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一週遅れの映画評:『search/#サーチ2』秘密の奥には、愛がある。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『search/#サーチ2』です。

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 いやー、めちゃくちゃ面白かったですね『サーチ2』! ミステリーとかサスペンス的な面白さで、事態が2転3転どころか4転5転するので……あの毎回言ってますけど私のこれ(映画評)はネタバレガンガンしていくから、マジで『サーチ2』に関しては見てから読んだ方がいい。未見のヤツはいますぐこのタブを閉じろ! あと画面の情報量がめちゃくちゃ多いから、吹き替え版がオススメだ! 字幕読んでる余裕はねぇぞ!
 
 という警告をしたところで、それでも私みたいな「ネタバレされてもすぐ忘れるから全然平気だし」って留まってる人のためにザックリあらすじを言うと。
 12年前に父親が死んで片親になった主人公。彼女の母親にもついに春が来て、新しい彼氏ができてどーやら再婚も考えているらしい。それでまぁ母親とIT系で働いてる彼氏が二人でコロンビアへ旅行に行くことになりました。
 母親が妙に過保護気味で、もう18歳になる主人公としてはウゼーって感じで結構ピリピリしてんだけど、まぁいうてそれも母の愛情だってことは理解している。だから旅行から帰って来るのを空港まで迎えにいくんだけど……最終便が着いても姿をあらわさない
 
 それでコロンビアのホテルに連絡を取るんだけど、英語が通じなくて(スペイン語圏だっけ?)翻訳サイトに頼って四苦八苦しながら得た答えは「その2人は荷物をすべて置いたまま外出し、戻っていない」という、つまりは何らかの事件か事故に巻き込まれて行方不明になってしまったのでは? となる。
 そこで現地の何でも屋、ウーバーイーツとかウーバータクシーみたいに普通の人が時給ナンボかで「あなたのお手伝いをします!」みたいのが普及してるんだけど、それに頼って母親を探してもらう。
 それと同時進行で母親と彼氏のGoogleIDとPASSを割り出して……ここが「パスワードをイチイチ変えてるハズがない!」つってセキュリティの甘いところから聞き出したパスワードをブチ込んだら、彼氏の方は通った! みたいな「あるある」もあったりすんだけどwまぁそうやってスマホのGPS情報から足取りを辿ったりするわけですよ。
 ところが! なんと彼氏のメールボックスを漁ったら「昼は女優、夜はバーテンやってます♡」みたいな女に、つい最近「君はパーフェクトだよ:)」みたいなメール送ってるわけwしかもその女の写真見たらちょっと雰囲気がママに似てるっていうw女の趣味にちゃんと一貫性があるタイプかよ? オイオイオイオイオイ、なんやコイツはカス男か? と思ってさらに調べたら、なんと詐欺の前科があって刑務所に6年ぐらいブチ込まれていたことが判明する
 これはママがこのカス男に騙されて、最悪殺されてるまであるんですけど!? とめちゃくちゃ調べまくった結果……ついにGPSの記録が途絶えた地点の、Webカメラ映像を発見する。
 祈るような気持ちでその映像を確認すると……なんと跪いてママに指輪を渡すカス男改め彼氏の姿が! そうか彼は更生して、本当にママを愛していたんだわ……と思った矢先に、突如車から出てきた男たちにさらわれるママと彼氏! マジで事件じゃん!
 
 えーと、ここまでで、ひのふの……6転してんなw それでね、ここまで全体の1/4ぐらいなんですよ! こっからもうグルングルン事態がひっくり返りまくるの、しかもきちんと伏線ありで! ていうかいまのあらすじもその「伏線」をちゃんと壊さないように話してることを、見てきた人ならわかるでしょうね。さらに、ほぼ終盤まで主人公はずっとパソコンの前にいんのね。すごない? わかったら早く見に行くんだ!
 
 で、そうやってパソコンの前で検索とメールとかの履歴、Webカメラなんかを駆使して、いわゆる「安楽椅子探偵」みたいに真相へと迫っていくのは前作の『サーチ』と同じなんだけど(あ、これ言い忘れてた。この『サーチ』と『サーチ2』は完全に独立した作品なので、内容的に一切関連してないから前作見てなくてもマジでまったく問題なし)、あれが2018年の作品だから5年たってるわけですよ
 そこで一番変わったのって「現実とネットの境界が、ますます曖昧になってんな」ってことで。前作では無かったウーバーみたいなもの、食べ物だけじゃなくて何でも依頼すれば届けてくれるし、タクシーだってウーバーで頼める。あらすじでも話したように「現地でどうしても調べたいものがある」って時に、ネット経由でウーバー何でも屋を探して利用できる。
 つまりネットを介して「現実」に影響を与える手段が多岐に渡って存在し、それが誰でも簡単に利用できるシステムがたった5年で当たり前に普及したということ。VRチャットとかメタバースとかで「ネット上の空間が、リアルと近似になりつつある」一方で、「ネットから現実にアクセスできる」ことも強烈に増えていて、それがどんどん境界を曖昧にさせているわけよ。
 そうね、例えばVRチャットで知り合った友達が昇進したお祝いにウーバーでちょっと良い食事を奢ってやって、オンライン飲み会した。翌日お礼でAmazonの欲しいものリストに入れてたマンガがそいつから届いた。とかってたぶん普通にありそうじゃない? そして普通にありえることでも、すっごいネットとリアルがごちゃごちゃになっている
 
 そしてそこから地続きの話として、リアルでの過去が強い連続性を持つようになった……昔って、という私の昔って20年とかなんだけどwもう進学したり就職したり、引っ越したり結婚とかしたら、だいぶ過去とそれに紐づけされている人間関係ってリセットされやすかった/しやすかったじゃない。「もう年に1回、年賀状をやりとりしてるだけで。それもある年から未着になって、どうやら引っ越したみたいだ」みたいな感じで。20年前だとEメールって手段が増えたけど、それだってまぁ簡単に変更されたりしてしまうわけよ。
 でもいまはSNSとか、それこそGoogleアカウントなんてよっぽどのことがなければ変わんないじゃない? そしてgmailの受信箱なんて探せばとんでもない昔のメールが発掘できるわけですよ(さっき見たら2010年のが余裕で残ってたわ)。いまの若い子なんて「小学校の同級生でLINEグループあります」とかあるわけよ、そしてLINEVOOMの投稿でいま使ってるインスタを特定とか簡単にできたりするんでしょ?
 そうやって物理的/現実に依存していた「過去」が、良くも悪くもネットでも担保されることで維持しやすいし、されてしまうようになった。それは古い友人と関係を保ちやすくなったて利点とか、デジタルタトゥーっていう欠点とかと表裏なんだけど。
 
 それでね、この主人公のお母さん。ある時期から過去の情報が一切見つからないのよ。さっき言ったように「Googleのアカウントなんてよっぽどのことがなければ変わんない」現在、ある時期にアカウントが変更されているのは、もう「何かあった」ってことを意味しちゃうわけですよ。
 そしてそこに「秘密がある」こと知ったとき、人は「隠さなければならない悪いもの」があると想像してしまう。だけどね、考えてみてくださいよ「隠したい秘密」が自分の悪い過去だったとして、どうしてそれを隠したいかっていうと「いま快適に生きる」ためじゃあないですか。だけどネット上にある自分の情報を全部消すなんて、めちゃくちゃめんどくさくて、しかも生活が不便になる。まぁやらかしたことがよっぽどの悪事ならありえるけど、そうじゃないならちょっと矛盾とまではいかないまでも、「快適さと不便さのバランス」が吊り合って無い気がする。
 
 だからそこまでできるってのは、自分のためじゃなくて、大切な愛する誰かのためなんですよね。
 ネット上の情報で「ここまでわかる! ここまでできる!」ってことを示すこの作品が、最後に「じゃあその情報を全て消したのはなぜか?」ってところに行きつく。見えてるものを全部埋め尽くしたとき、見えないはずの姿がそこに浮かび上がってくる……というのはめちゃくちゃ素晴らしい構成だったと思います。
 それを抜いてもミステリーとして超面白かったですね、大変良い映画でした……でもこれ、もしかしたら配信されたのをパソコンで見る方が没入感高いんじゃないかね?w

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 次回は『ヴィレッジ』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの16分ぐらいからです。


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