動をはじめて、10年以上経とうとしているが、10数年前にイノベーションについて本気で語ろうとした時に行ける場所は限られていた。
だが、今では○○○イノベーションフォーラムや、△△△イノベーションサミット、×××イノベーションネットワークがそこら中にある。「ソーシャル」系はとくにそうだけれど、これらの多くは、イベントやネットワークの素晴らしさばかり語るけれど、実際にどのようなイノベーションが起きたのかについては何もわからない。
イノベーションが世に溢れ、イノベーションをカッコいいと思う人がかなり増えたお陰で、イノベーションを愛する本気イノベーター達が居場所に困っている。
「ハリボテ」 イノベーション
上手いパンを食べた事のないシェフに、うまいパンを作らせるのはほぼ不可能なのと一緒で、イノベーションを感じて、参加して育てた事のない人にイノベーションはわからない。
イノベーション系イベントの中では、主催者や出資者がどれだけ多くのイノベーターにお金を出したか、何名がイベントに参加したかなど、イノベーションにあまり関係のない話を前面的に持ち出してくるパターンがよく見受けられる。それらのイベントでどんなアイデアが発表されたかは伝わってはくるものの、アイデアによってどんなイノベーションを起こした、などの説明はまったくない。そこでは、アイデアの「面白さ」だけが評価される。イノベーションを起こし育てるのに、なぜ「基調講演」が必要なのかまったくわからない。イノーベーションがまったくないがゆえに、主催者は一生懸命カッコつける。私たちの日常でも、収入の話や最近どんな高価な買い物をしたかとか、有名人が知人であることを自慢する奴は、カッコ悪いししらける。それと同じように私には見えてならない。
私たちは皆忙しい。忙しい人達は本質的なつながりを求めるので、そういった「ハリボテ」はすべていらない。たとえその場所に素晴らしいイノベーターが居たとしても、「ハリボテ」ですべて陳腐化してしまうのである。イノベーションを感じたり、参加したことがない人が、イノベーションについて語るイベントに付き合うほど暇はない。
型にはめられるイノベーターたち。
日本にも海外にも、外見が最優先な財団や企業、自分たちは指一本動かさずにイノベーションを語る団体はいくらでもある。彼らは皆、都合のよいイノベーションを求めるので、世の中のイノベーションイベントは同じようなアイデアで埋め尽くされ、「トレンド」があるぐらいだ。2年連続同じタイトルではイベントが出来ないといった理由で、昨年まで重要とされていた課題や技術とは違う「型」が製造され、そこに「イノベーター」達をはめていく。型にハマりたくないからと会社を辞め、起業する人も多いけれど、皮肉にも彼らもいそいそと型にはまりに行く。型の中だけでイノベーションを起こす様に要求され、従える人達だけが参加するイベントやネットワークはもう要らない。
本気イノベーターと口先イノベーター
イノベーションについて語る人たちが増えることは、大変嬉しい。けれど世の中には片手間でもなく、表彰されることが目的でもなく、イノベーションに本気で取り組み、本当に好きで活動している本気イノベーターがいることを理解して欲しいし、彼らを少しはリスペクトして欲しい。
口先だけの人や団体と付き合わなければいけないのは、どの業界でもどのジャンルでもある話である。ただ本気イノベーターは、仲間が欲しいので、口先イノベーターにも関心を持ってくれている。彼らは新しさや考え方の変化を取り込むには、本気度が高くない人とも付き合う必要があることを理解していてそこにはリスペクトがある。時に警戒はするけれど、少なくとも相手の信念やアイデアに土足でヅカヅカ乗り込み、ドヤ顔でこれがイノベーションだ、とかこちらのイノベーションの方が凄い等とは言わないのである。
本気イノベーター流のメソッド
本気イノベーターたちは、イノベーションは民主的で、参加型で、オープンな心構えであることが重要なことを理解している。イノベーターや出資者が凄いわけでなく、イノベーションが凄いのだ。イノベーションは単独では起きず、環境や仲間、リソースなどが揃い起こりうるもので、それらすべてを単独のネットワークやイベントで揃えられるという話はあり得ない。間違っても「招待制」とか「選抜」などといった手段、100あるアイデアの中から一つだけベストを選び、それだけをイノベーションとしよう、などといった不効率な考え方はしない。また勝手な基準で、自身の団体や活動に都合のよいアイデアを祭り上げることで、イノベーションの「定義」などしない。本気イノベーター達は、そういった行為がどれだけリスペクトに欠けているか理解しているのである。
商品化されるイノベーションとイノベーター
イノベーションフォーラムやサミット、ネットワークに限らず、少し古い資本主義を崇拝している人達によく見られるのだけれど、イノベーションやイノベーターを一つの商品、またはコモディティとして捉えるといった現象がある。VCや財団が沢山集まるようなイノベーションイベントなどに行くと、「最近イノベティブなスタートアップがいない」と彼らが嘆くのを耳にする。それはそうだ。いる訳がない。本気イノベーターたちはそういった場所を避ける。安売りをしないし、そもそも「売る」気はない。一緒にやろう、とならない話はすべて時間のムダと考えている。イノベーションもイノベーターも売り物では無いのである。
コミュニティを作れる大きな砂場(スナバ)が欲しい
今まで述べてきたような理由から、私は、イノベーションと名前がつくイベントやネットワークから距離を置くようにしている。ただ不思議なのは、そういった姿勢でいる方が本気イノベーター達と逢える機会が増えたのである。
私は、わたしたちイノベーションを愛する本気イノベーターには、誰にもジャッジされず、コミュニティーを作れる大きな砂場(スナバ)が必要であると考えている。私はコワーキングスペースを運営していて、そのコミュニティーの一員だけれども、日本や世界のつながるべき本気イノベーターたちにわかる旗が立っているスナバがあちこちに欲しいと考えているのである。こんなアイデアに少しでも共感していただける方がいたら、ぜひ議論し、繋がりたいと思っている。
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