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一週遅れの映画評:『地獄の花園』「ベタ」を代入するために。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『地獄の花園』です。

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 すっごいメタメタしい映画でしたね、『地獄の花園』。なぜか一般企業のOLがレディースの世界観を持っていて、しかも会社の規模がそのまま「ヤンキーとしての箔」になってるという、それでそのOL達の抗争にふらりと現れた新入社員が超強くて一気に社内を制圧していく……これが作中でも散々自己言及されるように、いわゆる「ヤンキー漫画(ろくでなしブルースとかビーバップハイスクールとかクローズとか)の世界観」そのまんまで、ていうか本作はダブル主人公なんだけど、その二人ともがそういった漫画を読みふけっている、っていう設定で。
 だからこの物語は「まるで漫画みたいだ、と自己言及する主人公(たち)が漫画みたいな活躍をする」という構造になってて……それがねぇ、カッコいいんですよ
 
 いや実際ベタもベタ、大ベタな展開に構図に盛り上げ方が頻出するんだけど。それを改めて真っ正面からやられると、これはもういままでどんなフィクションに触れてきたかに左右されるのだけど、やっぱ「かっけー!」ってなっちゃう
 それはメタ作品の強さで、結局その「ありがちだけど燃えるシーン」っていうのは、その作品だけのものじゃなくて同じような場面があった他作品の感動というか高揚をどうしても喚起させるんですよ。だからその「かっけー!」は作品単体の「かっけー!」じゃなくて、過去見てきた作品の分も乗っかった「かっけー!」で、だからどうしても心が揺さぶられてしまうんですね。
 
 その上で、この二人の主人公が「そういった漫画に憧れて強くあろうとした女」と「本当はめちゃくちゃ強いけど普通の人でありたい女」っていう真逆ともいえる性質で、まぁ当然の展開として前者は「強くなりたいのに負ける」、後者は「普通でいたいのに戦っちゃう」という展開をするわけで。
 ただねぇ、この捻じれ方が結構良いんですよ。フィクションに憧れて/忌避してそれになろうと願ったり、なりたくないと距離を取ってり、でもそうならない。人は憧れるものに決してストレートにはなることができない、って話をしていて。
 
 私の大好きなヤンキー漫画に『R-16』っていうのがあるんですけど、それに出てくる恩田寿という作中ほぼ最強のキャラが「人は時として、自分の憎んだものになるのさ」って言うんですけど、完全にその系譜で。片方は弱さを憎み、片方は強さを憎み、けれどそれぞれが弱いもの/強いものになっていってしまう。けれどやっぱりその裏返る物語もまた(いま『R-16』ではそう言ってますよー、と語ったように)「ベタ」の範疇なんです。
 あるいは『仮面ライダーアギト』の仮面ライダーになったもの/なりたかったもの/なってしまったもの、みたいなアングルとも見れるわけで、まぁ私が仮面ライダーを比較に出すってことはそれだけ良かった、ってことなんですけど。そういった意味でも「よくある」設定ではあるのですよ。
 
 ただこれがストレートに男子高校生ヤンキーの話だったら普通すぎる。「もうちょっと捻ってくんねぇと、過去の名作に太刀打ちできねぇーじゃん?」みたいな感想になるんだけど、これは「一般企業のOLがレディースの世界観」っていうめちゃくちゃな設定だから、そこにベタを代入するだけで異常なものが出力される
 そうなると前提がおかしい分だけ、そのベタさがスッと入ってきてかなりストレートな「かっけー!」を受け入れることができようになって、それが「いや、なんかイイんだよね」みたな着地になってくれる。
 あのあれ、昔AKBの『マジすか学園』ってあったじゃない?あれが良かった人にはちゃんと刺さるんじゃあないかな?

 
 それでこの作品、脚本がお笑い芸人のバカリズムで。それだからちゃんと「お笑い」としての引いた目線、あるいは関節の外し方みたいのが確かにあって、それが……うーん、想定の範囲内で、しかも作中ちょくちょく本人が出演してることもあって、ここまで述べた「ベタだけど良い」にはなってなくて「いや、そうオチつけるのはわかるけどさぁ……」みたいにちょっと「引いちゃう」ところがある……んだけど、その最後に「引いてる」っていうのが割と大事な部分として出てくるから、これはこれでまぁギリ成立してるのか、な?ってぐらいの温度になんとか着地してるとは思う。
 
 まぁいまの時期、新作映画の封切りが色々延長されたりしてるからね。見るもんなにもなくて困ってる人は(そんなヤツそうそういねぇだろ)見ても「金返せ!」にはならない、という辺りが妥当な評価かな。いや悪くはないです、そんな感じでした。

 ああ、あとアクション部分。あのね、思ってるよりもずっと良かった、そりゃあ「アクションバリバリで超すごい!」って程ではないんだけど、ちゃんとやろうとしているのが伝わってくるし、ちゃんと面白い動きをしていたと思う。そこは良い意味で予想と違っていてかなり満足できた。

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 次回は『アオラレ』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの20分ぐらいからです。


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