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【和田琢磨×松崎史也】舞台「薔薇王の葬列」 SP対談

2013年より「月刊プリンセス」(秋田書店)にて連載され、2022年1月に完結を迎えた菅野 文・作のダークファンタジー漫画「薔薇王の葬列」。現在、連続2クールで放送&配信中のTVアニメも話題の本作が、待望の初舞台化の幕を開けた。
主人公・リチャードと密かに心を通わせるも、運命のうねりに翻弄されてゆくヘンリーを演じる和田琢磨と、演出を手掛ける松崎史也の貴重な対談が実現。意外にも本作が初の本格的なタッグとなる二人、対談はいきなり俳優・和田琢磨のルーツに迫る予想外の展開に!?

(写真左)まつざき・ふみや 1980年3月26日生まれ、東京都出身。演劇企画 SP/ACE=project主宰。演出家・脚本家・俳優として活躍。最近の主な作品に、MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SPRING 2022~(演出)、舞台「機動戦士ガンダム00 -破壊による覚醒-Re:(in)novation」(脚本・演出)など。Twitter
(写真右)わだ・たくま 1986年1月4日生まれ、山形県出身。最近の主な出演作に、舞台「サザエさん」(磯野カツオ役)、「UNDERSTUDY/アンダースタディ」(ジェイク役)、「首切り王子と愚かな女」(兵士ロキ役)など。Twitter


【interview】

お二人は今作が初の顔合わせになるかと思いますが、松崎さんが演出を務めた今年4~5月上演のMANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~SPRING 2022~、こちらで和田さんが声の出演をされていましたね。

松崎:はい、その時がファーストコンタクトで、なので実質〝初めまして〟のようなものです。声の演技、すごく良かったです。

和田:本当ですか!?

松崎:おかげさまで、ばっちりハマってました。もちろん、琢磨くんの舞台はこれまで何本も拝見しています。

和田:そうなんですか! ありがとうございます。

松崎:舞台『刀剣乱舞』も、「ダイヤのA」The LIVEも。なので琢磨くんの出演が決まった時はすごく楽しみでした。柔らかさと知性と華が、こんなにも嫌味なく同居できているのが素晴らしいなと思っていて。

和田:うーん、嬉しいですね。

松崎:あの、ちょっと琢磨くんがどういう経緯で俳優になったのかを聞いてもいいですか?

和田:大したお話じゃないですけど、なんとなく東京に来て、カットモデルをやっていたんです。当時ちょっとヘアカタログとかが流行っていて。髪タダで切ってもらえるし、それで一回3000円もらえるし(笑)。

松崎:はははは!

和田:これはいいなぁと思ってやっていたら、その当時よく切ってくれていた美容師さんが「和田ちゃん俳優とかって興味ある? 僕のお客さんで芸能人のマネージメントやってる方がいるんだけど」って。それで一度ワークショップに行くことになったんです。
そうしたらいきなり〝ビルの屋上から飛び降りようとしている人を止める〟というシチュエーションで、どうやって止めるかという演技をすることになったんですけど、これが全然できなくて! なんとなく今まで、なんでも6点7点くらいを出せる感じで生きてきたんですけど、初めて1点台を叩き出しちゃって(笑)。

松崎:うんうんうん。

和田:「こんなにできないことが世の中にあるんだ……」って。それからずーっと「どうやったら自殺する人を止められるんだろう」って、それこそバイトの休憩中とかにも、その台本を読んで考えたりとかして。
そんなところから「やりたいなぁ」って思うようになっていって……それがきっかけです。

松崎:そのスタートの縁はすごいね!

和田:自分から、と言うよりは、周りに流されてきた結果の上に、って感じですね。

でも、もしそのワークショップで6点7点の演技ができていれば、役者というお仕事を選ばなかったかもしれないですね。

和田:そうかもしれないですね。できなかったからこそ、できるようになりたいと。当時は父親が自営業を営んでいたので、「何年か後には帰ってその仕事を継ぐんだろうな」という、自分なりのプランというか諦めのようなものがあったので、それを覆すくらい、できないことが現れてくれて良かったです。

松崎:いやーそっか! いや、この間の舞台『刀剣乱舞』もそうなんだけど、琢磨くんからは常に演技の根元にある〝芯〟みたいなものをすごく感じるから。そういう役柄が自然と来るっていうのもあると思うんだけど、これはきっと琢磨くん本人にある資質だよな?ってずっと気になっていて。

和田:ありがとうございます。僕もいろんな人から「松崎さんいいですよ」って伺っていたので、いつか何かできないかなってずっと思っていたんです。今作でご一緒できて良かったです。

松崎:でも今回、いい作品で出会えたなって思っています。

和田:そうですよね。

シェイクスピアの戯曲『ヘンリー六世』と『リチャード三世』を原案に、大胆なアレンジを施した漫画『薔薇王の葬列』。松崎さんもシェイクスピア作品を何度も演出されていますね。

松崎:はい。なのでもう、著者の菅野先生がものすごくシェイクスピア好きというのが、本当に端々から分かるんですよね。おこがましいんですけど「同志ですね」って思っています。
俺も〝シェイクスピアをそのまま演る〟というよりは、シェイクスピアを知らない今の人が観ても面白いというのをコンセプトにしているんですが、漫画『薔薇王の葬列』も、「ここが面白い部分なんだけど、ここって現代だと分かりづらいですよね?」ってところを、ちゃんと分かりやすく落とし込んで描いてらっしゃるんです。「そうそう、ここはオタクとして残さざるを得ないですよね!」みたいな(笑)。

シェイクスピアが狡猾で冷酷な人物として描いたリチャードを、『薔薇王の葬列』では男女二つの性を持ち、それをひた隠しにしている人物と大胆にアレンジ。そのリチャードを本作の舞台では男女Wキャストで描きます。これこそまさに演劇ならではの表現技法なのではないでしょうか?

松崎:そうですね。本作のプロデューサーと相談し、このキャスティングが決まりました。シェイクスピアのリチャード三世は背骨が曲がっていて、異形の者だ、悪魔だと言われているのですが、それをこの作品では男女両方の性を持っているというキャラクターに置き換え、〝天から与えられた呪いの象徴〟ということになっていると思うんです。
それを舞台で男女の俳優が代わる代わる演じるというのは、カンパニーに負荷がかかることも含めて、非常に楽しめるだろうなと思っています。ただ和田くんが一番大変だと思います。一番身近で影響を受けつつ、与えつつという役どころなので。

和田:はっはっは! でも、この手法は今の時代には合っているのかなって思います。

松崎:そうだよね。うん。

和田:適切な表現なのかは分からないですけど、ジェンダーレスだとか、セクシャリティの境界線みたいなものがはっきりしないのが今は主流になってきているので。そういう意味では男女二人いらっしゃることで、解釈の仕方も増えるのかな。僕らがもらえるものも倍増えるような気がしていて、とても楽しみですね。

松崎:そういうのが琢磨くんを好きなところなんですよ! この仕事をしていると、現在の変わりつつある潮流にどう誠実でいられるかってことがすごく大事で。でもたぶん琢磨くんって、相手が男性の場合でも女性の場合でも、どう真摯に愛し合えるかって、もう構えずにそういうスタンスでいてくれる。それはやっぱりね、これまでこの人はどう生きてきたんだろうなって、初めの話に戻っちゃうなー!

和田:ははははは! 松崎さん、さては俺のこと本当に好きだな!?(笑) ありがとうございます。

そんな和田さんのヘンリー役についてはいかがでしょうか?

松崎:ピッタリですね。ヘンリー六世は実在の人物でもあって、精神に異常をきたして狂ってしまった王なんです。それを菅野先生が新しい解釈で描かれているんですけど、嘘っぽくなってしまうと一気に作品が支えられなくなる難しい役だなと。
そもそも背負わなければいけないものが多い役どころで、でも表現の面白味としての余白もあるので、このポジションに和田琢磨という信頼できる俳優がいるというのは本当に良かったですね。一緒にやったこともないのにすでに信頼しているのもおかしな話なんですけど。ヘンリーには演出する上で色々と要求しなきゃいけなくなるから、なんとなくやってもらうような作品で出会うより、こういう作品でご一緒できてすごく良かったなと思います。

和田さんはヘンリーを現時点でどのように捉えていますか?

和田:今松崎さんがおっしゃったように、余計なことをして表現しようとすると嘘臭く見える、一番危ない役だと思っています。もちろんお芝居なので〝嘘〟ではあるんですけど、自分の中に一貫性がないまま、上っ面でやると本当に残念な登場人物になってしまう。すごく楽しみですけど、慎重にやりたいなって思っているところです。

松崎:表面だけ演じてもできちゃう役ではあるもんね。

和田:そうですね。悲劇のヒーローみたいに演じていれば、まあ〝っぽく〟は見えるんだと思うんですけど(笑)、それだけじゃない。しっかりしたお話ですので。

和田さんが昨年出演された舞台「首切り王子と愚かな女」。こちらの作品も〝寓話を通じて人間を描く〟という意味ではシェイクスピアに通じる部分もあるのかなと思いました。

和田:「首切り王子〜」は(作・演出の)蓬莱竜太さんがご自分で書かれたお話なのですが、元々モダンスイマーズ(蓬莱所属の劇団)の演劇は割とそういう〝人間の愚かさ〟といったところをよく描いてらっしゃるんです。まさに〝ダークファンタジー〟というか、世界観としては似ているものがあるかもしれないです。愚かなんですよね、みんな。それが人間らしくて愛らしいというか。

松崎:うんうん。

和田:それは通じる部分があるかもしれないです。

和田さんは普段どういったアプローチで役作りをしていくのでしょうか?

和田:そんなに明確な〝これ〟というものはないのですが、すごく大事にしているのは、周りの役者さんに当てられたセリフの、どの単語が自分に響くのか、ということ。そこは意識して聞いているつもりです。自分のセリフがどう、というよりは、周りの方が言っているセリフの何に自分が反応するべきか、気をつけて聞いているつもりです。

松崎:それは稽古場で、相手がセリフを発している時にってことだよね? 台本で当たりつけてってことじゃなくて。

和田:そうですね。それこそご覧くださった「ダイヤのA」は、その呼応が完璧だったんです。自分が反応する相手のセリフの中の単語と、それに応じて自分の役が発するセリフの呼応がぴったりだったんですよね、自分の中で。だから本当に何も考えず、ぱっと入れたというか。そういうのを、自分では当たり役だと思ってるんです。

松崎:なるほどねー!

和田:その感覚は常に持っていたいですね。あと、こういう原作モノでものすごく危険だと思っているのは、原作の漫画やアニメという〝正解〟が存在するので、自分の役とかセリフとか立ち方とか、その〝正解〟と比べて「どうしようああしよう」って作り方ばかりになってしまうと、すごく薄っぺらいものになるなっていうこと。そこはずっと気をつけています。もちろん、似ているに越したことはないんですが……。

松崎:そこを最終到達点にはしたくないって感じだよね。

和田:そうですね。

松崎:2.5次元舞台ももうだいぶ進化してきていて、〝声や立ち姿が似ている〟というのは当然のマナーっていう段階に来ていると思います。そこはもう全くゴールじゃなくて、そこが〝スタート地点〟という感覚で役者はやっている。その上で、どう自分なりの音や表現を作っていくか、ということだと思います。

それが〝そのキャラクターを生きる〟ということなのでしょうか。

松崎:そうですね。もちろん人によるとは思うんですけど。例えばその〝完璧さの度合い〟にもよると思います。もう〝完璧中の完璧中の完璧〟みたいな精度で出されたら、それ自体がすごかったりもしますから、それはそれでアリかもしれないですね。
でも、原作とは結構違うのに、お客さんもなんか好きになっちゃうパターンもあるんですよ。「いや、よく見たら違うよ?」って思うんだけど、でもなぜかその人に見えちゃう、それも役者の見事さだと思います。

和田:そうですね!

松崎:役者を見ていると本当に多様化してきているし、すごく進んでいるよなって僕は考えます。それにそもそも、僕は結構「2.5次元とシェイクスピアって一緒だな」って思っているんです。
シェイクスピアの何かを演じるとなったときに、もう資料ってたくさんあって、〝どういう人がどういう風に演じてきたか〟とか、作品の時代背景とか、調べることがたくさんある。それらを踏まえた上で、それを再現しにいくのか、それとも自分なりの表現をするのか。
そう考えると、2.5も資料に当たるのは当たり前。声優の人はこういう風に声を出している、こういう言い方をしている、アニメではこうだった、ゲームではこうだった、じゃあその中でどの表現を選んでいくか、どう自分の表現にしていくか。こういう作り方は何も2.5から始まったことじゃない、演劇としては一緒だとは思っていますね。

ありがとうございます。最後に、『薔薇王の葬列』舞台化に期待してほしいところを教えてください。

松崎:今回は本当にキャストが素敵で、その力強く楽しいキャストでやるのにふさわしい作品だと思っています。さっき琢磨くんが「愚かなのがいい、それこそが人間だ」と。本当に、例えば〝王座を欲しがる〟とか〝情欲に溺れる〟とかって、読者として読んでいれば「そうしない方がいいのに」って分かるんだけれども、それでも人間は何度でも過ちを犯してしまう。
だから、そういった悲劇を他人が演じてくれることで、自分の人生は少しだけ俯瞰で見ることができると思うんです。そういった〝欲〟が人間にはあるという前提で、少しだけ冷静にそれを見た方がいいんだ、ということを教えてもらえる。でも結局、そう学んだはずなのにそれでもやってしまうという愚かさや業も含めて、愛らしいな、愛おしいなって思うんですけど。
そういうどうしようもない愚かさや欲を俳優が熱を持って演じることが、一番届くと思って演劇をやっているので、そういう作品をみんなで作りたいと思っています。

和田:今回、リチャードを若月佑美さん・有馬爽人さんのお二人で演じられることで、お一人でリチャードをやる数倍にも、魅力的なリチャードが生まれてくると思っています。それに周りが感化され、翻弄されて、僕らもさらにキャラクターの魅力を引き出せるような感覚があるので、ぜひ有馬さんの回も若月さんの回も、二度ご覧になっていただけたら。きっとお客様の中の『薔薇王の葬列』の世界観がさらに広がるのではないかと思います。そういった場を提供できるように、一生懸命やりたいと思います。


【information】

舞台「薔薇王の葬列」

【日程】2022年6月10日(金)~19日(日)
【会場】東京・日本青年館ホール
【原作】TVアニメ「薔薇王の葬列」
【脚本】内田裕基・松崎史也
【演出】松崎史也
【出演】若月佑美/有馬爽人(Wキャスト)
和田琢磨
君沢ユウキ、高本 学、加藤 将、瀬戸祐介、廣野凌大、星波、藤岡沙也香、佃井皆美
田中良子
谷口賢志 他

6月18日(土)17:30公演、6月19日(日)13:00公演はライブ配信あり
詳細は公式サイトにて

officeendless.com/sp/baraou_stage
Twitter

TVアニメ「薔薇王の葬列」
TOKYO MX他にて放送&配信中。Blu-rayシリーズ好評発売中。

baraou-anime.com
Twitter


【present】

和田琢磨さんのサイン入りチェキを2名様にプレゼント!

応募方法:
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※当選者にはTwitterのDMにてご連絡を差し上げます
※応募締切:2022年6月26日(日)23:59まで



テキスト・撮影:田代大樹


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