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一週遅れの映画評:『夜が明けたら、いちばんに君に会いに行く』映像とキャラクターの属性について

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『夜が明けたら、いちばんに君に会いに行く』です。


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 この作品はですね、「これから映画評とかやってみてぇなぁ~」って人がもしいれば、最初の1本にかなり向いている作品だと思います。
なのでやる気がある人はとりあえずここまででブラウザのタブを閉じていただいて、トライするのをオススメします。
 
 えっとね、まず主人公の女は「自分が周囲からどう思われてるか?」を過剰に気にしてしまっている。だから表情を隠すためにずっとマスクを着けたままなのね。で相手役の男は自由奔放なんだけどなぜか皆から好かれている。
まぁこの配置の時点でだいたいわかるじゃない、「あぁこの男によって、女が自己主張できるようになる感じね」って。
しかも映画開始3分ぐらいで、男が女のファーストネームを呼び捨てにするんですよ。で女はキョトンとする。「あーはいはいはい、あれでしょ? この二人って本当は幼い頃からの知り合いで、だけど女だけが忘れてるパターンだわ」って思うわけですよ。
 ええ、もう、まったくその通りのお話になるわけ。
 
 さて困ったぞ、と。これではストーリーを中心とした批評ができないではないか。となると映像面に注目するのが割と手堅いパターンで、というのも作ってる人たちだってバカではないので「このわかりやすいお話を、見れるものにするにはどうしたらいい?」って当然考えてる。当然、映像作品なのだからその工夫は「映像」にあらわれるわけです。
 そうやって見てみると、かなりロングショットを多用しているのが特徴的だと気がつける。さらにはクローズアップも使われているんだけど、それがかなり意図的に制限されていることにも。
 
 具体的にしていこう。男の出ている場面ではロングショットが多い。これはこの男の自由奔放さをあらわしている、つまりここにある規範やルールに縛られていないことで、広い視野と遠い場所への感心を持っていることを映像に込めた表現で。
 一方でクローズアップで映されるのは女ばかり、これは男と逆に「いまここ」でどう思われてるか? という狭い世界に捕らわれていることを意味するわけよね。ここでちょっと上手いな、と思うのが「ずっとマスクをつけたまま」という設定と噛み合ってることで。
マスクをしてるから、顔の確認できるパーツが目と眉しかないわけですよ。つまりかなり顔面に寄らないと、表情がわからない。だからどうしたってクローズアップで女を撮るしかないけれど、それが「この女は狭い周囲しか見れてないですよ」って部分とめちゃくちゃ相性が良くて。
 このロングショット/クローズアップを登場人物ごとの属性として使い分けるところは、近年のドローン撮影で普通のカメラでは難しい構図が使えることも手伝ってかなり良かったですね。
 
 でね、この作品はテーマに「自分から見た自分と、他人から見た自分は別物だよ」っていうのがあって。これが作中では映像としてのロングショット/クローズアップで「他者からの視点/自己からの視点」をあらわしているのと同時に、過去/未来といった「現在から遠い時間」を加えることによってまた別の「他者からの視点」を獲得しているのが面白くてですね。
 男は女の幼少期を知っていて。そのころはこんな、他人の目を過剰に気にする性格ではなかったと言うんです。つまり現在(=自分)からみた女と、過去(=他者)から見た女は別物で。
 一方で男は身体上に不安があって、自分の将来を心配している。普段はロングショットで映される彼の視界は遮るものがないんだけど、将来どうするか? って話で悩んでるときに、真っ暗な先の見通せない廊下で立ちすくむんです。これも現在(=自分)の状態と、未来(=他者)の前では別の側面があるよ、って話になっている。
 いやね、そのときに真っ暗な廊下の向こうからライトで照らしながら主人公の女があらわれるのが、もうそういう役目だっていうアピールが凄くて良いんですよw
 
 で、なんでこれが「いまから映画評とかやってみてぇ!」って人向きかって言うと、映画ってだいたい120分ぐらいでテーマを語りたいから、かなりの高確率で冒頭から序盤に「この映画はこういう話ですよ」って語ってくれるんですけど。
この作品、もろに「ゴッホの自画像と、ゴーギャンの描いたゴッホ」の比較して「自己像と他者像は違うんですよ~」ってめちゃくちゃわかりやすく言ってくれるの。だから最初にちゃんと読み取りの方針を提示してくれるから、すっごいやりやすいんですよね。

 あとこれは、あんまり良くないことを言いますが。
 正直、主演の男の子が演技ヘタなのよ。あのですねぇ……そりゃ映画としては役者の演技が上手い方が面白いんですけど、上手すぎるとそれで色んなところが誤魔化されてしまうんですよ。だからこうやって批評する時には、あんまい上手じゃない役者さんのほうがやりやすいという……ええ、だから今回はとても楽でしたね。とても良かったです。

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 次回は『戦慄怪奇ワールド コワすぎ』評をしております。

 この話をした配信はこちらの20分ぐらいからです。


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