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一週遅れの映画評:『アオラレ』それはただの悲しい男。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『アオラレ』です。

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 これねぇ、なんか私の中では「悲しいお話」ってフォルダに入っていて……それも主人公じゃあなくて敵役?って言い方でいいか悩んじゃうんだけど、こう主人公を付け狙う男の方に同調する感じで「悲しいお話」だったのね。
 
 まぁこの主人公が結構なダメ女でさw夫と離婚調停中で息子が一人いるシングルマザーなんだけど、話を聞いてると微妙にだらしない。息子を学校まで車で送り迎えしてるんだけど、どうやらちょくちょく遅刻してるみたいで。とくにこの日はソファで寝ちゃって目覚ましかけ忘れて完全に寝坊するっていう。
 それでこの人、デリバリーの美容師を仕事にしてるんだけど、その顧客と約束した時間にも遅刻。それもどーやら1回や2回じゃないっぽくて。それで一番の太客から「もうあなたには頼まないわ」って見限られちゃって、離婚相手の夫とは財産分与でモメてるしシングルマザーだし訪問美容師なんて大して儲からないのに、もっとも当てにしてる常連を逃して「あぁもうこれからの生活どうしよう……」ってなってるのね。
 そうなってるところに青信号で前に全然動かない車がいて、遅刻とはいえなるべく急いで息子を送り届けたいから「早よ行けや!」ってクラクションをブッブー!鳴らして、それでも動かないから脇をすり抜けて発進する。ただその先はもうすっごい渋滞になってて、まぁ正直無理やり追い抜いた意味がマジで0なくらい。
 そこにそのクラクションを鳴らされた男が横にきて「さっきのはひどかったね。何かの間違いだろ?本当はもっと\プップッ/こういう慎み深い鳴らしかたをするつもりだったんだよな?」って言うのよ、でも主人公は「違うわ、わざとよ!あなたが動かないからじゃない!」って苛立ちをぶつけるみたいに言うの。それでもまだ男は「すまない考え事をしてたんだ、謝罪するよ。さぁこっちは謝った、何か言うことがあるんじゃないかな?」と主人公の謝罪もうながす、それでも「私は謝る気はない!」って突っぱねちゃうのね。
 まあもう「カチーン」ですよ。ここらかこの男はガンガン後ろから主人公に対して煽り運転するわ、ひたすら後をつけるわ、割って入ってきたそこら辺の人を轢く、主人公の友人を殺す、弟の婚約者を殺す、弟の火だるまにする、お前の息子もこうしてやるって脅す……と、まぁかなりめちゃくちゃやるんですよ。
 
 でもさぁ主人公、だいぶ自業自得感ない?いや、あのね、自業自得とはいえやりすぎ/やられすぎってのはわかる、わかるんだけど……この男の主張が「これは無礼な態度に対する教育だ」みたなこと言うのよ。あのねぇこれ私なんかすっごいわかるの。なんていうか「お前、そんなことして報復受けるって想像はないのか?私がわりとカジュアルに暴力を行使できるタイプだって考えもしないか?オーケーオーケー、じゃあ教えてやるよ!世の中には”私を舐めやがったな”っていう動機がめちゃくちゃ重い異常者がいるってことをな!!」って結構すぐ思っちゃうの。
 なんていうの私をバカにした報いは血と痛みで贖ってもらう、ああもういま頭に2~3人ぐらいの顔が浮かんでたりするんだけどw、そういう発想にすーぐ至るのね。
 そういう人間にとってはこの主人公の態度ってほぼ自殺志願者としか思えない。「ああ、そりゃコイツの血縁ブッ殺して”お前の行為が支払うべきツケ”の価値をわからせないとな」って共感していまうのよ。
 
 それでこの男が仕事中に事故でケガして、それで仕事をクビになり、まともな保障も出ず、奥さんが不倫して間男と家を出て離婚、新しい仕事も事故の後遺症が祟って長続きしない……そんな不幸な境遇なわけですよ。いやまぁその奥さんと間男を焼き殺して逃亡中なわけだけどw
 だからね、きっとこの男が仕事続けていたり、離婚してなかったりしたら、たぶんここまで他人を付け狙ってなかったと思うんです。なんていうかな、この男に起きた境遇ってまぁまぁまぁ言うても「よくある話」の一環ではあるわけですよ。事故で仕事をクビになるのも後遺症に苦しむのも浮気されて離婚も。それでもその「よくある不幸」がぜーんぶ「いっせーので!」って感じで一人の男に降りかかんなくてよくない?って思う……あ、いま要約してて気づいたんだけど体のトラブルで仕事クビ+後遺症+浮気されて離婚、て完全に私の人生じゃない……?ああー!だからか、妙に共感しちゃうの。まぁいいや。
 それでね、きっとその上でこの男は神に……それは邪神ね、だけど邪神でも神は神で、それに魅入られてしまったのかな?って思うんです。きっと男は不幸の連続攻撃で弱っていて、そこに何か世界に漂う「悪意」みたいなものが憑りついて、それでこんなハチャメチャ暴力マンになっちゃんじゃないのかな……そんな感じがするのよ。
 
 そもそも作品冒頭で「煽り運転の問題化」「社会のストレス増加」「人々の苛立ちはピーク」「暴力衝動の発露」みたいなニュースMADが流れるわけで、それでね印象的なのがこの男には名前が無いのよ。途中で名乗りはするんだけど偽名で、最後のエンドロールにも「Man」って書かれてるだけなんです。
 だからこの男って本当は誰でもいい、っていうか誰でもこうなってしまう可能性はあって。それこそ主人公だって平気で自分の苛立ちを他人にぶつけてるわけだから、コイツが襲う側になっていた可能性だって決して低くはない。
 
 そういった意味で、重なり合ってしまった不幸と、邪神に魅入られてしまったとしか思えない行動、タイミング……色んなものが噛み合ってしまった悲劇で、だから私はこれを「悲しいお話」ってフォルダに入れたんです。
 
 いやー、そうかぁ。この男の境遇、ほぼ私だったかぁ~~~~全然気づいてなかったわ……やっぱこうやって話すことって大事で、もしかしたらこの作品の男も、こうやって誰かに何かを言えたり、自分の不幸をフィクションに仮託して俯瞰で見れたりしたら、少しは慰められのかもしれない
 やっぱ「悲しいお話」でした、これは。

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 次回は『トゥルーノース』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの20分ぐらいからです。


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