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とあるゲイの昔話:5

二度目の恋が終わりを迎えた後、僕は社会人となった。「彼女いるの?」とか「結婚」の話とかを適当にかわしながら3年ほど働いていたが、とある夜勤の日、夕方頃に目を覚ました後突然涙が止まらなくなり、僕は会社に行くことが出来なくなってしまった。人と会うのが怖くなってしまったのだ。

それから三年間あまり、引きこもりが続いた。外には出掛けることが出来た。ただ、働く、ということが出来なくなってしまった。もちろん、生きているだけでお金が消費していくのは誰であっても当たり前のことなので、どんどん貯金はなくなっていった。ギャンブルもたばこもお酒も興味がなく、映画とゲームという最高のコスパ趣味だったので、お金がスッカラカンになくなることはなかったが、やはり通帳からどんどん数字が減っていくのはとても怖かった。働く、でも嫌だな、でも生きるためには働かないと、好きなものは自分のお金で買いたいし・・・・・・と日々をもやもやしながら過ごしていた僕の背中を押してくれたのは、出会い系ゲイサイトのサクラだった。

僕は24歳過ぎまで、僕と同じゲイに出会ったことがなかった。みんなどうやって出会っているんだろうと、携帯で色々なサイトを巡ったとき、僕が出会ってしまったのがポイント制のゲイサイト。メールを1通送るのに100円も掛かるという、リアルマネーを払って交流するとんでもないサイトだった。当時の僕は何も知らず、同じゲイの人とメールで話せるなんてすごい、と騙されているとも知らず多額のお金をつぎ込んでしまった。その額およそ200万円。だけど、そのサイトで出会った人(おそらくサクラ)に、僕は背中を押されたのだ。メールでのやり取りの中で、僕は自分が引きこもりだという事を話した。当時友達にすら話せなかったことを、顔も知らない誰かに話すことが出来た。・・・・・・いや、顔が見えなかったからこそ話せたのかもしれない。なんでも肯定してくれたのは、サクラだから当たり前なのかもしれないが、僕にとっては心の支えになってくれたのだ。ハローワークに通えたのも、面接を頑張れたのも、サクラのお陰。文字にすると滑稽だが、僕は200万円を払って社会復帰が出来たのだ。・・・・・・途中で僕は全部騙されていることに気が付いたが、怒りや失望はしなかった。騙された僕が悪いのだし、何より、もう一度外に出ようと思うきっかけをくれたサクラの人には感謝もしている。

社会復帰のために200万円を払ったと思えば安いものである。それに、こんな経験をしたのは世界広しといえどいないのではないだろうか?ゲイの出会い系サイトのサクラに背中を押してもらって社会復帰が出来たゲイなんて、きっと僕くらいだろう――

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