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一週遅れの映画評:『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』飛行船に乗って。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』です。

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 こうやって「週に一本、新作映画を見て話す」っていうのを、もう8年近くやってるわけですよ(注:テキスト書き起こしは2018年から)。
 
 その中で思うのが、作品と視聴者、つまり私ね?映画と私の間には「チューニング」みたいな作業が確かにあるな、と。例えばリアリティラインであったり、倫理観であったり、BL風だったり百合だったり陰惨だったり日常系だったり。もっと言うと「なんだかよくわからない空気と間合い」みたいなものが確かにあって。それに対してどういう精神状態だけに留まらず、体調とか、それこそ今日なにを食べた?とかいまお腹空いてる?とかなんだか雨が降りそうだなぁ、みたいなところまで絡んでくるんです。
 そういった私の状況と映画の間で行われるチューニング、どんな名作でもそれに失敗しちゃうと「なんだかなぁ」という感想になってしまったり、逆にそこがビシッと合うとそれほどでもない作品なのに「私は好き!!」ってなるわけなんですよ。
 
 テレビアニメとかの利点は、そのチューニングが調整しやすことにあると思うんです。「第一話、第二話がこういう感じだったから、こういう態度で次は挑めばいいな」みたいに。もっと言うと私はニチアサ、プリキュアライダー戦隊プリマジミュークル(あとキラパワとかも)をずっと見ていて、4クール1年だけの話じゃなくて戦隊だったら「46年物語」とでも言うような歴史があるから「じゃあ『ドンブラザーズ』を見るにあたって……」みたいなチューニングができるわけですよ(まぁ往々にして良い意味で毎度毎度驚かされるわけですがw)。あといまの「46年物語」は『46億年物語』にかけた……まぁいいか。
 
 で、やっぱ映画ってそこが少し難しい。前情報、ティザー、監督あたりである程度の準備をしたとしても、どうやったって上手くいかないときはあるんです。これ原作がある作品だったとしても映像化にあたって解釈違いじゃないけど「あ、私と監督のチューニングが違う!」ということもよく起こるので……だからテレビドラマの劇場版は強かったりするんですよね。
 
 なんでこんな話をするかって言うと、先週見た『DEEMO』。めちゃくちゃチューニングが合ったんですよ!
 
 なんかね、小学生ぐらいの女の子が謎の塔みたいな建物で目をさますんですけど、そこにしゃべるぬいぐるみと話して動くクルミ割り人形と宙に浮かぶ妖精の姿をした匂い袋が出てくる。それが3DCGで描かれているんですけど、別にすごく良いわけでも悪いわけでもない映像で……なんかね、その感じがどっかしら子供の頃に見た着ぐるみの人形劇を思い起こさせたんです。
 劇団飛行船てわかります?子供向けに世界名作劇場あたりの作品をミュージカルにして着ぐるみでやってる、最近(と言ってもけっこう前からだけど)プリキュアとかもやってたりするんですけど。その劇団飛行船のミュージカルを『ジャックと豆の木』とか『ブレーメンの音楽隊』とかをちっちゃい頃……小学校入る前ぐらいかなぁ、親に連れられて何度か見に行ってたんですよ。30年以上前かよ、すげぇな。
 そう、『DEEMO』の映像を見た瞬間「バチッ!」って音がしそうなくらい、ちっちゃい頃の私が劇団飛行船を見に行ってたときの気分にチューニングが合っちゃって。それがねこの『DEEMO』を見るにあたって、大正解の姿勢だったんです。
 
 主人公の女の子って本当は中学生ぐらいなんですけど記憶を一部失っていて、それとは別にさっき話した謎の塔にいる主人公(小学生)がいる。まぁこの時点でその謎の塔はイメージの世界で、そこでなんやかんやすると記憶が戻るんだろうなぁ……みたいのはわかるじゃないですか、当然に。
 でも私は『ブレーメンの音楽隊』のお話を知っていてもミュージカル『ブレーメンの音楽隊』は面白く見れていたわけで、話の展開に予想がつくことと作品の面白さに、実はあんま関係ってないんですよ(というかこの時の私のチューニングが「そこ」だったという話)。だから『DEEMO』で先がどうなるかわかっていたって、それがどうした?の世界なわけです。
 
 そうやってファンタジー度の高い設定だから、塔の中で起こる出来事になんの説明もなくて。主人公は塔の天井にある天窓から落ちてきて、そこから元の世界に戻るには木を育ててそこまで伸ばすしかない。そして木の成長には音楽が必要なので楽譜を集めるんだ!って言われて。普段なら「なんでさ?」と思うところだけど、もうこっちは児童向けミュージカルのスイッチ入ってるから、そう説明されたらそれはそういうものだし、そこに音楽が合わさってきたら素直に「がんばれ!」って思ってしまうのよ。
 
 だからこの作品、元々はスマホでの音ゲーが原作なんだけど映画としてはそのぐらいの年齢な子が見るように作られているなと思えて、それがね本当にすごく良かったのよ。強いていうなら音ゲーとして楽曲を優先したいのは理解できるけど、本当にミュージカル風に歌わせて無理のある展開を強引に飲み込ませるパワーが見たかったな、とは思った。
 
 あと一か所めちゃくちゃ笑ったのが。塔に住む仮面で顔を隠した少女がいて、その子が天窓の鍵を取ってこようとする主人公に着いてくるのね。で、その鍵がなんでか知らんけど「落ちたら死ぬ!」的な、氷でできた一本橋の向こうにあるのよ。
 そこで主人公がその橋を渡る時、「さ、一緒にいきましょ」って仮面の少女を誘って、それに対しマジのテンションで「なんで?」って返すのよ。確かに元々この塔にいる少女にしてみれば100%「なんで???」だわな。それでもなぜか一緒に橋を渡るっていうね、いやこの「なんで?」が完全にコントの間で吹き出しちゃいましたね。
 
 でも見る前に考えていたより随分と満足して映画館を出れた作品で……なんかねぇもう一回見たら「あれ?こんなもんだったっけ……?」てなってしまいそうな気もしつつ、「でも今日の私は『DEEMO』を本当に楽しく見れたんだ」って感じでした。なんか不思議な気分。すごく満足。

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 次回は『ブルーサーマル』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの18分ぐらいからです。


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