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ひがしやしき『のあくま』が死ぬほど良かったので感想を書かずにはいられなかった。

 ひがしやしきさんの『のあくま』がはちゃめちゃに良かったので感想を書いた。
 
 私は音楽に全然詳しくないから的外れだったり失礼なことを言ってるかもしれない。音楽に対しては知識がなさすぎて、そういう恐怖からほっとんど言及したことがないんですけど、「いやっでも言いてぇ!」って気持ちが半分。もう半分は「将来的にひがしやしきって才能は大ブレイクする気がするから、その時に”私は初期から目をつけてましたけど?”ってドヤ顔をする」ためです!

01 diskonekuto冬
 前作『syaro』「Sentimentaru夏」と違うのは”切なさ”の在り処。「Sentimentaru夏」では

”白ワンピ 麦わら帽子
見当たらないけど今年も生きてる
カキ氷 遅めのランチ
宿題やり残して泣いてる”

 というリリックはノスタルジー/過去に置き去りにしてきたものを歌い上げるのに対し、ここでは

”幻想的で 結局は電気
スマホ落としたら出会えない運命
大規模な停電
結局はそんなもん”

 とこれから起きるかもしれないこと/未来のトラブルを予感する。
 夏は過ぎ去ってしまうものとして扱い、冬には「新しい年が始まる」という期待と不安として扱われる。そこにかかってくるのが

”オタクに冬は寒すぎて”

 というフレーズであり、変化を恐れる気持ちが滲んでいる。その「恐れ」は次の曲にも引き継がれる大事なテーマのように聞こえる。

02 otaku has gon
 このアルバムではこれが一番好きです、ていうかこれの話がしたくて感想書こうと思った。
 オタクのまま年取って体力も落ちて、オタクだった友達も脱オカしてしまって……そういう状況を歌ったところで出てくる

”明日からは集合体じゃないじゃない
でもつらいじゃない だってそうじゃない?
君と僕になってしまうから”

が泣ける。初視聴したとき「ふぐぅ」って声上げて嗚咽を抑える必要があったくらいには泣ける。むしろ聴きながらこれ書いてる私は涙目です。
 2ch的な「おまいら」という呼称でくくれたオタクの集合体があって、そこには「おまいら」でありながら自分も含む集合体であったわけで、そこから友人がオタクで無くなって「おまいら」では括れなくなったこと。もう集合体ではない「君と僕」という個人にしかなれないことを「つらい」と言い、「だってそうじゃない?」と問いかけても、問う相手であった集合体はすでに解体されて虚空に「そうじゃない?」という言葉が受け手がなく消えていく感じ。
 この「つらい」「悲しい」を口にし、でもそれを聞いてくれるはずだった相手がいないのが「つらい」「悲しい」。その「つらい」「悲しい」を口にしても……で延々とループしつつ、「だけどしょうがないよな」って諦めが見え隠れする感じが、すげー刺さる。
 変わってしまった君を思うと湧き上がってくる、その変化に対する「恐れ」を振り払うように歌う

”いなくなったオタクの代わりにやってく my life”

 その「そう決意するしかないじゃない?」になけなしの勇気を感じる。あと

”touch down 振り回す iphone(あいを)”
”自分で選ぶ loveのありかこそ自分で決める”

 の掛かり方とかも好き。
 『syaro』「Kakkoii 軽自動車」にあった

”乗ってる車で人を判断するような大人に
なっちゃあきまへんなとか
言ってたあいつも買ったベンツ
売り払ったデイズ”

 も思い出すけど、そういった「変わってしまう友達」を歌う精度が本当に高い。
 
03 nenetti in da SHIBUYA city
 無理して陽キャになろうとしても変われねぇし、変わりたくもねぇよ、という意志の発露。前二曲になった「恐れ」に抗おうとする気持ちがこういうメロウな曲調と揺らいだ感じになるあたりにやるせなさが詰まっていますねぇ。
 
04 つくばで死体遺棄
 個人的にはアルバムのなかでもっとも作りが甘いような気がします。いや「死体遺棄を歌ったら面白いんじゃね?」ってアイデアとそれを形にしたい、という気持ちはとてもよくわかる。ただ私の好みを言うなら「(元)彼女の死体を遺棄の手伝いさせるため差し出して、死姦されてる様子を見る胸に走る「しょうがなさけど……」と「死体だしただのモノだし」と「でも好きだった彼女の死体が犯されてるのはつれぇな」っていう感情の入り交じりが欲しかったなぁ~、というのとトラックはもっと淡々と「揺れるNBOX」を思わせるものの方がイリーガル感が迫ってきたのかも……?というように思います。
 ただこれ8曲目の「mASHIro」と繋げると良いんだよなぁ~。
 
05 川崎ほどヤバくなくて横浜みたいにお洒落でもない、ほんのり治安の悪い地元で暮らす
 ここがこう!とは言えないけれど全体を通してすごく好き。この居心地が悪いワケではないけど、どこにもいけそうにないこの場所から抜け出したいような、それでも抜け出せないような。希望と諦めが3:7で混じり合う感じに、その諦めを優しく承認しつつそれでも

”こうあるべきだというなら
転がる岩の僕らだ
こわばる顔は緩まず
夕暮れに歩く百鬼だ”

 と希望のある場所へ向かおうとする意志は捨てないことの示し方が良い。
 
06 作詞 簡単 方法
 面白い。

”さぞご立派な人生経験
お持ちのようで 
ほぼロリで いえい
お餅の表面
孤独のグルメ”
”説かれたくないわ
愛の価値
反論ないなら僕の勝ち
星のかーびぃ☆”

 あたりの歌詞はちょっと投げやり気味だけど押韻は維持するあたりとか、翻って「もっとトラックの感想くれよ!」っていう気持ちが伝わってくる。
 あ、あと合いの手、好き。
 
07 i know 求心
 この感想書くまでに『のあくま』を100周以上はしてるのですが(無職だから24時間『のあくま』かけっぱなしで3日とか過ごしたのでマジ)、これ繰り返せば繰り返すほど好きになってくる。『syaro』「Sweet 死んでいく」でも同じ体験があったので、私の中では「ひがしやしきのアルバムにはスルメ曲が絶対にある」というのが定説になりました。なったんでーすぅー。

”漠然とした不安 不安 不安 不安 不安 不安 不安 不安”

 のところは「わかるわー」と思いながら妙に気持ちいいし、

”ロスト青春バイト代を
後ろ向きに使う”

 のところも好きです。
 
08 mASHIro
 これはもう勝手にそう思ってる妄想みたいなもんですけど、この曲「別れた女」の歌じゃあなくて「別れる予感とその後の予想」な感じがするんです。
 ほらこう誰かと付き合ってても常に別れる未来は見えてるというか、「あーいまは仲良くしてるけど、きっとコイツの性格だと別れ際はこんな感じになるだろうし、こういうトラブルとかあって、ブロックとかされて、それで自分はこういう後の引き方してメンタル病むんだとうなー」っていうのが異様なリアルさで思い浮かぶじゃない?あの感じ、あの感じが全体を支配してる。

”そういえばあの喫茶店もういきづらいね
マスターに紹介したのがよくなかった
だってマスターに彼女どしたのって聞かれたら
音信不通ですわー
いって泣いちゃうし”

 とかすごいそれっぽい。あと

”返事の無いラインのルームで
スタンプ試すね
スタンプ試すね”

 のリアリティがすげぇ。ここ聞いて「あー……」って声出た。
 で、先に言ってた「つくばで死体遺棄」と繋げると「リアルな終わりを想像していたけど、現実はもっと最悪の最悪だった」って物語性が生まれて良いんですよね~。

09 学校が大好き
 「つくばで死体遺棄」よりもマジっぽい感じとトラックの印象で「あっこれがひがしやしきのホラーコアなんだ」って感じを受けた。情けないがゆえにより嫌なキャラクターに仕上がってるのが納得感があって良い。
 
10 大二病でもJ-POPしたい
 これがアルバムで2番目に好き。
 自分の作ったものがもっと届いて欲しいし、そのためには「誰にでも伝わるものを作らなければ」という想いに駆られる気持ちはものすごくわかる。私も同人誌に寄稿したりこうやってnote書いたりしてて「もっと読まれたい!もっともっと人の目に留まりたい!」と七転八倒してるわけで、これは何かを作ってる人には普遍的でそれでいて切実な悩みではあるわけで、それをちゃんとポップなトラックに乗せて歌えるところが良い。とても良い。
 それと私は常々「ミームになりたい」と言っていて、私の作ったものが文化とか社会とかにがっちり噛み合って、私のことを知らない人にも私の一部が入り込むように、私が死んだ後も私の一部が情報として埋め込まれた世界で永遠に在り続けて欲しい、と願っているのがその発言で

”誰かのヘッドフォンで
鳴らしたらきっと死なないから”

 に「そうっ!!!!!!」って叫んじゃいますよ。
 ……と、こうやって「わかるわー!」って思ってるところを

”わかる人だけ
わかられたくない くない くない”

 って刺されるんですけどねw
 
 以上です。
 いますぐ聞きに行って、お願い。

https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_mCg7602B-kYO2asU0AYIR4aiBUc1aSnos

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