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【⻑江崚行×眞嶋秀斗】舞台『アーモンド』 対談インタビュー

「共感とは何か?」をテーマに、思春期の苦悩や家族愛を描いた韓国発の人気小説を舞台化。conSept「ヤングアダルト・シリーズ」第1作目、舞台『アーモンド』で、W主演、Wキャストを務める⻑江崚行と眞嶋秀斗にインタビューを実施した。
長江と眞嶋が演じるのは、感情を持たず他者とのコミュニケーションに悩みを抱える少年・ユンジェと、不遇な環境で育ってきた短気な少年・ゴニだ。対照的な二人の少年が出会うことで展開していく本作は、人との繋がりが不安定になりつつある現代社会で、「共感」の本質を問いかけてくれる。

(写真左より)
ながえ・りょうき 1998年8月26日生まれ、大阪府出身。最近の主な出演作に、SF時代活劇『虹色とうがらし』(七味役)、LIVE STAGE「スケートリーディング☆スターズ」(前島絢晴役)、映画「文豪ストレイドッグス BEAST」(江戸川乱歩役)など。Twitter
ましま・しゅうと 1995年8月8日生まれ、群馬県出身。最近の主な出演作に、舞台「結婚しないの!?小山内三兄弟」(小山内 外役)、円神プロデュース公演Vol.1『幕末バトルサークル』(沖田総司役)など。Twitter


【interview】

この作品に触れて、まず感じたことは?

眞嶋:脚本を頂く前に、原作を先に読みました。久しぶりに子どもの心に帰って読めた小説でしたね。まず読んでいて、ユンジェにすごく共感できました。彼は感情が分からないという役どころなのですが、どこか自分と似たところがあるなと思っていて。というのも、感情が分からないからこそ人の顔色を伺ったり相手の言葉をしっかり聞くんですよね。僕も多少なりともそういうところがあるから、共感しながら読めた印象でした。

長江:僕も原作を読ませていただいてから脚本に触れました。ユンジェは人との距離感や相手が求めてる答えが何なのか理解して話すことは出来ないけど、その代わり純粋に疑問を投げかけたり、より強く相手を理解したいっていう気持ちがあったり。そういうユンジェの在り方に触れた時に、自分自身が今までどうやって生きてきたかを考えさせられて。本当は考えなきゃいけないことから目を背けてしまっているんじゃないかとか、すごく考えてしまって。それはおそらく舞台を観に来る人にも感じてもらえることだと思うので、一つ一つ大事にして演じたいなと思いました。

今、長江さんがおっしゃったように、忘れかけていた大切なものに気付かされる作品になっていそうですね。

長江:今はSNSも普及して、簡単に他人の意見を取り入れられることが出来る世の中になっていると思うんですけど。昔は何か相談ごとがあった時はまず家族や友達の意見を大事にしてたでしょうけど、今は全く知らない第三者の意見も自分のところに届くようになってしまったじゃないですか。そういった意味で何かを感じないようにするとか、何かから目を背けるということはある種の〝防衛本能〟でもあるのかなとも思うんです。情報過多で大事なものまで見落としてしまってるんじゃないかという気になったので。そういった意味でのメタファーに、ユンジェという存在がなってくるんじゃないかなと思います。


お二人は今回ユンジェとゴニをWキャストで交代して演じられるわけですが、どんな思いで挑まれていますか?

眞嶋:正直僕はまだ戸惑いが消えません(笑)。最初に僕はゴニから演じているんですけど、彼も彼で色々なものを抱えたキャラクターなんです。稽古していけばしていくほどゴニの内面の辛さを感じて、思った通りに出来ないもどかしさや葛藤を持ったキャラクターだなと思いながら演じています。そう考えるとユンジェとゴニって、対照的なキャラクターですよね。正反対の二人が出会うからこそ物語が発展していくので、そのバランスを考えながら演じたいなと思います。

長江:本当に、なかなかない経験をさせてもらえてるなと感じています。そのありがたさを感じつつ、プレッシャーや不安はどうしたって付きまとってくるもので……。でも、分からないことがあった時に説明してくれてヒントをくれる演出家さんもいらっしゃる。純粋に今の自分に足りないものを補っていければ良い作品になるのかなと思います。戸惑いはもちろんあるんですけど、きっと面白い作品になるだろうなという漠然とした期待感があるんです。終わった後、「あぁ、すごく良い作品だったな」って思える未来をもうすでに思い浮かべているので。ただそれまでの過程が大変だなっていう(笑)、感じですね。周りも素晴らしい役者さんばかりなので、皆様のお力を借りて良い作品にしていきたいです。


お二人はこれまでご一緒されたことはありましたか? 

長江:舞台は一度だけですね。ここまでガッツリ共演するのは初ですが、同じ事務所で昔からお互いの性格は知っていました。秀斗くんは、すごく頭の良い人なんですよ。

眞嶋:いやいやいやいや! 急になに(笑)。

長江:ゴニもユンジェも、言ってしまえば大きなコミュニティの輪からは逸脱してしまっている人たち。そういう人たちの葛藤や苦悩、やきもきした感情って絶対にあると思うんですけど、稽古を重ねるごとにゴニの葛藤が秀斗くんの中にどんどん蓄積されていくのを感じて、本当に凄いなと。俺も頑張んなきゃって思いますね。

眞嶋:俺もだよ(笑)。「あれを俺もいつかやるんだ」って思いがあるから、稽古もいつも以上に緊張感があるんだよね。崚行は昔からすごく器用にいろんなことに対応していけるような人だと思っていて。先にユンジェを演じているのを見て、いろんな展開の中でユンジェの揺れ動く姿が軸になっていくんですけど、それを崚行が身をもって演じている姿を見るとやっぱり頼もしいなって思うんです。年下ではあるんですけど、稽古場の空気を引っ張っていける崚行がかっこいいなと思います。

一旦片方の役を集中して演じて、ある程度出来たら交代していくスタイルなんですね。

長江:そうですね。ただ周りの先輩方は、作品の中で一瞬だけ出てくるキャラクターとかも演じてくださっているので、そういう意味では僕ら以上にいろんな役を演じなきゃいけないんですよね。そこにちゃんと追いつかなきゃいけないなと思っています。

眞嶋:確かに、そうだね。

長江:やることいっぱいで大変だけど、とにかく楽しんでやっていきたいよね。


ユンジェはモノローグも多かったり、全体のセリフ量はもちろん、その難しい役どころも含め、苦労している部分はありますか? 

長江:原作の方がどんな思いでその言葉を選び、それを汲み取った翻訳者がどうその思いを日本語に当てはめたのかを考えていくと、言葉の一文字一文字を間違えず、大切に発していかないといけないなと思いました。「けど」なのか「けれど」なのか、お母さん「が」なのか、お母さん「に」なのか……接続詞とかもそうなんですけど、絶対に一つ一つの言葉にそれを選んだ意味合いや空気感があると思うので。もちろん脚本通りにセリフを言うのは当たり前のことなんですけど、それも含めてユンジェは気にしなきゃいけないところがたくさんあるので大変です。

言葉を大事にする役どころですしね。

長江:人の気持ちは分からないけれど、人を理解しようという気持ちはすごく強いんですよね。母親が古本屋を営んでいたということもあって、美しい文章に触れる経験もきっとたくさんあったと思うんです。意味が分からなかったとしても、いろんな文章に触れたからこそ気付いた言葉の美しさを知っていれば、言葉選びも変わってくると思うので。それが際立っていけばいくほどゴニの言葉の荒さや語彙の少なさが際立ってくるんですよね。ユンジェとゴニのどちらかが輝いてくれれば、もう片方も輝いていく相乗効果を常に持っている関係性な気がするので、セリフをちゃんと発しなきゃと思いますね。

Wキャストで同じ役をお互いに演じるということで、助け合える部分や共有出来るものも?

眞嶋:僕は稽古帰り、「今ユンジェやっててどこが大変?」ってストレートに聞きました(笑)。この役をやってみてどう感じているのかがすごく気になるし。

長江:演出の板垣(恭一)さんが、稽古していく段階で「このシーンはこういうことがしたい」とか、「こういうものを見せたい」というのを色々説明してくださるんですけど、ユンジェのこういうところが見たい、ゴニのこういうところが見たいっていうのは、入れ替えた時にも同じことを求める部分があると思うんです。逆に役を入れ替えた時、ここはこう見せたいという部分もあると思うし。そういった部分をお互いに伝えていければいいなと思いますね。

眞嶋:そうだね。表現の仕方が違っても、見せたいものは同じっていう。

長江:そうそう。作品を通して見せたいものは同じだったりするから。僕たちが仲悪くなったら、終わっちゃうから(笑)。きっと何も出来なくなっちゃうので、そこだけは避けたいですね。

眞嶋:仲悪くなる暇も無いと思います(笑)。

そういう意味でも、お二人が初対面ではなく昔からお付き合いがあって良かった部分も大きいのでは?

長江:どうなの?

眞嶋:僕は人見知りなので、よく知っている人の方が助かるっていうのはあります。話し掛けるまでに時間がかかったりするので……。崚行はね、誰にでもいけますから。

長江:俺もめちゃくちゃ人見知りだよ!? あんまり人の目を見て喋れないもん。

眞嶋:そうなの? 意外な事実だな……。

長江:人と話すときはどこかスイッチを入れる部分があるんだろうなって思う。

眞嶋:それはあるね。

長江:そういった部分では、お互い知ってる関係性なので、気を遣わなくて済むというか。言葉を選ばずに話せるのはすごく楽なのかなと思いますね。


稽古場はどんな雰囲気ですか?

長江:独特の緊張感があります。もちろん緊張感自体はどの現場にもありますけど、異質というか独特な緊張感があって……(笑)。この稽古場には、成長するチャンスがゴロゴロと転がっている感じがします。これを自分に取り込んでいければ、何かが変わっていくんだろうなと。ゴールドラッシュの時の、掘れば掘るだけ金が出てくるみたいな。「超楽しいじゃねーか!」の感覚にちょっと近いと思うんだよね。

眞嶋:分かる! 自分で探し当てたいですよね。

長江:そうそうそう。周りの先輩方はもうその金の採り方を知ってるわけで。言葉じゃなくて行動で、「金ってこうやって採るんだよ、見て覚えて」みたいなかっこいい背中も見せてくれるわけなんですよ。だから僕らは今回どれだけ金を持って帰れるかっていう勝負なのかなと思うんだよね。秀斗くんはどう思う?

眞嶋:この舞台は、例えば本屋さんのシーンで本屋を想像させるようなセットがしっかりとあるわけではなくて、かなりシンプルなセットになっているんです。だからこそ自分たちだけでどこまで出来るのか、どこまで観客にそのシーンをお届けできるのかっていうことを考えて稽古しています。限界は無いと思うので、やっぱり僕も色々トライしていきたいですし、諦めたくないなということは常に思いながら稽古に臨んでいます。先輩方のお芝居を見ていると、歩き方一つで目の前に本棚が見えてくるんですよね。なんでここに無い本棚が見えるんだろう……とか考えながら常に観察して勉強させてもらっています。

長江:先輩方は想像上のものに対して五感を働かせるのが本当に上手いんだって思いました。古本屋だったら古本特有の匂いが充満してるんだろうし、少し埃っぽい空気なのかもしれないし……。体全てを使ってその場所にいる姿を見て、僕もより明確なイメージを持って演じていきたいです。


エアーで演じる部分も多い作品のようですが、実際にあまり小道具とかも使わずに?

長江:そうですね。

眞嶋:ほとんど無いですね。

そこの難しさについてはどう感じてらっしゃいますか? むしろなんでも出来るからこそ楽しいと感じている?

眞嶋:それはありますね。体の動きでシーンを見せたりするので、ちゃんと丁寧にやらないといけないなと。例えばゴニは教室をめちゃくちゃにするとか、周りでジロジロ見てくる人たちに物を投げつけるシーンでは、今何を投げたのかを具体的にイメージしてやらないと、ただ物を投げつけてるだけに見えちゃうんですよね。

長江:板垣さんが、「物を見せてしまうとお客さんの想像力はそこで止まってしまうんだよ」とおっしゃってて。そういった部分でお客さんの想像力を信じて作り上げていくというか。やっぱり演劇はお客さんと一緒に空間を広く使って作るものだなと思うので、そこは僕らも明確なイメージを持ってやらなきゃいけないので大変な部分はありますけど、そのイメージを強く持てれば持てるほど、お客さんの想像力に任せられるんだろうなって思うんです。

舞台を観に来てくださる方々へ、こういうことを感じ取っていただけたらと思うこと、こういうものが届けられるんじゃないかとご自身の中で思っていることを、最後にメッセージとして頂けますでしょうか。

眞嶋:遠いところで起こっているようで、実はすごく身近なところで起こってると思わされる作品だと思っています。自分の人生を見つめ直す……というとちょっと重いですけど、例えば今辛い現実に直面している人、なんかちょっとモヤモヤしている人は、この作品から少しでも〝希望〟を受け取っていただければいいなと思っています。リアルタイムの〝今〟を映しているような作品ですので、今の日本、そして社会を僕たちと一緒に考えるような時間になればいいなと思います。

長江:舞台上に生きているキャラクターたちの中に、観ている皆様が感情移入できるキャラクターが絶対に一人はいると思うんです。僕らときっと同じような痛みを持っていたり、その痛みをどうにかして取り払おうとか、どうにか良い方向に持っていこうってあがきながら、必死に日々を生きていると思うんです。舞台上のキャラクターと自分を照らし合わせて、解決策を見つけていただけたらとも思いますし、癒やされてもいただきたいですし。お客様が前向きになるような……小さな一歩でもいいので、日々を生きることに対してポジティブになっていただければ幸せかなと思います。受け取り方は人それぞれですし、一人一人に真実があると思うので。ぜひ劇場へ足を運んでいただけたらと思っております。

【information】

舞台『アーモンド』

【日程】2022年2月25日(金)〜3月13日(日)
【会場】東京・シアタートラム
【原作】ソン・ウォンピョン
【翻訳】⽮島暁⼦
【脚本・演出】板垣恭一
【出演】⻑江崚⾏/眞嶋秀⽃(Wキャスト)
智順、伊藤裕⼀、佐藤彩⾹、神農直隆、今井朋彦

www.consept-s.com/almond
Twitter

公演一部中止のお知らせ


テキスト:田中莉奈

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