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一週遅れの映画評:『最後まで行く』もちょっと早く行けない?

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『最後まで行く』です。

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 柄本明と綾野剛は両方ともめちゃくちゃ良い役者だけど、その両者が出ている作品はなぜかダメになる……というジンクスが私の中で生まれつつあります。いやサンプルが『ドクター・デスの遺産―BLACK FILE―』とこの作品の2つだけなんだけどさw

 悪徳刑事である主人公が、母親が危篤だって連絡を受けて飲酒運転していたところで人を轢いてしまう。その死体をなんとか秘密裏に処分しようとする中で、ヤクザから裏金を貰ってることが明るみになりかけてんてこ舞い……っていうドタバタコメディって軸がまず一本ありまして。
 もう一人、悪徳刑事がいるんだけどこっちはいわゆるキャリア組のエリートで、何十億という多額の政治献金を手中にしようと奔走する。ただその金を隠している金庫、そこを管理しているチンピラに裏切られてしまう。金を取り返すためにハチャメチャ血みどろバイオレンスを繰り出していくという軸がもう一本あるんですよ。
 
 不意に降りかかった不幸によって「死体を処理しなくちゃならない!」っていうちょっと後ろめたい喜劇って、まぁ面白いですよね。不謹慎さとハラハラ感が相まって。
 エリート刑事が実は悪徳にまみれていて、ヤクザとか他の刑事とかをボッコボコにブン殴るウルトラバイオレンスって、まぁ面白いですよね。気取っていても根っこは同じ人間なんだって寂寥感も相まって。
 
 なんでそれを一緒にしちゃうかなぁw
 
 まず良くないところが、妙に話が間延びしちゃうことなんですよ。これ12/28から1/1の朝にかけて物語が展開していくんですけど……5日間(まぁ実質4日かな)っていう時間経過が「なんかのんびりしてんなぁ」って気分にさせられる、しかも間にはエリート刑事の結婚式が挟まるっていうwなんじゃそりゃ。喜劇もバイオレンスは基本的には早い方が(あるいはめちゃくちゃ圧縮して展開される方が)面白いと思うんですよ。
 つまりは無駄に時間を経過させることで、設定から生まれる面白さがスポイルされてしまってる。じゃあそこをどう埋めてるか? っていうと後ろめたい人間の欲望、政治的暗躍、そして夫婦と子供への愛を隙間に詰め込めていくっていう……なんかこうすげぇダサいんですよね。
 そういうもの入れとけば重厚っぽい印象になるだろ、みたいな安っぽさ(特に政治関連周りね。献金と汚職の描き方が中学生の考えた”悪い政治家”みたいで超つまんないの)が全体にあって。
 その極地が、エリート刑事が上司をボッコボコに素手でブン殴りまくるシーンがあるんですけど、そこのBGMがクラシック音楽っていう。見ながら「あ、安直……」って開いた口がポカンですよ。違うじゃん! その演出はめちゃくちゃハイスピード暴力展開の果てに、作中でもっとも血みどろになるところで急に優雅さが差し込まれるから映えるんであって、「何か間延びした話だなぁ」って思ってるところにそんなことされても全然ダメなんだって!
 だからそのシーンを見て「あ、なんとなくでやってんな」と思うわけですよ。こういうバイオレンスシーンでクラシックとかみんな好きっしょwぐらいの浅はかさが丸出し。そういうのを見せられると「ダッセぇ映画だな、これ」って思ってしまう
 
 最後に主人公ふたりがバチボコに殺し合いをするんですけど、その決着が12月31日の24時/1月1日の0時にバックドロップっていうのも……まぁやりたいことはわかるんですよ。
 自分のバカだったり悲惨だったりする過去を、新年という瞬間に後ろへ投げ捨てることで振り払っていくぜ! みたいな意図があることは。でももう作品全体が「ダサさ」に支配されてるから、あーはいはい、そういうことやっとけばなんなく収まるって思ってんだろうなぁ。としか感じないんですよね。
 
 そこから倒したと思った相手が車で追ってきて。ずぅーっと真っ直ぐな道を並走して映画は終わるんですけど、ここはちょっと良かったかな?
 断ち切ったつもりでも因縁は余裕でお前を追いかけてくるし、それは決して離れず一緒に『最後まで行く』ことになる……ていうのは良かった。良かったんだけど……うーん、ラストが良かったから満足! ってなれないぐらいに、そこまでがダサくて退屈だったかな。
 
 要素のつなぎ合わせ方も良くないし、これやっとけばいいだろうって安易さがつまらない。総じてセンスに欠ける映画であったと思いました。なんだろうなー、disり芸ではしゃげる感じにもならない、ぼんやりと「つまんない」って感じは、やっぱり経過時間による間延びした展開によるところが一番大きいっぽいですね。

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「ヘブンズドアーで書き込んでおこう……”私は来週、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の批評を話したくてしょうがない、絶対する!”と」

 この話をした配信はこちらの20分ぐらいからです。


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