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一週遅れの映画評:『モエカレはオレンジ色』悪夢だって、忘れてしまう。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『モエカレはオレンジ色』です。

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 私はこういう風に映画の批評をするタイプの人間としては、たぶん珍しいくらいにこういう作品が好きなんですよ。つまり「少女マンガを原作として、100分前後の長すぎも短すぎもしないぐらいにまとめた、主演が売り出し中のアイドルか読モ上がり、相手役はジャニーズ所属率が高い、ローティーン前後をメインターゲットに据えた邦画」というのが。
 最近はそういう類の作品があんまりなくて、だから結構楽しみにしていたんですよ『モエカレはオレンジ色』を

 いやぁ〜〜〜……ひどかったねぇw。はっきり申し上げて非常にダメな作品でしたね。これ。

 なにがひどいってこの女よ! 主人公のこの女。コイツがね、こう「胸の前でカバンなんかを両手で持って、ちょこちょこちょこって歩いてくる」みたいな動きを乱発するんですよ! それがねぇ本当に不快で。いやね私だってそれが世間的には「カワイイ所作」だってぐらいはわかりますよ、多少わざとらしいけどその「わざとらしさ」を含めてカワイイことぐらいは。あっ、違うよ、そういう感じの「ぶってる」可愛さに対して不快感を覚えてるわけではないんです。
 あのねこれはとっても大事なことなんですけど。少女マンガのヒロインって、まぁ大抵はカワイイわけですよ。作中での設定が「普通の子」だったりいくらかファニーフェイスだったとしても、それを読んでる私は彼女たちのことを概ね「カワイイな」と思ってる。でもそれってたぶん「絵」の問題ではないと思うんです。
 ストーリーであったり、出来事であったり、周りの人とかその子の反応とか、もっというなら演出やコマ割り。そういったものが彼女たちを「カワイイ」ものにさせている、作品内の様々な要素がヒロインを「ヒロイン」に、つまり作中世界において最も「カワイイ」になるようあらゆるものが背中を押し上げてる。だから単純に絵柄とかの問題に収まることなく、私はその子を「あ、カワイイな」って思えるわけですよね。

 映画もそれと一緒で、脚本がコンテが撮影が衣装がメイクがライトが音声が編集が、ありとあらゆるものが主人公を「カワイイ」ものにしようとする力が働いている。だからそこにそのキャラクター像に沿った所作をしてみせれば、それはもう映画のなかで完璧に「カワイイ」ものとして君臨できるんです、当たり前だけど。
 だからそこにね、妙ちきりんな「ちょこちょこ歩き」なんかされても濁るだけなんだって! いやね、これが「あざといタイプ」みたいな設定ならそれが正しいですよ、だけどこの作品の主人公は普通か色々あってちょっと引っ込み思案な性格設定なんです。それがね「ちょこちょこちょこ(こうすればカワイイでしょ〜)」みたいな動きしてんじゃあねぇよ! なんじゃいその表面的な可愛さは、そんなもんを見るためにこっちは100分っていう貴重な時間を使ってるんじゃないの! 作品の持つ力学がひとりの女の子をどう「カワイイ」にしていくか? っていうのが見たくてわざわざ映画なんてもんを見てるんだ。だからそんな薄っすいもん出すな、撮ってる方もそんなもんを許してんじゃあねぇよ! バカ!

 で、そんな表面的なもんを通しちゃう作品だからか全体にそういう感じがあんのよ。ほら恋愛もんだし竿役が、竿役て、まぁいいわ、竿役が消防士って設定だから、なんかコイツ呪われてんじゃねぇのレベルに火災に遭遇する主人公に向かって「俺がお前を守る」みたいなことを言うわけですよ。他にも色んな場面でラブいセリフを吐くんですけど、それがことごとく何か変なんですよ。「いやその発言、状況とキャラ設定的にあんまり芯を捉えてなくない?」って感じがして。
 本当はね、ここで具体例を出したいんですよ。こうやって話すつもりだったから私も覚えておこうとしたの。でも一個も記憶に残ってねぇんすわ。理由はわかってて、こういうのって文脈記憶なわけで「こういう状況/こういう映像/こういうキャラ」っていうのとセリフが一致するから覚えていられるんですよ。それがチグハグだから、もうあっという間に記憶がほどけて消えていってしまうの。あれだ起きてすぐは夢の内容覚えてるけど、基本荒唐無稽すぎて10秒もしたら忘れちゃうじゃん、あれ、あの感じ。恋愛邦画の悪い夢、ずっかんどっかん魔神銃

 あと「それはちょっと無理だろ」ってのがいっぱいあんだけど、「竿役はめちゃくちゃシャイ」って設定なのに、いきなり主人公を「お前」呼びして頭ぽんぽん触ってくるとか、あとね主人公がある日風邪をひくんですよね、そこに竿役がお見舞いにくる。そこでヒロインは「ダメ、伝染しちゃうっ」て近づけさせないようにする、そこでこうギュっと抱いてですよ「俺に伝染して治るんなら、そうして欲しい」って言うんです。
 ヒュ~♪……とはならんだろ! というのものね、さっき言ったようにコイツは消防士でしかもめちゃくちゃストイックなんです。なんか「5分でも早く到着できれば、助かる命があるかもしんねぇ……」と言ったりして。じゃあ! お前が! 風邪をひいたら! 助からない命になる可能性、増えるんちゃうんかい!
 しかもですよ、いくらこれが原作に近いエピソードがあるとしてもいまは、コ、ロ、ナ、禍! 差し替えろよ、流石に。 見てる方としては「いや、あの、ちょっとそれはいくらフィクションでも飲み込めない状況すぎるんだけど……」ってなるでしょ!?

 あと最後に発生する災害が「巨大ショッピングセンターでガス爆発火災」なんですよ。いやいやいやいや無理無理無理無理。災害の規模がラブの踏み台にするにはデッカすぎるって、ドッカーン!じゃあないんだよ。もう笑っちゃったもんね「やりすぎだバカっw」って。そこに運悪く主人公とその家族がいるのもすごいんだけどさ、まぁそこから客が避難するじゃない。ここの場面でものすごい違和感があってですね。半ばにパニックなって逃げる人たち、煙に巻かれて苦しむ女性、それを助けにいく主人公……ん? あれ? さっきから「ショッピングセンターの従業員、ひとりもいなくない?」っていう。
 いやね、確かに従業員がちゃんといたら「助けてるうちに火に囲まれる主人公、そこに颯爽とあらわれる竿役!」っていう一番いいシーンが「避難誘導のため最後まで残ってしまった店長と、それを救出にくる消防士」っていう絵面に変わっちゃうわけだから、気持ちはわかる、わかるんだけど、いくらなんでもゼロはないでしょ、ゼロは
 それで一応数時間で鎮火はしてヒロインたちがイチャつきはじめるんだけど、あのさ「死傷者もおらず〜」みたいなセリフは確かにあったけど、巨大ショッピングセンターの爆発火災だよ? 普通は鎮火してから現場の確認検証しないとそんなの確定しない、っていうかどうやって「全員救助された」がその速度で確定できるんだよ。頼むからラブい空気出す前に職務を遂行してくださいよぉ!

 あとめちゃくちゃ笑ったのが、竿役の過去話でひとり交通事故での死亡者が出るんですけど。まぁ普通は「迫る車→轢かれる人のアップ(叫び声つきもある)→暗転と鋭いブレーキ音」みたいな感じじゃない? こういう恋愛ものだと。でも『モエカレ』は違ったね。普通に立ってる人にノーブレーキで横から突っ込んでくるトラック、そこに飲み込まれるように轢かれる! っていうホラー映画とかでよく呪われた人とかが、いきなり「ズバンッ!」とかいって轢き殺されるシーンあるじゃない(最近なら『呪詛』で見たな)、まんまあの感じで。「なんでそこはマジのホラー風演出なんだよwww」って笑い声抑えるのに必死だったわ。
 そこは面白かったです。完全に悪い意味でそこは面白かった。

 ……この作品の監督、5年前にも映画一本撮っててそれが実写『一週間フレンズ』なんですけど、私それも当時見に行ってこうやって喋ったと思うんだけど。確かあん時も結構な酷評をした記憶があるんだよね。
 だからたぶんこの監督と私はかなり相性が悪いんだと思います。村上正典、名前は覚えたかんな。

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 次回は『劇場版アイカツプラネット!』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの13分ぐらいからです。


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