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とあるゲイの昔話:3





ダイキとの秘め事は、中学校を卒業する直前まで続いた。僕はもう、「ダイキ」のことを他の友達と同じ目では見れなくなっていた。ダイキのことを、いつの間にか好きになっていた。

当時、クラスの中で誰かと誰かがキスをした、という噂が流れたことがある。相手は男女。別におかしいことでもなんでもない。僕はそれを、僕とダイキで置き換えて考えた。男同士、キスをするのはおかしいこと。罰ゲームでもない限り、きっとみんなしたがらないし、気持ち悪がったりするのが当たり前だろう。でも僕は、ダイキとなら出来ると思った。罰ゲームじゃなく、本心で。そしてそれがいけない感情だということも、周囲の反応をみれば分かった。キスは男女でするもの。それが当たり前。・・・・・・そう現実を突き付けられているみたいで居心地が悪かった。

ダイキとは、キスをしたことはない。お互いにどう思っているのかも、聞いたことがない。僕の一方的な片思いなのだろうか、それを確認するのがとても恐ろしかった。だから僕は、中学を卒業するまで聞くことが出来なかった。

直接告白するなんて出来なかった臆病な僕が取った方法は、中学を卒業する前に買ってもらった携帯電話を使うことだった。ダイキとは違う高校に進学だったので、会おうと思わなければもう、二度と会うことはない。だから、例え嫌われても、気持ち悪がられても、振られても、きっと立ち直れると思った。

「好きです」

メールに打った文章はたったこれだけ。

「何が?」

ダイキからの返信もこれだけ。

「何でもない、忘れて」

告白をなかったことにしようとする僕。

「ああー、あれか。誰かと間違えて送っちゃった感じか?」

そんな間違いは絶対しない、送る前に何度も確認したのだから。・・・・・・ダイキの返信を見て、引き下がるのを僕は止めた。

「間違えてないよ。ダイキが好きなんだ」

これなら間違えることはないだろう。・・・・・・次に送られてきたメールをみて、浮ついた僕の心は凍ってしまった。


「俺、男だよ?」


・・・・・・俺、男だよ?そんなの知ってるよ。僕だって男だ。でも、ダイキを好きになってしまった。それを伝えたかった。付き合えるなんて思ってもなかったし。・・・いや、僕は恋愛に関してはかなりポジティブ思考(これは今後の人生で知ることになる)だ。もしかしたら、ダイキも同じ気持ちなんじゃないかと、ほんの僅かでも期待していた自分がいた。期待してなかったら、そもそも好きだ、なんて伝えない。

でも、そのメールの文章だけで分かった。ダイキの「好き」は僕の「好き」と違うということに。ダイキは、男を恋愛対象として見れないのだ。あの秘め事は、ただの好奇心だったのだろうか。それを追求する勇気もなく、目の前のメールをただ見つめることしか出来なかった。


「俺、男だよ?」


このメールに返す文章をその後、僕は思いつくことが出来なかった。告白は見事失敗、かなりショックで落ち込んだ。でも、不思議と涙は出なかった。告白のタイミングは正解だったのかもしれない。その後学校で顔を合わせるなんて気まずすぎる。今で言うところのLINEの既読スルーを、卑怯な僕は選んだ。その後、ダイキからも返信が来ることはなかった。


ダイキとは高校に入ってから別の友達と一緒に遊ぶことはあったし、成人式でも再会したが、お互い当時のことを話すことはなかった。幸いだったのは、ダイキが僕から告白されたことだったり、僕との秘め事を他の友達に喋らなかったこと(アウティングはなかった)だろうか。僕は初めて、男を好きになり、恋を知った。その相手がダイキで良かったと思う。


初めて男を好きになった初恋の相手は、やはり簡単に忘れることは出来ず、ダイキのことは今でも心の片隅でその存在がチラついている。今でも恋心があるわけではないし、率先して会おうとも思わないが、もしまた会うことが出来たら、酒の力を借りながらでもいい。当時、お互いどう思ってあんな秘め事をしていたのかを、黒歴史として語り合うのも面白そうだなと思っている。あれからもう15年以上経っているのだ。笑い話くらいにはしても良いだろう――

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